56.精霊との契約
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微エロな部分があります。
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部屋に残されたリンカは、姿を消したシュタールの事
と、シュタールに言われた事を考えていた……
考えに埋没していたリンカの傍らに、何時の間にか、人型の姿を取った精霊たちが現れた。
《リンカ……》
白金の髪に金の瞳の少年、風の精霊・ウィンディ……
《愛しい娘よ……》
水色の髪に銀灰色の瞳、水の精霊・アクア……
《離れがたき娘……》
光り輝く白金の髪、水色の瞳、光の精霊・ルーチェ……
《稀有な存在よ……》
暖かな茶色の髪、翡翠の瞳、木の精霊・アーベル……
《神王様が求められし娘》
眩い黄金色の黄金色の瞳、雷の精霊・トーネル……
《心地よき波動を持つ娘》
床を這う程に長き赤銅色の髪、琥珀色の瞳、土の精霊・クレイ
《リンカ、俺が…俺たちがお前を護る…だから俺たちと……》
燃盛る炎の様に濃淡のある深紅の髪に金色の瞳をした
炎の精霊・ファイア
人型で現れた、見目麗しい精霊たちに、リンカは戸惑っていた。
(な、何で皆いつもと違う姿なの……?人間離れ…って、精霊だから人間じゃなかった。皆すごい美形ばっか……)
今迄と違う精霊達の様子に戸惑うリンカは、詰め寄ろうとする精霊達を前に、後ずさっていた。
そんな精霊達の頭を、飛び移りながら蹴りを入れる小さな生き物がいた。
頭に飛び蹴りをされた精霊達は、呻きながら頭を抱えていたり、擦ったりしていた。
いつもと同じウサギの姿で現れた氷の精霊ロップはリンカがいるベッドに着地すると、話しだした。
《もぉ~皆、焦りすぎ…》
怒っているのか普段は垂れている耳がツンと、立っていた。
「ロップぅ~」
リンカはウサギの姿を取っているロップを胸に抱き寄せ、頬擦りをした。
「はぁ……癒されるぅ……」
リンカの呟きに、ウサギの姿だった氷の精霊ロップも、何故か人型に変化した。
リンカの胸に顔を埋め、両手を背中に回し、縋り付くようにリンカを抱き締め続けるロップ……
リンカを見つめるパウダーブルーの瞳、透き通る銀糸の髪……美少年?それとも美少女……?
名残の様に頭に残されたウサ耳に、リンカは今迄の様に、気軽にモフモフする事が出来なかった。
《リンカ……?僕の事キライになったの?》
耳をピクピクと動かし、瞳を潤ませ、上目遣いで、リンカを見上げるロップ…
「ぅっつ……キライになんてなってないよ」
《本当?他の皆は、キライ?》
「嫌いじゃないよ!今はちょっと……だけど……」
《ちょっと……何?》
「慣れてない、し……恥ずかしい……よ…」
《僕の事、好き?》
「好きよ」
《ウサギじゃなくても?》
「どんな姿でも、ロップはロップだもの、好きよ」
《他の皆は?人型でも、好き?》
「ええ、どんな姿になっても……好きよ」
粘っこく、リンカを煩わせるような氷の精霊の態度に、他の精霊達は眉をひそめたり、ロップを睨んだりしていた。
《でも、僕しか契約してないよね?本当は嫌いだから、契約しないの?》
「そんな事ないってば、皆の事も好きだよ」
《僕以外の精霊とも契約してくれる?》
「それ…は……」
《やっぱり嫌いだから、駄目なんだ?》
「そんな事な……」
《じゃぁ、いいんだね?契約してくれるね》
「だから、いいって……」
《やったぁ!皆、リンカが契約してくれるって!!》
勢いで、つい言ってしまったリンカだが、一度放ってしまった言葉を取り消す事は出来なかった。
《おお~よくやった、氷の……》
《これで我らも……》
《制限される事無く……》
《リンカを護り……》
《リンカと共に在れる……》
《堂々と姿をさらし…》
《リンカを人間風情に侮らせぬ……》
《リンカの為ならば神王にも抗おうぞ……》
《おお!!》
……いや、なんか精霊の皆さん、盛り上がってますが勢いで言質取られた私……orz、な気分です……ハァ……
《リンカ、我らと契約を!!》
勢いづく精霊達と反対に、リンカは引き攣った顔で、遠くを見ていた。
「契約って、どうすればいいの?ロップの時みたいに、名前を付けたらいいのかな?」
