しらない。
脱ぎ散らしてた制服をハンガーにかけておく。ご飯も研いで、炊飯器に一時間後に炊き終わるようにセットしておく。炊くので30分くらいだから、ちょうどその前の時間で吸水してくれるはず。これで、しばらくは時間が空いたから、しばらくは、考え事に没頭しても大丈夫。永遠に考え続けないといけなさそうなくらいの問題に、しばらくのめり込まないといけないから。七時にタイマーを掛けて、飲み込まれたときの命綱をかけておく。
まずは、参考になりそうなレシピを探さなきゃ。大方はどうすればいいかはわかるけど、梅の適量ってどれくらいだろうとか、形が崩れないようにするにはどうするんだろうとか、初めてのメニューだから、わからないことがけっこうある。レシピ本も持ってはいるけど、あったっけな。インターネットだと、同じメニューでも、結構人によって違ったりする。それ自体はおもしろいんだけど、誰かにとっての最適解を探すのには難しい。まして、今日初めて出会った人のことならなおさら。
焼くのと揚げるのがあるけど、恵理さんは揚げ物は苦手って言ってたし、焼きのほうがいいよね。あと、小麦粉をつけたほうが見栄えはよくなるけど、油を吸っちゃうし。……どうしようかな。直接訊いたほうが早いけど、なかなか画面に向き合えない。
送らないといけないといけないけど、既読、つけたくないな。考えて考えて、……メモ帳に打ち込むことを思いつく。
『今、レシピを考えてるんですけど、恵理さんの好みがもう少し知りたいです。
揚げるタイプと焼くタイプがあるんですけど、焼くタイプのほうがいいですよね。
それと、皮目のほうに小麦粉をまぶすと見栄えがよくなるんですけど、油を少し吸うので、それもつけないほうがいいですか。
あと一つ、大葉とかチーズとかを一緒に巻くのもいいと思うんですけど、何か気になるのってありますか。』
訊いておきたいことは、多分、これくらい。これだけコピペして、送信する。他のメッセージには、まだ、あまり時間を掛けなくて済みそう、かな。
『時間をくれてありがとうございます。決められたらまた連絡します。』
たったそれだけで、ほっと溜息が零れる。既読は、一気にはつかない。時間も、まだ七時には十五分くらいは余裕を残せた。タイマーはそのままにして、ちょっとだけ宿題も済ませておこう。
まだ、影がちらつかないわけじゃないけど、さっきよりはまだ、遠くになったかもしれない。その代わり、……恵理さんとの心の距離を、少しだけ、縮めてしまったような。