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58.邂逅

 読みに来ていただき有難うございます。

 

 これまでの全話に、加筆修正をしておりますが、

 話の大筋は変わっておりません。

 

 これまでの、お話は……

 

 義理の姉玲奈の召喚に巻き込まれた形で、異世界転移をした鈴花だったが、

 召喚する国や人を信用せず、リンカと名乗っていた。

 リンカと共に異世界に来た黒猫のクロちゃんは、実は並行世界を管理する唯一神だった。

 

 リンカを保護した神官長の思惑により、皇女ユスティアの身代わりに『神の花嫁』として

 聖域に行く事になったリンカだったが、それをリンカは知らなかった。

 

 リンカの穢れ無き魂に触れ癒されたいと願う神々によって、身代わりでは無く、神の花嫁に選ばれたリンカを、聖騎士団のシリウス、フォルツァ、リビングストンは好意を持つのだった。

 特にリビングストンは、女装して迄側にいるほど、リンカに執着するのだった。


 リンカにウィル兄様と呼ばれるフォルツァは、聖域に共に行く事を決意するほど、リンカを愛するのだった。身代わりにする事を決めた神官長でさえ、リンカに好意を持つのだった。


神の花嫁の儀式の為に、皇女で騎士団副団長のユスティアと、世話係のメリルと共に白の塔にきたリンカは、大巫女ユーフェミアと、巫女エレンにも可愛がられるのだった。


日本へ遁走した唯一神を探しに行っていた闇の精霊王が好意を持ち加護を与えたリンカに、他の精霊王たちも加護を与え、次期精霊王候補の精霊達がリンカを護り、リンカと契約するのだった。


リンカの護衛をする為に女装した聖騎士ミランは、敬愛するフォルツァの為に、リンカを排除したかった。


リンカは好意を持ってくれている人達から異世界の常識を教わり、召喚した国を出て行く事を考えていた。向けられる好意を良い事に利用しているようで、リンカは自分の性格が悪いと思っていた。


過去に暴走し、人と混ざり合った精霊は、邪悪なものに変わっていた。それでも聖域に帰りたいと思っていた精霊は、聖域に行く事になるリンカに対して悪意を抱いていた。


『豊穣の乙女』として皇太子に庇護されていた玲奈は、『花嫁の儀』を監視する皇太子と共に、貴族令嬢が花嫁修業をし、巫女や神官、孤児の住む『白の塔』を訪れていた。

玲奈は精霊達に囲まれたリンカを見て、神の花嫁に替わりたがったが、皇太子から神の花嫁が生贄だと聞かされると、リンカに教えたいと思うのだった。



 リンカが精霊達と契約を果たした翌日……

精霊達に起こされたリンカが身支度を整え応接間に行くと、メリルが一人で黙々とミサンガを編んでいた。


「メリルおはよう~」


「おひゃ、お、おはようごじゃます」


ダイニング席に座ってミサンガを編んでいたメリルは、勢いよく立ち上がる際に危うく椅子を倒しそうになり焦ったあまり、カミカミの挨拶になってしまった。


「ぁぅう……」


プシュ~っという吹き出しでもついていそうに顔を赤くするメリルを精霊達が生温かい目で見ていた。


メリルの可愛らしい様子に、リンカは心の中でドンマイとエールを送るのだった。


「ティア様やエレンさんは?」


「ユスティア様、エレン様共に、昨日から此方には戻っておりません」


『花嫁の儀』を明日に控え、ユスティアは昨日から大巫女ユーフェミアと行動を共にしていた。儀式の間に入る事が出来るのが大巫女とエレンの二人だけなのだが、予期せぬ客人の対応をエレンに任せた為、ユスティアが代わりを務めていた。