“ロップ”という名は、垂れ耳ウサギロップイヤーから採ったものだ。
麗しい精霊を前に、素敵な名前なんて、ヤバイ……何も考えつかない……
リンカは頭を抱えたくなっていた……
《名付け以外で、我らと契約するには……》
《方法は、無くはない……》
「それって、どんな?」
《リンカ、痛いのと、痛くないの、どっちがいい?》
「う~ん……痛いのは嫌、かな……?」
《ならば、この方法だな》
水の精霊・アクアの縦長の瞳が、獲物を前にした捕食者の様に怪しく揺らいだ。
精霊達の中、誰よりもリンカに近い場所に、水の精霊アクアは立とうとしていた。
木の精霊アーベルは、冷静に分析して、リンカに負担を掛けぬよう、順番を考えていた。
炎の精霊ファイアが、先走ろうとしていたアクアの襟を掴み止めていた。
《水の……抜け駆けを見逃せるほど寛容ではない……》
《ッチ……離せ……》
《闇の……ダークが不在だが、木のアーベル……何か考えがあるのだろう?》
《ウム……光の……おぬしは最後じゃな……》
《フン……やはりな……では、誰から?》
木の精霊アーベルは、リンカと契約を結ぶ精霊の、その序列を淡々と述べ始めた。
《先ずは土のクレイ、次に風のウィンディ、雷のトーネル、炎のファイア、水のアクア、木である我、そして闇のダーク、光のルーチェ》
《妥当だな……では、その通りに……リンカ、目を閉じよ》
(な、何?何の順番?目を閉じろって、何で?)
「ちょ、待って、まっ…」
《もう、待てないんだ、ごめんね……覚悟して?》
リンカの耳元で囁く土の精霊・クレイの声がした…
土の精霊・クレイはリンカの両頬を宝物でも持つように大切に包み込むように持つと、その唇にそっと自身の唇を落とした。
「!」
《我、土の精霊・クレイ…この口付け以て契約を成さん……》
土の精霊・クレイがそう告げた途端、クレイの身体が光に包まれ輝いた。
リンカは、クレイが口付けして契約した事に唖然としていた。
(キスして、契約?って、そんなの、予測つかなかったよ……って、他の精霊ともキスするの?……)
戸惑っているリンカに考える隙を与えぬ様に風の精霊・ウィンディが、その位置をクレイと変わっていた。
《リンカ…契約する事を選んでくれて、うれしいよ……》
風の精霊・ウィンディは優しく触れる様なキスをした。
《我、風の精霊・ウィンディはここにリンカと契約す……》
光り輝くウィンディに、リンカは眩しそうに目を細めるとそっと顔を横に反らした。
《リンカ……拒まないで、ジッとして……》
気持ちが昂り、自制しないと放電してしまう雷の精霊トーネルは、壊れ物を扱うようにそっとリンカの唇に自分の唇を触れさせたのだった。
《よっし、今度は俺の番だな……》
炎の様に揺らぐ深紅の髪をした炎の精霊ファイアは、右手でリンカの顎をクイッと持ち上げると、噛み付くように、野性的なキスをした。
《炎の精霊たるファイアはリンカと契約した!!》
夕日に燃える太陽に照らされた様に、部屋の中が真っ赤に染まっていた。契約による輝き以上に、ハイテンションになった炎の精霊ファイアが燃盛っていた。
《落ち着け!浮かれ過ぎだ炎の…》
水の精霊・アクアが燃える炎を鎮静化すると、木の精霊が為した序列が正しかったと、今更ながら、皆納得するのだった。
純日本産のリンカは、連続してキスされた事で息も絶え絶えになりそうだった。
(うぅっ…吸い付かれた……)
軽く触れるキスだったのが、ファイアに噛み付くように唇を吸われ、羞恥から頭の中はパニック状態だった。
そんなところに、リンカを愛して止まない水の精霊・アクアの番がやってきていた。
《リンカ…恐ろしい姿になっても、恐れず、忌避せず、我に触れてくれた、心優しき者……愛しい娘……》
アクアはリンカの耳元で囁くと、耳朶に軽く噛み付き、細長い舌で耳の穴を攻めた。
「ひゃ、っん……」
アクアは、耳の中に舌を入れられ、驚いて声をあげたリンカの口を塞ぐように口づけると、逃げられない様にリンカの後頭部を押さえ、貪るように口腔内を蹂躙するのだった。
「ん、ん~~っ……」
ファーストキスが、子猫だったように、奥手のリンカにとって、水蛇の化身でもあるアクアの、蛇の舌の様に先が割れ、緩急自在、縦横無尽な舌による攻めに、リンカは翻弄されるのだった。
