かんがえ。
「えっと、その、……恵理さんは、なんか、食べたいのって、ありますか?」
「んー……、暑いし、さっぱりしたのがいいなぁ」
「そう、ですね、……、あと、材料、どんなのがいいですか?」
作るということになったら、楽しみの部分も広がる。わたしのお料理を、おいしく食べてくれた人だから、なのかな。多分、それ以外に理由なんて、ない、はず。
「うーんとね、やっぱり、お魚がいいかなぁ」
「そうですか……、じゃあ、よさそうなのあったら、後で送りますね、それで、大丈夫そうか見てください」
夏だと、イカとかタコもおいしいけど、お魚のほうか。今は、アジとかがおいしいはず、さっぱりしたのだと、お酢とか梅干しとか、酸っぱいものがいいかな。ちょうど、そろそろ暑くなる時期。夏バテで食べるのが辛くなるから、おいしいのができたら、もっと暑いときに自分の分も作ろうかな。
「うん、ありがとーっ」
「えっと、こちらこそ、ありがとうございます……っ」
お弁当箱をしまって、一息つく。何を話すかを考えるだけで、めちゃくちゃ疲れる。一人でいることに慣れ過ぎて、家族以外と一緒に食べるの、小学校のとき以来かも。
「いいよいいよ、あ……そろそろ、戻らないとだね」
「え、……そう、ですね……」
掛かっている時計を見ると、予鈴まであと五分。ずいぶんと、話し込んでたんだな、そりゃ、こんなに疲れるわけで。……今日、体育の授業がなくてよかった。ただでさえ、どうすればいいのかわかんなくなって混乱するのに。これじゃあ、多分何もできない。
お弁当箱をしまって、席を立つのも、恵理さんのほうがてきぱきしてる。でも、わたしを置いてっていくわけじゃなくて、嫌いになれるわけじゃなくて。
「ちょっと遠いから、急がなきゃだね。次、移動教室だったりする?」
「えと、それは、ないですけど……」
「よかったぁ、わたしも次は教室だし、一緒に戻ろ?」
「ええ、じゃあ……」
そう笑う顔が、まぶしい。悩み事とかも、あんまりなさそうで、羨ましいな。というより、ちょっと、……ずるい。真っ白なくらい、明るい場所にいたんだろうな、わたしがどれだけ望んでも、行けなかった日差しの中に。
さりげなく、繋がれた手。びくりと、体が跳ねる。手汗でじっとりしてるから、つないでほしくなかった。というか、繋がれることすら、想像してなかった。
「え、恵理さん……?」
「友達だもん、これくらい当たり前だよ」
「そう、ですか……?」
「嫌だった?ごめんね」
そうじゃなくて、ただ、そういうものなのかがわかんなくって、戸惑っただけ。そう言う前に、手を離される。さっきまでは繋いでほしくなんてなかったのに、胸の奥がひりひりする。見つめてくる視線が、痛い。見ないで、なんて言えるわけもなくて。
「そうじゃなくて、……その、びっくりしただけで」
「そうだよね……、ごめん」
別に、いいですって。そういうことも、なぜかできなくて。二つの足音だけが響く帰り道は、行くときよりもずっと長く思えた。