幕間―知らない気持ちの進め方。
「恵理ちゃん、今日はどうしたの?」
「えへへー、ちょっとね」
放課後、部室に向かおうとするとき、美紅ちゃんに声をかけられる。今日は、確かにいつもとはヘンだったな。直接でもメッセージアプリでも、茜ちゃんと、いっぱいおはなししたから。それに、わたしも夢中になってたし。
「もしかして、好きな人でもできた?」
好きか嫌いかだったら好きだけど、美紅ちゃんの言ってる『好き』は、そうじゃないことくらいはわかる。恋とか愛とか、そういう感じの。そういうのに当てはめるには、まだ早すぎる。今日初めて会ったからっていうのもそうだけど、その気持ちがどういうのかも、上手くつかめてない。そもそも、……恋なんてしてる余裕なかったし、悩むよりも、先に進みたいって思っちゃうから。
「うーん……、好きとかっていうのはあんまりわかんないけど、気になる、かな」
「そっかぁ……、それで?何かあった?」
「えっとね、お弁当作ってもらえることになっちゃったんだー」
「え、すごい進展じゃんっ、どうやったの?」
気が付いたら、進めてたんだね、そんなとこまで。踏み込んだのは自分なのに、その距離にびっくりしちゃう。最初、リスさんみたいでかわいいって思ったけど、今じゃ、それ以上に面白いなって思う。純粋で、お料理だってすっごく上手いのに、それ以上に照れ屋さんで、……多分、元からってだけじゃなくて、何かしらの理由がありそうな感じ。それなのに、なんだか寂しそうで。それに無関心ではいられなくなるくらいには、……茜ちゃんのこと、好きなのかな。その意味は、全然わかんないけど。
「一緒にお弁当食べたんだけど、卵焼きすっごくおいしくてさぁ、お願いしたら作ってくれるってことになったんだぁ」
「相変わらず恵理ちゃんはグイグイいくねぇ、昨日までは何ともなかったのに」
「まあね、今朝会ったから、日焼け止め洗いに行ってた帰りに」
「え、えぇっ!?」
信じられないわー……、なんてため息交じりの声。正直、わたしもここまで来てるなんて思わなかったんだもん。でも、それ以上に、嬉しいのも本当。多分、初めて見つけちゃったんだろうな。茜ちゃんの、魅力とまで言っていいかはわかんないけど、とにかくかわいいところ。
「いやー、気になったことは飛び込んじゃうけど、ここまでとは自分でも思わなかったなぁ」
「はぁ……、相変わらず恵理ちゃんって突っ込んでくよねぇ」
「えへへぇ……、わたしのモットーだもん」
「……別に、褒めてるってわけじゃないからね?」
呆れられたような声は、まだ変わらない。知らないことがあったら、疲れるまで追いかけてみようっていうのは、わたしが白くて小さい病室から出たときに決めたこと。
昇降口までの長い道のりも、あっという間に過ぎてった。部活の時間、いっぱい汗かいてすっきりしてから、また考えよう。その時には、茜ちゃんの返事も来てるだろうし。
今回使わせていただいたキャラクター
齋藤美紅さん(製作:藍川海咲希さま)
メイン登場作:「好きになるってどういうこと?」作:五月雨葉月さま
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