かつて体験した事のない、耐え難く抗えない快感の波に、リンカは気を飛ばし身体は熱を帯びたように桃色に染まり、甘い吐息が漏れるのだった。
「あ…ぁん…はぁあっ…」
盲目的に、リンカだけを見、夢中になって唇を貪っていた水の精霊アクアを、氷の精霊ロップが凍らせて、リンカから強制的に引き離した。
《このまま、捨てるか?》
《……やり過ぎなんじゃ、この色ボケが!!》
凍り付いて動かないアクアを、ウィンディが風で遠く、彼方へ吹き飛ばした。
少しの体液で契約が出来るというのに水の精霊アクアの、リンカに対する執着的な愛欲からの暴走に、リンカは羞恥のあまり虚ろな眼から、静かに涙を溢し続けていた。
奥手で、初心なリンカとはいえ、年頃の健全な女子でもある。
アクアによって刺激されたリンカは、身体の疼きを昇華出来ずに苦しんでいた。
《……可哀相に……》
木の精霊・アーベルはリンカの瞼に溢れる涙を啜る事で、契約を成す条件である体液を摂取した。
《我は木の精霊・アーベル…リンカとの契約を結ばん……》
アーベルの身体が光輝き、暖かな波動がリンカを包んでいった。
アーベルはリンカを膝に横抱きにし幼い子供をあやす様に背中をトントンと優しく叩いていた。
アーベルの翡翠の様な、緑色の瞳を見つめているとリンカの昇華出来ずに荒れ狂っていた心の内が、凪いでいく感じがしていた。
リンカの中で燻っていた欲情が、波が引いていく様に、自然と消えて行ったのだった。
《リンカ……もう、我が慰めずとも、平気か?》
「は、はいアーベル様…」
《ウム…これで、残すは闇と光じゃな……》
八体もの高位精霊との契約を、短時間で済ますなど通常であれば、避ける事だった。
だが、『神の花嫁』としてリンカが聖域に行く日は近い……
《風の…闇のと、少し交代じゃな…》
アーベルに指示されて、ウィンディは姿を消し……
入れ替わった様に、闇の精霊・ダークが現れた。
《皆、リンカと契約した…?のだな……》
薄闇色の髪に紅玉の様な瞳の青年が、取り残された犬の様な、悲哀の籠った表情をしていた。
《我もまだこれからよ…貴殿を待っていたのでな》
《成程、して、契約方法は……?》
《体液の摂取…口付けで、だ……》
闇の精霊・ダークは、光の精霊ルーチェの言い様に、引っ掛かりを憶えた……。
《何か…あったか?アクアの姿が無い様だが……?》
ダークは、眼光鋭く、自分以外の精霊達を見回した。
木の精霊アーベルが、リンカに聞こえぬよう、ダークの耳元で何があったのか、概要を話した。
《アクア……シュタール様に知れたら……殺…》
《あ奴には、暫く人型への変化は禁止じゃな……》
《それよりも、早く契約を済ませようぞ……》
《俺が先…でいいのか?》
《ああ、最後にリンカに癒しを…回復させねばな……》
《わかった…リンカ…契約を…俺と口づけを……俺とするのは、嫌か?》
リンカは“口づけ”と言われ、無意識に顔を横に反らしてしまっていた。
「はへ…?い、嫌じゃな、いけど、フレンチキスでお願いします」
《フレンチキス?なんだそれは?》
「……軽く触れるぐらいで…」
《ッフ…了解した……》
軽く触れるぐらいの口づけを、とリンカに言われたダークは、初心なリンカを幼子の様だ、と思うのだった。
ダークはリンカの顔の前にズイッと顔を出し、優しく唇に触れると、直ぐに離れた……
《我、闇の精霊・ダーク、契約者リンカと共にあれ!!》
《はぁ~…、やっと、僕の番だね》
光の精霊・ルーチェは、リンカの手を取り、額と額を合わせた。
《リンカ、僕たち全員と契約してくれてありがとう…気が付いてないみたいだけど、リンカの負担は大きいんだ。だから、癒しをかけるね……》
光の精霊・ルーチェはそう言うと、合わせていた額を外し、次に左頬、右頬をリンカの右頬、左頬に合わせた。
それから、真っ赤な舌を小さく出すと、リンカに見咎められない様に隠しながら、舌なめずりしていた。
《リンカ、僕と契約を!》
チュっとリップ音をさせてルーチェの唇が、リンカの唇から離れた。
《光の精霊・ルーチェ、口づけにより、リンカと契約す…》
『神の花嫁』として、聖域に向かうリンカと八体……いや九体の高位精霊との契約が成された……
精霊達は、契約を成してからは、リンカの側を離れようとはしなかった。




