50.ウィリアムと両親
読んでいただいて有難うございます。
明け方……六の鐘が鳴り終わったのを合図に、
ウィリアムは使い慣れたベッドから起き出した。
部屋の主が起きるのを見計らっていたかのように、ドアをノックして、古参の侍女が、朝の身支度の手伝いに現れた。
「おはようございます。ウィル坊ちゃま」
「……アルマ……頼むから坊ちゃまは、やめてくれ……」
ウィリアムは、子供の頃から世話になりっぱなしのアルマに、溜め息混じりに言った。
「朝の挨拶をまだいただいてませんよ、坊ちゃま」
笑顔だが、怒らせると恐いアルマに、タジタジっとして、ついつい後ずさりしてしまうウィリアムだった。
「お、おはようアルマ……。親父殿は戻ったか?」
「旦那様は、予定通りに戻られました。七の鐘と共に朝食ですよ」
そう告げたアルマを、身支度は一人で出来るからと言って部屋から追い出し、ウィリアムはほっと息をついた。
身支度を整え、ウィリアムがダイニングに着くと、既に両親が揃って席に着いていた。実家で揃って朝食を取るのは、何年ぶりだろう……
母の向かいの席に案内され座ると、右側の当主の席に座した父が、軽く手を上げて合図をすると、給仕が始まった。
「父上、折り入ってお話が……」
「食事中だ……話なら後で聞く……」
「あらあら、旦那様ったら……夜勤明けでお疲れなのはわかりますけど、ウィルが可哀相ですよ」
「む……そうか、すまんな……」
近衛騎士隊副隊長のウィリアムの父も、妻には頭が上がらない様だ。
いや、妻に逆らわないという事が、夫婦円満の秘訣かもしれない……
「いえ……すいませんでした。話したい事があるので、
食後に時間を頂いても良いでしょうか?」
「いいだろう。手短に頼むがな……」
「良かったわねぇ、ウィル……」
そう言うと、ウィリアムの母、フォルツァ夫人が微笑んだ。その笑顔は、六人もの子を産んだとは思えない程、若く可憐なものだった。
食後のお茶は、居間に移動して取る事になった。
アルマが用意してきたお茶を、ウィリアムの母が優雅な仕草でカップにお茶を注ぎ、家族水入らずで過ごしたいからと、使用人たちを下がらせた。
妻が入れたお茶を、しずかに口に運んだウィリアムの父は、ほうっと息を吐き出すと、ウィリアムに話しかけた。
「それで、話とは何だ?」
「……実は……」
両親を前にしていざ話すとなった時、ウィリアムはどこから話せばいいのか、どう話せばいいのか迷ってしまった。
「ウィルったら、昨日から話したいのを、我慢していたのよねぇ?それとも、あまり話したくない様な……悪い話しなの?」
「いや……そんな事無い……」
「……」
寡黙なウィリアムの父は、ゆっくりとお茶を楽しみながら、久しぶりに会う息子が、口を開くのをゆっくりと待っていた。
やがて、意を決したようにウィリアムが話しを始めた。
「実は、大切な女性が、出来たんだ」
唐突な、予想もしていなかった息子の話に、ウィリアムの父は持っていたカップを皿の上に落としそうになった。母は、眼を見開くと、夢見る乙女の様な表情で、あらやだ、まぁまぁ……と繰り返していた。
「その女性は、実は『迷い人』なんだ」
ガッチャン……
ウィリアムが大切だと言った女性が『迷い人』と聞いて、ウィリアムの母はカップを皿に落とし、派手な音を立てていた。
「な、ダメよダメ、ウィリアム。あんな派手な……胸の人なんて……それに皇太子様の……」
「いえ……彼女は、その……胸も慎ましく……『豊穣の乙女』とは違います」
「あ、あら、そうなの?それで、その『迷い人』はどこにいるの?」
「『白の塔』に……表向きは、神の花嫁の付き添いとして……」
「表向き……ふむ……」
ウィリアムは獲物を射貫くような、父の鋭い視線から目を逸らした。
聖騎士団近衛騎士隊副隊長の肩書は伊達では無い。
表向きという言葉だけで、その裏にある隠された真実に、たどり着いたようだった。
「今回はその『迷い人』が、行くのだな……」
「……」
「で、お前はどうしたいのだ?諦めるか?奪って逃げるか?」
「……共に……彼女と共に聖域に行きます。今日はその報告に……」
それまで、黙って聞いていたウィリアムの母が口を挟んだ。