「リンカ様、お茶と食事をお持ち致しますので、少々お待ちください」


「……メリル、一緒に食堂へ行こうその方が早いよ」


「リンカ様……護衛のミレーヌ様がまだ来ていないのです」


「一人じゃないし、メリルと一緒なら大丈夫でしょ?」


護衛も無しに部屋から出るのは……と渋っていたメリルだったが、食事をしたら直ぐに戻るし大丈夫だよ、と言うリンカに押し切られ、二人は食堂へと向かった。

精霊達は気配を消し、影からリンカを護るのだった。



 食事を終え部屋に戻ったリンカはメリルが入れたお茶を飲み終わると、ベッドのある部屋へと入り、今後の事を考えていた。


明日はティア様が『神の花嫁』として聖域に行くんだよね……付き添いの私は、聖域に行かないでいいっていう事だったけど、クロちゃん……ううん、シュタールさんは聖域で待ってるって言うし、精霊達は聖域でも一緒に居られるって言うし……

私も聖域に行くのかなぁ……

わからないけど明日には出て行くんだから、部屋を片付けて、荷造りもしておこう……



 リンカが『白の塔』に着いた時には、この世界に来た時に、着ていた服を入れたマイバッグとウェストポーチだけだった。でも今、クローゼットの引き出しには、神官長に貰った髪留めとユスティア様からいただいた衣装が所狭しと入っている。


リンカはその中から必要な数の下着類と寝間着、手拭、神官服とフードの付いた外套を取り出すと大きな四角い布……風呂敷に包むと、端を器用に結んで手持ち袋の様にした。


 ウェストポーチは太いベルトとして誤魔化せるだろう……マイバッグと風呂敷袋はどうやって持ち出そうかと、リンカは考えていた。


「う~ん……ウェストポーチが、青い悪魔のアイテム四次元ポケットだったら、いやラノベあるあるのアイテムバッグだったら……」


ウェストポーチと、マイバッグと風呂敷を交互に見て、ウンウン呻っているリンカに、木の精霊・アーベルが声をかけた。


『何を悩んでいる……』


「ひゃぅ……ごめ、ん……え、っとアーベル、だよね……」


契約してからずっと、精霊達は人型になっていた。どの精霊も、目を奪われる程に美麗な少年や青年姿だった。

彼等にまだ慣れていないリンカは、ゼロ距離で声をかけられ、つい変な声を上げてしまった。


深緑を思わせる翡翠の瞳に落ち着いた雰囲気のアーベルは、頼りがいのあるお兄さん的な精霊だった。


「う、うん……荷物がね、コレに全部入ったらいいのにと思って……、アイテ……」


アイテムバッグ……と続けようとしたリンカを遮る様に短絡思考の、比較的若い炎の精霊ファイアが口を出した。


『そんな小さな入れ物に入るわけがないだろう……リンカは可笑しなことを言うのだな』


「………バッグの中の空間を拡張するような……亜空間収納のような魔法って無いですか?」


ファイアを横目でチラッと見てから、リンカは精霊達に問い掛けた。


『空間拡張……亜空間収納……具体的にはどういった物なのか』


制作するのが得意な土の精霊クレイが、リンカに詳細を聞こうと詰め寄った。


「え、っと違う空間に収納出来る空間を作って出し入れしたい物を思い浮かべるだけで自由に出し入れ出来て、空間の中では時間が止まっていて、入れた時の状態で保存出来るっていう感じなんだけど……」


『ふむ……空間、それと時間停止か……』


精霊達が顔を突き合わせて何やら話し込んでいた。

暫くすると話し合いが終わったのか、精霊達の中でリーダー格の木の精霊アーベルがリンカに話し始めた。


『時空間に関する術は我らには能わない。それは祝福(ギフト)という神の御業……』


属性がある精霊には無属性の時空間術を構築する事は出来なかった。


『聖域で神々から祝福《|ギフト》をもらえばよかろう』


『リンカなら、きっとすべての神から余す事のない祝福と加護を与えられることだろう……』


祝福《|ギフト》を貰えばいいというアーベルの言葉に、光の精霊ルーチェは、リンカが神々の寵愛を受け数多くの祝福《|ギフト》を貰うだろうと口にしていた。


神王(シュタール)様の加護を得ているリンカならば、時空術を使えるのでは?』


雷の精霊トーネルがそう言えば、他の精霊達が思い出した様に同意していた。


『物は試し……リンカが欲しい空間収納とやらを思い浮かべ、創造して(つくって)みてはどうだ』


土の精霊クレイに言われ、リンカは空間収納……会員制の倉庫型スーパーマーケットを想像した。


広い倉庫の中には肉や魚を加工する場所や冷凍、冷蔵、保温が出来る保管庫があり、クローゼット、収納棚、必要に応じて中身を消去できるごみ箱も設置していた。

そして、収納した物の詳細がわかる様にインデックス機能のついた画面表示も出来る様に……愛読していた異世界の小説に出てくるようなチートな空間収納をリンカは創造したのだった。


