明るく楽しくアットホームな『死』のない戦の最前線勤務。
明るく楽しくアットホームな『死』のない戦の最前線勤務
タイトルの狂い方がぶっとび
すぎて、もう言えることが少ない
怪作。
まぁこの人のは大抵そんな感じ
だけれども。
もう色々狂っていて
読者のSAN値がぱぁっと散るが
血縁のない年下の実姉が
すべて癒してくれる。
……うん?
https://ncode.syosetu.com/n1717ea/
『明るく楽しくアットホームな『死』のない戦の最前線勤務。』
なんて矛盾に満ちたタイトルだろう。昨今、タイトルを見ただけであらすじがおおむねつかめる様なネーミングが流行っているが、これだけ文字数を用いておきながら物語の概要がつかめないのは珍しい。
――『明るく楽しくアットホーム』――前半部だけ抜き取れば現代同居物ラブコメの気配がするし、――『死』のない戦の最前線勤務。』――後半をかいつまめば土煙香る戦記物かと期待を煽る。
しかしてこれは異世界転生主人公最強ファンタジーバトル小説である。
舐めてんのか。
もちろん看板に偽りはないし作者は(多分)大真面目だ。
落ち着いてあらすじを説明しよう。
主人公は幼いころ姉を亡くしてしまった一人の青年。姉の死もまた人生の一部として抱えながら大人になった彼は、ある日ぽっくりと死んだ後、異世界に流れ着き『ネクロマンサー』と化していた姉の手によって呼び寄せられる。
それも、かつて魔王と呼ばれた者たちの死体を掛け合わせた、最強無比、無敵無双の肉体をもって。
異世界は人間とモンスターの生存権を掛けた戦争の真っ最中であり、しかも『ネクロマンサー』――つまり主人公を召喚した張本人たる実姉――は、軍の旗頭であり、シンボルであるという。そして主人公が召喚されてすぐさまにも、敵は領地に進軍し、明日にでも両軍は接敵せんというではないか。読者は思わず手に汗握る。軍靴の音は地を揺らし、血と臓物で舗装された戦場で兵士たちは泥をすすり剣を握る。平凡でつまらない義務と責任に満ちた生活は終わりをつげ、英雄としての主人公の一大叙事詩が今まさに始まらない。
始まらない。
あえて詳細は語らないが、この世界の戦争に『死』の概念はない。そしてその一つ事が、私たちの知る闘争を、その様相を大きく変えてしまっている。戦場はどこまでも陽性の空気に支配され、アドレナリンと目的意識でつながれた戦友は決して失われることは無く、そこにはまさに、『明るく楽しくアットホームな『死』のない戦の最前線勤務』が存在する。命の頸木から『自由』になった闘争の、限りなく純化されたその有様はまさしく狂気と狂乱の世界だ。
さらに言うのなら、主人公はその自由な『最前線勤務』すら強制されない。
たしかに、主人公は無敵の肉体を持っている。しかしこの世界は『死』のない世界。無敵の兵器であろうが、無双の兵隊であろうが、何万と殺しても『死』なないのであるから、その強さは必ずしもなくてはならないものではないのだ。ましてやこの世界では生まれたばかりの彼にはしがらみも責任も何一つない。唯一の肉親である姉が彼に求めることも単純であり、決して戦えとも、助けろとも望まない。
『死』のない世界。無敵の力。あらゆるしがらみのない立場。
およそ生きる者であればこれ以上ないほどに拓かれた、『究極の自由』がそこにある。
主人公はあくまで、私たちのよく知るこの現代社会で暮らし、生きることに疲弊し、常識につながれた存在である。想像もしていなかった『自由』に、戸惑い、恐怖し、もてあます。
タイトルの矛盾が示す、転倒し、狂い、あまりにもかけ離れた価値観の世界。思考実験じみた、およそ想定しうる極地に至った『自由』を前にして、無敵の力と平凡すぎる魂を持った彼の行動。結末。そして決意。
ありふれた只の人間が、手を伸ばし、もがき、おぼれるようにして身に余る『自由』を乗りこなし、世界の果てに探し出す答え。
これは異世界転生主人公最強ファンタジーバトル小説である。
そしてすべての魂ある人間に問いかける、『自由』と『命』の物語だ。
「明るく楽しくアットホームな『死』のない戦の最前線勤務。」
https://ncode.syosetu.com/n1717ea/