5.千年ぶりの異世界召喚
玲奈を連れて行った皇太子、大神官や神官、騎士達がいなくなった儀式殿で、眉間に皺を寄せ、不機嫌な神官長(中間管理職)……
「いつまで、そうしているつもりだ……私の言っている言葉が、わかるのだろう?」
な、なぜ、バレた……?
焦って、立ち上がろうとしたが、 硬い床の上でジッとしていたせいか、ギクシャクした動きをした私に、見かねたのか騎士の一人が手をかしてくれた。
「あ……ありがとうございます?」
「……?」
「ちょうどいい、そのまま私の執務室まで連れて来なさい」
「モナーフ様……了解致しました。……グズグズするな歩け!」
うっわぁ、カンジわる~。玲奈はホウジョウの乙女とかいって好待遇だったのに……私は予想外の不審者だからか?
それとも、顔か?顔なのか?待遇の違いが胸の大きさだったら、泣いちゃうよ……
不機嫌な騎士に腕をつかまれ、鈴花はおぼつかない足取りで神官長の後をついて行った。
アーチ形のゲートを抜けて回廊を歩いていくと、やがて、目の前に荘厳な神殿と、豪華な二階建ての建物があり、その建物の二階の最奥にある、大きな両扉の前に着いた。
「何をキョロキョロと……モナーフ様、御前失礼いたします。どうぞ……」
鈴花の腕を掴んでいた不機嫌な騎士は、そう言うと、神官長の前に出て、ノックをしてから両扉を開いた。
「手間をかけてすまない、騎士キュリアス。この者の処遇が決まるまで、護衛と、人払いを……」
「ははっ!」
了承の言葉とともに、両腕を胸の前で交差させ、軽く一礼した。
「では、私は室内にて、モナーフ様の護衛を……」
「必要ない。貧相な小娘だ。心配せずとも、どうせ何もできぬだろう」
神官長の命令に、二人の騎士は執務室を出て行った。
きっと、扉の前で、警護するのだろう……
金髪青い眼の不機嫌騎士は、キュリアス……で、もう一人の茶髪騎士は、何て名前なんだろ?二人とも美形だったな
銀髪に緑の眼の神官長も整った顔だけど、ちょっとお疲れ……?
「何を、考えている……。ボーっとしてないで、座りなさい」
室内にある大きな執務机の先の、応接コーナーの様な雰囲気の長椅子に、テーブルを挟んで、神官長の対面に座った。
衝立とか、パーティションは無いんだ……でも、よく知らない相手と二人っきりなんて……襲われたら……
「衝立はわかるが、パーティションとは何だ?わからぬが、襲うなどと……子供に手などださぬぞ」
「え?神官長ってテレパス?心の声読めるの?」
「また、わからぬ事を……先程から声に出ておる。そんなことより、先ずは其方の名を教えよ」
「……リンカと、言います」
本当の名前、名乗らないのは、テンプレだよね……
ふむ……やはり、隷属の首輪無しに言葉が通じているようだ……何故か……
神官長モナーフは、目を細くして目の前の少女を見た。
「では、問おうリンカよ、お前は何者だ……何故言葉が通じるのだ?」
「何者って……一般人、普通の人間、平凡な女子ですよ!そんな事より、此処はどこ?ホウジョウの乙女って何?元の場所に帰してよ!!」
鈴花は神官長モナーフの質問に、質問で返した。
「……成功するかどうかもわからぬ、千年ぶりの召喚の儀だったのだ。元いた場所に送還する事など、誰にも出来ぬ……」
「そんな……帰れないなんて……これからだったのに……
やっと好きな事出来ると思ってたのに、どうして!!これから私、どうしたらいいのよ……帰してよぉ!!!」
「取り乱すでない!……心落ちつけるまで、しばし眠るがよい」
泣いて縋りつく私に、神官長が何か呟いて、顔の前で手が振られたのを最後に、意識が途切れた。
気が付いた時には、私は長椅子の上で横になっていた。
「気が付いたか?……泣く子供と話をするなぞ、面倒なことだ……」
眉間にしわを寄せ、神官長は不機嫌そうにしていた。
「そんな、子供じゃないよ。成人はしてないけど、自立だってできる……する予定だったんだよ」
「成人しておらぬとは、やはり子供ではないか。大体、その貧相な体で子供じゃないなどと……」
貧相?貧相??って、何?やっぱ、胸か?胸の大きさなのか!!
コンプレックスを刺激された鈴花は、眉を吊り上げ、ギンっと神官長を睨みつけた。
神官長はチラッと胸のあたりに視線を向けると、生温い目で鈴花を見るのだった。
「……話の続きをしても?……」
「……お願いします……」
それから、神官長とのなが~い話が始まったのだった。