着替えを包んだ風呂敷に手を添えたリンカが「収納」と呟くと風呂敷は目の前から消え、リンカの目の前には収納庫の中身がインデックス付きで表示されていた。


収納庫からフード付きの外套だけを取り出す事に成功したリンカは、マイバッグとウェストポーチも空間収納庫に収納するのだった。


 空間収納という時空間魔法を完成させたリンカを精霊達が褒め称えた。


『さすがは、神王(シュタール)様の愛し子……』


木の精霊アーベルは目を細めてリンカを見つめ感嘆していた。


『唯一神に選ばれし『神の花嫁』……』


水の精霊アクアは、うっとりとした眼差しでリンカを見つめていた。



 『シュタール様の加護』って……シュタールって……

クロちゃん……ううん、精霊達の様に少年かと思ったら青年に姿を変えた……でも、精霊じゃないって……


「アーベル、シュタール様って……精霊…なの?」


リンカはアーベルに、元の世界では猫の姿で、昨日は人の姿になって過去の傷を癒してくれたシュタールについて聞くのだった。


『シュタール様は唯一にして無二の神……』


『世界の調和を統べる神々の王……』


アーベルとアクアの言葉を聞いたリンカは、猫だと思っていたクロちゃんが、神々の王様だったと知り、次にあった時にどう接すればいいか、わからなくなるのだった。




************



 私物を全て空間収納の中に仕舞ったリンカは私室を出て、メリルがいる応接間に顔を出した。

 

応接間では、朝と同じ様にメリルが()()でダイニングテーブルに腰掛け、ミサンガを編んでいた。


「リンカ様、ご用事はもう済まされたのですか?」


メリルはリンカに声をかけると、ミサンガを編んでいた手を止め、お茶の用意をしますね、と言って立ち上がろうとした。


「あ、いいよ、いいよ、まだ喉渇いてないし……ミサンガ編むの、上手になったね」


「リンカ様の教え方がよかったんです」


「え~、そんなことないよ……私も作りかけの分、早く完成させないと……」


リンカは服の隠し入れから取り出す仕草で、空間収納に入れてあった作りかけの組み紐を取り出し、メリルの向かい側の席に腰を下ろした。

それからしばらく、二人は黙々と手作業をするのだった。


髪を纏めて結わく為の組紐を二本、それとミサンガを三個完成させたリンカがメリルに声をかけると、メリルはミサンガを二個作り終え、新たに別なミサンガを編むために糸を選んでいた手を止めた。


