こうかい。
とりあえず、キャベツは何だかんだ便利だから買っておこうかな。それと、小鉢に入るようなのも欲しいかな。それは後で考えてもいいとして、問題は、……恵理さんに、頼まれたもののほう。
どんなのに、しようかな。魚介類の売り場まで来て、しばらく辺りを見回す。やっぱり夏がおいしくて、手が届きやすいのはアジだけど、イワシとかもいいかも。さっぱりしたのだと南蛮漬けとかも考えたけど、あんまり揚げ物も好きじゃなかったんだっけ。イワシだったら梅煮も考えられるけど、暑い中で煮物は作るのも食べるのも幸せにはなれなさそう。
梅肉巻きとかだったら、よさそうかな。チーズとか大葉とかでアレンジもできるし、酸っぱさも魚の油分で少しマイルドになる。いいや、じゃあ、それにしちゃおう。……その前に、恵理さんに話をしたほうがよかったかな。でも、ここでスマホを出すのもよくないし、店を出るのはもっと良くない。今日の分だけ買って、恵理さんの分は、帰ってからレシピで確認しておこう。今日の分だけでいいかな。今日のメニューだったら、ザワークラフトみたいな感じでキャベツの浅漬けとかがいいかな。あとは、色どりも考えて、ニンジンとかを入れてもいいかも。野菜売り場にまた戻って、ジャガイモとかピーマンとか、日持ちする野菜も仕入れておく。浅漬けの素はもうあるから、後は、特売になってた鶏のもも肉も。使いやすくてむね肉よりもおいしいから、つい頼りがちになっちゃうくらいによく使ってしまう。つい、二パックも買っちゃった。日持ちするわけじゃないし、早めに考えておかなきゃ。
長いレジ町の間に、もも肉の料理も考えておこうかな。この時間になると、結構人も多くなってくる。わたしみたいに制服を着てる人は、ほとんど見ないけど。
ちょっと、買いすぎたかもな、前かごに入れるのがちょっと大変なくらい、買い物袋が重い。入れ終わる頃には汗だくになって、息をつく。その間に、スマホを開く。恵理さんとのメッセージを開いて、悩みながら文字を書き進めていく。
『料理の件、イワシの梅肉巻きを考えてますけど、どうですか?レシピは後で送ります。』
りんりん学校のことも、書いておいたほうがいいのかな。幸いなのかは分からないけど、……まだ、恵理さんは見てないみたいだし。多分、部活の真っ最中なんだろうな。部の中でも、気が付いたら真ん中にいて、……わたしなんて、たくさんの人のつながりの中の一本に過ぎないはずなのに。ちょっと料理ができるからって興味を惹かれただけで、いつだって切れるような関係のはずで。それなのに、……それ以上を期待させてやまない。
忘れなきゃ、わたしの心の中に差した、明るい光のことなんて。帰り道を急いで、それを振り払おうとしても、……そんなの、晴れるわけない。
今すぐ閉じこもったって、学校にいれば恵理さんに会うだろうし、何故だかもっと触れたいと思うわたしも、確かに胸の中にいて。
あの時、見つかってなきゃよかったのにな。長すぎる一日のきっかけは、いくら後悔したって巻き戻されてはくれない。