おさそい。
こんなに明るくて、今だって運動部にいるっていうのに。わたしになんて、話しを合わせようとしなくたっていいのに。半ば、無理やり箸を進めて、考えすぎそうな頭に栄養をあげる。三分の二くらいは、片付いた、かな。
「なんか、意外ですね……、一目でも、アクティブな感じなのに」
「そうかなぁ……、わたしも、運動するの好きになったのは最近だよ?」
「そう、ですか……?」
そう言われれば、肌は、そんなに日に焼けてる感じじゃないことに気付く。外でやる部活のはずなのに。しかも、夏だから、日差しもけっこうあるのに。
「ホントだよ、最初は全然だったんだけどね、少しずつできることが増えてくのって、すっごい嬉しいの」
「へ、へぇ……、そう、なんですね……」
どこまでが本当かは、よくわからないけど、少なくとも、外でスポーツをやってたことは、あんまりないのかなと推測する。さっきは、信じられないとは思ったけど、……ちょっとは、信じても、いいのかな。そうだとしたら、どうして、そうなったんだろう。それを訊けるほど、踏み込んだ仲になれた覚えはないけれど。
「茜ちゃんもどう?……嫌な事も、全部吹っ飛んじゃうよ?」
「いえ、その……、今は、いいです……」
……嫌なこと、忘れられるならいいけれど、運動なんてしても、嫌な事ばっかりなのに。疲れるし、汗はかくし、夏だと日焼けも痛いし、うまくできるわけでもないし。いつもよりはいいのは、一緒にやってくれる人がいることくらい。
でも、きっぱりと断るってことは、なぜか出来なかった。わたしの押しが弱いから、なんだだろうけど、でも、心の中で、少しだけ、『いいかも』なんて思ってしまっているのに戸惑ったから、かもしれない。
「そっかぁ……、まあ、これから暑くなっちゃうもんね」
「ええ、まあ……、そんなとこ、です」
「じゃあさ、お料理のこと教えてくれない?どうしても、食べるメニュー少なくなっちゃうんだよね」
「えっと、いい、ですけど……、何が苦手とか、ありますか?」
さっきは好き嫌いが多いって言ってたけど、具体的に何がダメだとかは、聞いてなかったような。その言葉で連想したのとは違って、ものすごく健康的だった。もう、小山田さんのお弁当箱は空っぽになっちゃってて、何だったのかはわかんなくなったけど。
「んー、お肉は大体ダメで、あと揚げ物もあんまり得意じゃないかな……、あとは、大体大丈夫」
「えっと……、なんか、珍しい、ですね……」
「あははー、よく言われるよ。脂っこいのが苦手なんだよねー」
わたしも、脂っこいのが嫌いだったときがあるけど、中学生のときだったし。高校生になってもそうっていうのは、あんまりいないと思う。……お肉が食べられないって時点で、メニューが大分限られちゃうっていうのは、なんとなく想像がつくけれど。
「お野菜とか、果物とかは、大丈夫なんですね」
「それは大丈夫、普通に食べられるのだったら」
「そう、ですか……、ちょっと、考えてみますね」
お料理するのは、楽しい。一つの材料だけみても、料理の方法だったり、味付けだったり、それによって切り方も違うし、組み合わせたら数えきれないくらいのものになって、面白いから。
小山田さんのレパートリーでも、きっと、おいしいものはいっぱい作れるはず。
「本当にいいの?ありがとーっ」
「いえ、……どういたしまして」
どんなもの、作れるかな。もうちょっとになったお弁当にも、想像を膨らませるのに夢中になって手が付かなかった。