「っあ、リンカ様申し訳ございません……」


「ううん、邪魔しちゃってごめんね……」


「いえ、作り終わったところでしたから大丈夫です」


「そう、ならいいけど……あのね、贈り物をするのにラッピングってどうすればいいかな?」


「らっぴんぐ……ですか?」


「あ~……っとね、贈る物を包むのってどうしたらいいかな?小さな紙袋があればいいんだけど、無ければ大きな紙でもいいんだけど……」


「紙というのは……ご用意する事が難しいです……」


メリルは申し訳なさそうに俯いていた。 


「無理言ってゴメン……う~ん、そしたら薄い布とか端切れってあるかな?」


「それでしたらご用意できます。お待ちください……」


そう言うと、メリルは精霊達に一礼して、部屋を出て行った。

暫くして、色鮮やかな端切れを抱えたメリルが部屋に戻ってきた。


「リンカ様此方でいかがでしょう?」


「ふぁあ~メリル、ありがとぉ~」


『その布切れをどうするのだ?』


好奇心に満ちた眼で炎の精霊ファイアがリンカに話し掛けた。


「この端切れで小さな袋を作って、中にプレゼントを入れます」


「ぷれぜんと……?ですか」


「うん。包装紙の代わりに小袋にして、その中に贈り物を入れて渡すの……」


メリルに説明しながらもリンカは空間収納から取り出したソーイングセットの針と刺繍糸を使い端切を小さな袋に縫い上げていた。


縫い目の大きさと、縫い代の処理を気にしなければ小さな袋を縫う事にそれほど手間はかからなかった。


リンカは出来上がった布の袋にそれぞれ同系色の組紐、ミサンガ、飾り紐を入れると袋の口を閉じた。


「ハァ…どうしよう……」


中味が入った袋を前に、小さな溜息をついてリンカは小さく呟いていた。


「リンカ様……?」


「メリル……騎士団の、リビングストン隊長に会う事って、出来ないかな?」


「騎士団の隊長様ですか……?」


「明日の『花嫁の儀』が終わったらお城に戻るよね……会って直接渡せればいいんだけど、届ける事って出来るかなぁ……」


 突然キスしようとしたり、ちょっと難ありな人物だけれど、リンカはエドワード・リビングストンの事を嫌いに思う事は無かった。それどころか、側にいると安心するような気すらしていた。