「二人とも……何の話をしているのです?私にもわかるように……」
「母上……父上……今迄、有難うございました。この先何があろうと、二人の子として、フォルツァの名に恥じぬよう生きていきます」
「どうして……何故そんな別れの挨拶の様な事を言うの?……ウィル……」
ウィリアムの二度と会えないような別れの挨拶に、ウィリアムの母は、ワナワナと体を震わせるのだった。
「……聖域に行くからです。私はリンカを一人にしたくない。だから、お別れに……別れの挨拶をするために、帰って来たのです」
「……」
ウィリアムの父は、ソファーに深く背をもたれると、両腕を組んで目を閉じ、唸る様に、深く長い溜め息を吐いた。
「……そう……貴方の大切な『迷い人』は、リンカと言うのね…………認めない……認めないわよウィリアム……」
「は、母上?……」
ウィリアムの母は、正面からウィリアムを見据えると、
厳しい顔で言うのだった。
「ウィリアム……認めて欲しかったら、そのリンカという娘を連れて、挨拶に来なさい。一緒に聖域に行くからさようならじゃなくて……二人で私達……家族に挨拶に来るのですよ。わかりましたね?ウィル……」
母の言葉にウィリアムの父は黙って頷くと、妻に向けていた穏やかな表情から、厳格な父の表情に変わると、ウィリアムに向かって話しかけた。
「ウィリアム……聖域から無事に戻りその娘、リンカを連れて帰って来い。『迷い人』だろうが……共にあれば、家族として迎えよう……」
「父上……母上……あ、ありがとうございます」
ウィリアムは、両親に向かって深くお辞儀をしながら……
丁寧に感謝の言葉を紡いだ。
話しが終わったあと、夜勤明けのウィリアムの父は休息をとる為に自室へと戻って行った。
ウィリアムの母は、ウィリアムが昼過ぎまで臨時休暇だと知って、街へ買物に連れ出すのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ウィリアムは、フォルツァ家の馬車に乗って、母親の買い物に連れ出されていた。
「ねぇ、ウィル……リンカさんって、どんな娘さんなの?慎ましやかってだけじゃ、何もわからなくてよ」
「え……?う~ん……そうですね、波打つ艶やかな黒髪をした、小さくて……とても可愛い女の子ですよ」
「小さい女の子?ウィリアムあなた……まさか少女愛の……」
「な!ち、違いますよ。リンカは十八歳です。ただ、見かけは幼く見えますが……」
「そう……それじゃあ、衣装は本人がいないと寸法がわからないわね。何か別の……ああ、あのお店にしましょう」
ウィリアムの母は、目的の店の名前を馭者に告げた。
鼻歌でも歌いだしそうなほど、機嫌がいい……
馬車はやがて、一軒の店の前で停車した。馭者が馬車の扉を開けると、先に降りたウィリアムに手を添えられて、ウィリアムの母も馬車を降りた。
店の中に入ると、人の良さそうな店主が現れて恭しく挨拶をすると、応接セットのソファーへと案内をした。
「ようこそおいで下さいましたフォルツァ様。今日はどのような?」
「今日はね、若い娘が普段身に着けるものを見に来たのよ」
「特にご希望はございますか?」
「そうねぇ~ウィル、貴方が選んでちょうだいね」
「……では、普段身に着けても邪魔にならないもので、
華美な装飾の無い物を見せてくれるか?」
「はい。ご用意してまいりますので少々お待ちを……」
そう言うと店主は、揉み手をしながら店の奥へと引っ込んで行った。
若い店員(もしかすると店主の娘だろうか)がウィリアムをチラチラ見ては顔を赤くしながら二人にお茶を出した。
その間二人は、お茶を飲みながら、小声で言い合いをしていた。
「母上、どういったつもりで……」
「……なによ。貴方と一緒になったら、リンカさんは私の娘になるのよ。娘に贈りものしてもいいじゃない。子供が六人いても娘はいないんだから……」
「そんな事言ったって……まだ、何も言っていないのに……」
「やだ……ウィルってば、ヘタレねぇ……告白する時の小道具にイイじゃない」
母の言葉を聞いて困惑するウィリアムとは別に、ウィリアムの母は、何て良い考えなのかしら、と、上機嫌でほくそ笑んでいた。
