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ともだち……?

「茜ちゃんの卵焼き、すっごくおいしかったからなぁ~、期待しちゃうな」

「そう、ですか?……卵焼きって、個性出るから、あんまり合わないかもって」

「そんなことなかったよ、思ったより甘かったけど、おいしくてびっくりしちゃった」


 両肘で頬杖をついて、宝物でも見つけたみたいに嬉しそうな顔をしてる。さっきよりも、顔が近くなった、それだけなのに、……なんか、ドキドキしてる。持久走を走り終わった後は息も苦しくなるけど、今は、心臓だけが、変に高鳴ってる。そりゃ、美味しく食べてくれるのは、嬉しくない訳ないけど、なんか、そわそわするというか。


「なら、わたしも、嬉しい、です、けど……、あんまり、期待しないでください……っ」

「えー、何で?」

「えっと、その、緊張すると、あんまり、上手くできないから……」

「いつも通りでいいよ、無理言ってるのはこっちなんだから」


 踏み込んできたと思ったら引っ込んで、すぐそばにいるのに、不愉快にはなれない場所に居続ける。どういう風に接すればいいのか、自分でもわかんなくなる。


「でも、その、おいしくないの作ったら、悪い、ですから……」

「それだって、いつもと一緒でしょ?気負わなくてもいいよ」

「なら、ええと…‥、がんばって、みますね……」

「茜ちゃんのご飯はおいしいから大丈夫だよ、お腹いっぱいでも食べたくなるくらい」


 そういうの、さらっと言ってくるの、なんていうか、……ずるい。いつの間にか、わたしの奥深いとこに、入り込んできてる。なんで、わたしと二人きりでいてくれるんだろうってくらい。


「そう、ですか……?」

「うんうん、一口で好きになっちゃったよ」


 何の気なしの言葉なんだろうけど、言葉をとらえて、考えようとしてるわたしには、その言葉が心臓を射抜く。痛いはずなのに、ほんのり、甘い。さっきもらった卵焼きみたいに。体の中身、ぐしゃぐしゃにされて、嫌なはずなのに、嫌になれない。ほっぺの奥っ側が焼けて、顔が赤くなったまま、戻らなくなりそう。


「そ、そんなに、ですか……?だったら、嬉しい、です……」

「わたしも、……茜ちゃんのお料理、また食べたいな」


 レシピを教えるだけのつもりだったのに、いつの間にか作ることになっていて、心の中で、少しうきうきしてる。お料理のことを考えるだけでも楽しいっていうのはあるけれど、……また、小山田さんに食べてもらえるの、嬉しい。そう思ってるわたしがいることに、ぞわぞわする。

 あんまり、味はしないけど、ご飯を食べてれば、喋らないのにも違和感は持たれないだろうけど、……お弁当も、もうなくなっちゃった。


「じゃあ、小山田さんが、いいなら……」

「ありがとーっ!……あ、あと『恵理』でいいよ、そんな固くなんないでも」


 いきなり、そんなの言われたって。固く締められた瓶の蓋を開けるみたいに、言葉を出す喉に力が入る。『恵理』……、そうやって呼ぶわたしを想像しただけで、熱くほっぺたに、ますます熱がこもる。


「わ、わたしこそ、ありがとう、ございます、……その、恵理、……さん」

「あはは、そんなに緊張しないでよ」

「そ、そう、ですよね」


 そうやって笑う声も、優しい、……恵理さんは。呼び方を変えただけなのに、体が火照ってくる。「ともだち」なだけのはずなのに。

 でも、……恵理さんのほっぺも、ほんのり、赤く見える。

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