「メリルも、明日の儀式が終わったら神官長とお城に戻るのでしょう?」


「は、はい……その様に申し付けられています」


メリルはリンカに、皇宮にある()殿()に戻る事を

躊躇いがちに答えるのだった。


「あの……エレン様にお願いしては如何でしょうか?エレン様でしたら、夕刻には此方に様子を見に来られる、と……」


「そっか、エレンさんなら大巫女様にも……」


メリルの提案に、リンカが良い考えだと返事をしている途中で、朝から姿の見えなかったミレーヌがドアをノックすると直ぐに部屋に入ってきた。


「ごっめ~ん、遅くなっちゃったぁ~、リンカおはよぅ~」


 朝の、もう十時を過ぎているというのにミレーヌは悪びれる事も無く、のんびりとした口調で挨拶をしていた。


「……今日は来ないのかと思ったよ」


「えぇ~、そんな、リンカってばひどぉ~いぃ……」


そう言うとミレーヌは口を尖らせ、首を左右に振るのだった。


「まぁ、いいや……それよりもリンカ、リビングストン隊長に会いたいって言ってたよね?今なら執務室に居ると思うけど、連れて行ってあげるわ……どうする?会いに行く?」


「えっ……いいの?」


椅子に座っていたリンカは喜色を浮かべミレーヌの顔を見上げた。


「私を誰だと……?」


女装していても、ミレーヌは聖騎士団の一員であり、騎士団管理棟の造りには詳しく隊長の執務室が何処にあるのか見当がつくのだった。


「リビングストン隊長の所に行くわよ……リンカ、ほら、早く」


「まっ、待って……メリル、ちょっと行ってくるね」


リンカはエディの為に編んだ組紐の入った袋を手に、ミレーヌに続いて部屋を出て行った。


 ミレーヌはリンカがリビングストンと()()()なれば、フォルツァ先輩も目を覚ましてくれるだろうと考えていた。


 女装してまでリンカの傍でベタベタしていたリビングストンなら、男に戻った今リンカを前にして何もしないわけがないだろう……男を惑わす淫婦め……


ミレーヌは後ろについて歩くリンカを、不快害虫を見る様な目で見ていた。




************




 【聖騎士団白の塔支部】の隊長執務室でリビングストンは()()()でいた間に溜った書類を捌いていた。


普段であれば数日手を付けずとも、書類が滞る事など無いのだが、皇太子の急な来訪に警備体制を強化し、皇太子の護衛の近衛隊の騎士への対応にも追われていた。



明日の『花嫁の儀』が過ぎれば、付き添いとして塔に来訪した『迷い人』のリンカは、神官長と共に皇城内の神殿に戻ってしまう……


「リンカ……」


リビングストンは書類を手に取りながら、小さく呟いていた。

今手の中にあるのは、除隊申告手続の書類……それは操られていたとはいえ、塔の中で女性に手を出そうとしていた部下から提出されたものだった。


リビングストンは、除隊申告書類を右手に掲げ魔力で出した炎で消滅させた。

代わりに自身の除隊届を封入した手紙を、騎士団本部に提出する書類とともに密封し伝令に渡すのだった。


 伯爵位を持つリビングストンは、聖騎士団を辞めても……いいや、むしろ代理人任せの領地経営に自信が取り組むべきなのだった。


聖騎士団の隊長としてではなく、伯爵位を持つ(庇護できる)男として、リンカに求婚するのだ……


決意を込め、右手を握り締めたリビングストンに、執務室のドアを叩き、来客を告げる声が聞こえた。


「隊長、『花嫁の付き添い』で『迷い人』のリンカ様がおみえです……」


「……え?い、今なんと……」


「隊長ぉ~……リンカ様が面会を求められておりますが……」


 な、なんという僥倖……リンカが私に会いに来たと……


予想外の事に、リビングストンの顔は歓喜に緩んだ……が、直ぐにある事に気が付き、今にも倒れそうな程顔色が悪くなった。


「だ……駄目だ、駄目だ!」


髭が……せめて顎鬚だけでも生え揃っていなければ、()()()が私だと気が付かれてしまうだろう……


「……隊長、どうかいたしましたか?」


急に立ち上がったと思えば、机に両手をつき項垂れ小声で何事か呟いている隊長の姿に、補佐官がおずおずと声をかけた。


「あ……あ、いや……ドアの前で待機している者に、面会は出来ぬと……」


「そうですね……機密保持の為にも、部外者が入室するのは良くありませんね」


そう言うと補佐官は執務室を出て、来客者を案内してきた隊員に声をかけ、リンカの前に立つミレーヌに対し一礼すると、リビングストン隊長は忙しく手が離せない状態で面会出来ない事を伝えた。


顔を見せるだけでも……と食い下がるミレーヌをリンカが宥め、補佐官に布で作られた小さな袋を差し出した。


「お忙しいところ、お邪魔してしまってごめんなさい。リビングストン様に、拙いものですがお礼の品です……それから、有難うございました、とお伝え下さい……」


「……了解致しました」


「よろしくお願いします……失礼しました」


そう言って補佐官に一礼すると、リンカはまだ何か呟いているミレーヌを置いて、騎士団管理棟の外へと向かって出て行った。


 一人で先に行ってしまったリンカに、ミレーヌは()()()()()後ろを付いて行った。


「チッ、あのヘタレが……」


女装して、ベタベタイチャイチャしていた()なら、訪ねて来たリンカを部屋に引き込んで何かしらやるだろう、と思っていたミレーヌは、当てが外れ憮然とした表情をしていた。


足取り重く、護衛対象(リンカ)を視線から外してしまったミレーヌが管理棟の出入り口に差し掛かった時、甲高く誰かを罵倒するような女の声が耳に入ってきた。





************




 エディ……リビングストンに会う事が出来なかったリンカだったが、対応してくれた補佐官(ひと)に組紐の入った袋を渡す事が出来たので安堵していた。


足取り軽く、上機嫌で騎士団管理棟の出口へ向かうリンカの周りに何時の間にか精霊達が()()姿()で顕現していた。


リンカを囲むように、周囲から護るように……リンカの邪魔をすることなく同じ歩調で移動する炎、土、木、水、氷、光、雷、七体の精霊達……



《護衛の筈が……》 


《リンカの傍を離れるとは……》


《何かしらの思惑が……》


《我らが護れば問題無かろう……》


小さき神官見習いの少女メリルと違い、姿を偽っているミレーヌの事を、精霊達は信用していなかった。

リンカとミレーヌの距離が開き、一人になったリンカを護る為に、姿を現したのだった。


《リンカ、護衛を置き去りにしてどうする……》


 木の精霊アーブルは、一人先を歩くリンカに苦言を呈していた。

自分たちが側についているのだから、護衛などいなくとも問題無いのだが、顕現する事で周囲に牽制する事が出来ると共に、厄介事を引き寄せる懸念もあった。


何事も無く部屋へと戻れると良いのだが……


そう願うアーベルを裏切る様に、厄介な事象がリンカを襲うのだった。



鈴花(すずか)……」


 この世界(ここで)リンカを鈴花(すずか)と呼ぶ者……

それは同じ世界からこの世界・アレスティレイアに召喚された『豊穣の乙女』玲奈だった。 



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