「お待たせいたしました」
商品の入ったケースをいくつか持って、店主が現れた。
「まず、此方がネックレスとイヤリング、ペンダントとブローチ、指環とブレスレット……此方が髪留めでございます」
応接セットのテーブルの上に、店主推奨の装飾品が入ったケースが所狭しと並べられた。
ウィリアムは、リンカには何が似合うか、何だったら喜ぶか、リンカの笑顔を思い出しながら、並べられた装飾品を見ていた。
そして、花を模した飾りのついた髪留めに目を止めると、手に取ってじっくりと見るのだった。
白い花弁の中央に青い石を配した花の周りに、青い花が並んだ、髪を一纏めにしても、ハーフアップにしても使える様な、髪留めだった。
リンカの艶やかな黒髪に、似合いそうだと思ったウィリアムは、手にした髪留めと、花を模した飾りのついたピンを選んだ。
ウィリアムの母は、澄んだ青い色の水晶……ウィリアムの瞳の色に似た水晶を使ったペンダントを、まだ見ぬ息子の嫁への贈り物に選んだ。
母の選んだペンダントを見たウィリアムは、自分が選んだ髪留めと一緒に、小さな箱に入れて贈りもの用に綺麗に布で包んでもらうと、全ての支払いをウィリアムが支払った。ペンダントは、ウィリアムの母が払うと言っていたのだが、自分からの贈り物だと言いたいからと、統べての支払いをウィリアムが済ませた。
買物が終わって帰宅するとウィリアムは、母に礼をして部屋に戻った。
それから机に座ると、兄弟に向けて手紙を書き始めた。
家の跡取りでもある長兄に向けての手紙には、両親、他の兄弟を頼むと記した。
手紙の束を机の引き出しにしまい込むと、リンカに持って行こうと思った本と、買って来た物を同じ袋に入れて、机の上に置いた。
昼食を両親と共にとったあと、ウィリアムは部屋に戻り騎士服……
フォルティス隊の隊服に着替えると、用意していた荷物を持って部屋を出た。
玄関でアルマや他の使用人、両親に見送られ騎士団本部にある、フォルティス隊の事務所に向かった。そしてフォルティス隊の隊員四人を選ぶと、五の鐘と共に『白の塔』へ向かうことを告げた。
五の鐘が鳴り響く中、王都を後にする五人の騎士の姿があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うぅ……動けな、い……」
明け方、リンカは身体が重くて何故か身動きが出来なかった。
もしかして……金縛り……?でも、私って霊感無いんだけどなぁ……
足元に髪の長い女のひととか、白い顔の男の子がいたらどうしよう……
リンカは恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。
リンカ目の端に、輝く金色の髪が見えた。エティと、いつの間にか一緒に寝ていたんだと、寝ぼけた頭でリンカは勘違いをしていた。
それにしても、何だか重苦しくて身動きが出来ない……
何でだろう?
寝起きでぽえぇ~っとしているリンカに《おはよう……》という声が聞こえてきた。側で寝ていた……エティだと思っていたヒトが目を開けてリンカを見ていた。
白金の髪に金の瞳、均整の取れた、美しいその顔を見て、リンカは驚愕して飛び起きた。
「!、エ、エティ姉様じゃない……だ、誰?」
警戒するリンカの胸元から、小さな蛇が顔を出した。水の精霊アクアは、寒いのが苦手なのか、寝ているリンカの胸元で暖を取っている。
滑らかな鱗の感触は嫌ではないが、動揺していたリンカはビクッとしてしまった。
《……》
アクアが悲しそうにした気がして、リンカは胸元の小さな蛇アクアに声を掛けた。
「ゴメンね、アクア。びっくりしちゃって……」
《リンカは、優しすぎるの……》
モソモソ、とベッドの中から小さな蜥蜴が姿を現した。木の精霊アーベルだ。
アーベルは、寒いからといって、年頃の少女の胸元で暖を取るなんて、許される事じゃない。
消されても文句は言えないだろうと、アクアに苦言を呈した。
リンカの肩に乗って来た、エゾリスの様な土の精霊クレイも文句を言っている。
《アクアばっかりずるいです。僕だってリンカにスリスリしたい》
肩に乗ったまま、忙しなく動くクレイの尻尾がリンカの鼻先をかすめた。
