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55.過去、そして……


読みに来ていただき

有難うございます。




唯一神シュタールは、鈴花(リンカ)が抱えている心の傷……トラウマを何とかしたいと考えていた。


リンカは、『お前なんか』・『お前のせい』・『お前がいなければ』……などと責められると、過去に義理の祖父に

責められた時の事を思い出し、自分を責めてしまう。

放っておくと心を閉ざし、何も反応しなくなる……


 シュタールは、鈴花の……リンカの親が亡くなった日の事を……

何故事故に巻き込まれたのか、その出来事の真の事実を知っていた……


忌々しい……

あの日、鈴花の親と弟を、あの父親(じじい)が呼びつけたりしなければ事故になど……


シュタールは鈴花の心に深く刺さっている自戒の棘を……鈴花の両親の記憶を使って取り除く事にした。





******




 “すず……”

 “すずちゃん……”


 懐かしい……

 とても懐かしい声がする……


 ああ、あれはあの日の、母さんと、父さんだ……


 “……に、行ってくるから”


 “すぐに帰って来るからね”


 お隣のお姉ちゃんとゲームをしている女の子……

まだ幸せだった頃の私……


 小さな男の子(おとうと)を連れて、家を出る両親……

待って、待って……行かないで……行っちゃ駄目!!


走り出す車……行く先は……

私の誕生日のプレゼントとケーキを買いに出掛けて、それで、事故にあって……


駄目だ……

止めなくっちゃ……


走る車を追いかけて、追いかけて……


車は大きな家の門の中に入って、止まった……


 私はこの家を知っていた……

両親のお葬式の時に、一度だけ入った事がある宮坂の家……


私には見せた事のない笑顔で、弟に話しかける義祖父母……


“もっと頻繁に遊びに来るといいのに……”


“和人には尚人と二人で来るように言ったのに…”


“尚くん、今度はパパと二人でいらっしゃいな”


“いつまで、そんな態度なんだよ”


“お姉ちゃんがいないから、つまんな~い”


“玲奈お姉ちゃんがいるじゃない”


“玲奈お姉ちゃんキライ”


“余分者が、悪口でも吹き込んどるのか”


“余分者だ?鈴花は血の繋がってない玲奈と違って正真正銘、俺の娘だ”


“和人さん、何を……?馬鹿な事を言わないで”


“信じないなら調べればいいだろう?直ぐにわかる事だからな……鈴花と違って、俺の娘じゃない玲奈は、親父とも血の繋がりは無い”


“そんな……”


“とにかく、鈴花を俺の娘と認めない……嫁の花枝を無視するこの家にはもう来ない……二度と呼びつけたりしないでくれ”


“か、和人、待て、待たんか……”


“なお~、花ちゃ~ん、帰るよ~”


あの日、宮坂の家であった出来事が、鈴花の目の前で繰り広げられていた……


玄関を出て、車に乗る母さん、義父とうさん、尚人……

門を出た車は幹線道路と並走する高架橋へ……

事故現場へと向かっていく……


お願い止まって!!

この先には……


叫んでも、叫んでも……

私の声は届かない……

私の見ている前で、両親と弟が乗った車は事故に巻き込まれていく……


どうして……?

何故あの場所で……?



******



“……!!”


“…って、いつまで……”



 中学生の男の子がお爺さんを怒鳴っている……

あれは……あのお爺さんは、宮坂の?

だったら、あの男の子は、中学生になった尚人なの?



“いつまでも嘘ばっかり、アンタが言ってる事は辻褄が合わないんだよ”


“尚人さん、何て口の悪い……母親の生まれが……”


“煩い!あの日、親父の車が事故に遭ったのは、姉さんが悪いんじゃない、アンタらが、呼び出したから……此の家に呼んだからじゃないか”


宮坂の祖父母を怒鳴りつけ、玄関の戸を乱暴に開けると、

尚人は家を飛び出した。


走って門の外に出た尚人は、駅に向かって走り続けた。


 尚人が向かった先は、あの歩道橋だった……


“姉さん……鈴花姉さん、何処行っちゃったんだよ……”


 尚人は歩道橋の階段の一番上に腰を下ろすと、背中を丸め両手で頬杖をついていた。


<なお……>


鈴花は尚人を、背中から包むように抱きしめた。


<尚人、寂しい思いをさせてごめんね……>


“!……鈴姉?”


<私の事は心配しないで、幸せになって……>


“どこ?どこだよ?鈴姉!一人にしないで……”


 尚人は立ち上がると、周囲を見回した。

尚人の耳に、この場所で消息を絶った姉、鈴花の声が、聞こえたような気がしていた……




******



「尚人……な、お……」


鈴花すずか……』


 寝ているリンカの頬を伝う涙を、黄金色の髪の少年が、口で吸い取っていた。


鈴花すずか…起きよ……』


「うぅ~ん…だ、れ……?」


『鈴花…我が誰か、わからぬのか……』


「え……?な、お…?」


 寝起きでボーッっとしているリンカは、自分の事を鈴花と呼ぶその存在に、ついさっきまで夢見ていた弟の名を呟いた。


『ム、間違っている、が……鈴花、夢の中で、弟に遭えたか?……親を失くした事故の、真実が見えたか?』


「だ、れ……?」


『この姿ならば、わかるであろう?』


そう言うと、目の前の少年の姿が、小さな黒い……猫の姿に変わっていた。

その黒い猫の右前脚には、腕輪でもしているように白い部分があった。


「クロちゃん……?」


リンカが黒猫に付けた名を口にすると、黄金色に輝く長い髪、金茶色の瞳をした神々しい姿をした青年に変わった。


「あ、あなたは……?」


『シュタールだ……』


「シュタール……?」


『我の名だ…鈴花……さっきまで見ていた夢は、夢ではない……』


「え……?」


『鈴花がいた世界で……かつてあった出来事……そして、現在の事……』


「じゃ、あれは…あの中学生おとこのこは尚人……

尚人だったんだ……」


鈴花の呟きに、シュタールは『そうだ』、と首を縦にしていた。


『鈴花……鈴花の親が死んだ事故は、鈴花のせいでおきたのではない。鈴花の為に出掛けたのではない……過去の事に囚われる事は無いのだ』


「…………」


シュタールは、まだ納得できていない、リンカの様子に、このまま過去に囚われ、変調をきたす様なら、辛く苦しい記憶を抹消してしまうと告げた。


『鈴花……我とてそんな事はしたくない……だが、辛そうな鈴花の顔は見たくない……』


シュタールはベッドに座って、話を聞いていたリンカを抱きしめると、不穏な事を口にしていた。


『いっそ、鈴花を傷つける者全てを消してしまうか……』


「え……?」


シュタールの囁きを確かめるように、顔をあげた鈴花の唇に、シュタールは、触れる様な口づけをすると、その姿を消していた。


 部屋に残ったリンカは指先で、唇に残った感触を確かめては、顔を赤くしていた。


リンカはシュタールと名乗った青年……?

少年?精霊ではないと言っていたあの人は何なのだろう、と考えていた……


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