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おはなし。

「そんな詳しいなんて、料理部とか入ってるの?確かあったよね?」

「えっと、入ってなくて、……その、わたし、見られてると、緊張してできないから……」

「そうなの?じゃあ、そういうの全部自分で覚えたんだ」


 小山田さんの目の輝きが、ますます増したような気がする。胸の中のざわめきが、堰を超えそうになる。この気持ちが、何なのかも分かんないけど、今すぐ逃げ出したくなるのに、このままでいたいような。ぐちゃぐちゃになったまま、地面からふわふわ浮いているような。


「そう、です……、本とか、そういうので……」

「そうなんだぁ、レシピとか今いっぱいありそうだもんね」


 料理に興味を持ってくれてるのは、ちょっと、嬉しいような、……少なくとも、わたしの話題になるよりは、ずっと落ち着く。わたしの話をするのは、苦手だ。会話のボキャブラリーなんてそもそもあんまり持ってないし、あったとしても、話したくないようなことばかり。


「そう、ですね……、今は、手軽なのも、詳しいのも、たくさんあります……」

「うんうん、すっごいよねー、もう覚えられなくなっちゃいそう」

「わたしも、全部ってわけじゃなくて……、だから、あんまりですよ」

「それでもすごいよっ、……じゃあ、他のとこ入ってるの?」


 逸れてた話が、元に戻ってきちゃった。どこにも入ってないって言ったら、笑われちゃうかな。理由を一緒にひねり出そうとして、頭の中が痛くなる。


「いえ、その……、部活、入ってないんです、あの、……家のこと、忙しくて」

「そっか、晩御飯も作ってるって言ってたもんね」


 言い訳に言い訳を重ねて、……そんなことを考える自分が、嫌でしょうがない。背伸びしたって、周りの人たちに追いつけない。生い茂る森の中では、日向は夢よりも遠すぎる。


「そ、そう……、その、小山田さんは、何か、やってるんですか?」

「わたしはねー、ソフトテニス部に入ってるんだー」


 まただ。目の前の顔が、輝くほどに笑ったのは。その光は、あまりにも眩しすぎる。こんなところ、あまりにも場違いな気がする。日陰は、ここにはない。すぐそこに、太陽があるせいで。


「そう、なんですね……」

「うんっ、体思いっきり動かすのって、すっごい楽しいよ?茜ちゃんは好き?」

「いえ、あんまり……、動き方とか、全然わかんないし、体育、ちょっと嫌いで……」

「あー……、わたしも嫌いだったときあるよ、周りだけすっごい軽々やってるの見ると、嫉妬しちゃうよね」


 その言葉も、あんまり信じられない。一番嫌いな理由も、ここでは言えないけれど。ご飯を食べてるはずなのに、考えすぎてお腹が空く。でも、喉には、通りそうにない。

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