たまらず、リンカがクシャミをすると、足元から小さなドラゴンが飛び出した。
《その邪魔な尻尾、燃やすか?》
炎の精霊ファイアが、口を大きく開けて、クレイに向けて息を吹きかけた。
炎は出ていなかったが、熱風が土の精霊クレイを襲う。
リンカの肩に乗っていたクレイは焦っていた。逃げる事は簡単だが、自分が逃げ出したらリンカが……リンカに熱風が直撃してしまう。
小さいエゾリスの様な土の精霊クレイでは、逃げずにそのまま肩に乗っていても、リンカを庇う事は出来ない。クレイは小さな体で、リンカを庇おうとした。リンカはクレイごと、顔を庇おうとして、両掌を身体の前に出していた。
熱風がクレイとリンカを襲う……事は無かった。
白金の髪、金の瞳の少年がリンカを抱きしめたと同時に、防御壁がリンカを包み込んだ。
《大丈夫?》
「あ、貴方は……?」
《……ボク、ウィンディだよリンカ》
リンカを全身で抱きしめる様に庇い、防御壁を展開したのは、風の精霊ウィンディだった。リンカは、見目麗しい輝く様なウィンディの姿に、人間離れした美形なのは、精霊だったからなのだと心の底から納得したのだった。
ゴトンっと音を立てて何かが床に落ちた。
氷漬けになった小さなドラゴンの上に、大型犬程の大きさの垂れ耳兎、氷の精霊ロップが、炎の精霊ファイアを押しつぶす様に乗っていた。
炎の精霊ファイアは、凍り付いた体を熱で溶かし、ロップに身体から降りる様に喚いていた。
《煩い!ファイアの考えなし。リンカを巻き込むつもりだった?》
《……うっ……そ、そんな……》
旗色の悪くなったファイアに、土の精霊クレイが舌を出していた。
エゾリスのアッカンベー……可愛すぎる……リンカは肩の上に載っていたクレイを両手で包み込むと頬でスリスリしながら可愛い発言を連発していた。
それを見た氷の精霊ロップは、一瞬で通常の大きさに変化して、リンカの膝の上に現れると、リンカの身体に頭を押し付けてスリスリしていた。
可愛らしい兎の姿をしたロップはリンカが現在、唯一契約している精霊だ。
リンカに甘えるように頭を擦りつけながら、後ろ脚を使って他の精霊をそれとなくリンカから引き離していった。
小さな蜥蜴姿の木の精霊アーベルは、ロップに蹴り飛ばされた。
リンカの脚に巻き付く様にしていた小さな蛇姿の水の精霊アクアはリンカから離れるまで、ロップに足踏みされていた。
水の精霊アクアを踏みつぶしているロップの仕草が、“僕も抱っこして”と強請っている様に感じたリンカは、両手からエゾリスを解放すると、膝の上にいたロップを両手で抱え上げた。
リンカがロップを抱きしめようとする直前、誰かの手が伸びて、兎の頭をガッと鷲掴みにすると、そのままペイっと後方に放り投げた。
それから、リンカの腰に手を回して抱きついている風の精霊ウィンディを、ベリッと引き剥がしポイっと放り投げた。
身軽になったリンカが、ベッドから起き上がろうとすると、他の精霊をリンカから引き剥がした、腰まである光り輝く金の髪に、整った顔立ちの神官服の様な長衣を纏った青年が、リンカの手を取り引き上げた。
リンカは、これで漸くベッドから出られると思っていた。
だが、何故かその青年が、リンカと場所を入れ替わる様に身を翻し、ベッドに腰を下ろすと、リンカを膝の上に横抱きにして囁いた。
《リンカ……お願いです。私にもどうか名前を……》
「え……っと……貴方は?」
《ルーチェ、です……いつもの、猫の姿では貴方を抱く事が出来ない……》
リンカは、ルーチェという名前と、猫の姿という言葉に、ハッ、と気が付いた。
「あ、貴方は光の精霊……ルーチェ?」
リンカを膝に乗せて横抱きにしている青年は、光り輝く姿をした、まさに、“光の精霊”だった。
それにしても、精霊達が何故急に現れて……しかも、恥かしいほどにスキンシップ過多なのだろう? リンカが不思議に思っていると、真っ赤な髪が、逆立っている中学生ぐらいの少年が目の前に現れた。
《やっと……リンカが一人になったからな》
《トーネルの言う通り……リンカの側、いっつも近しいモノがいた》
真っ赤な髪の少年トーネルに同意したのは、風の精霊ウィンディだった。
《僕たち、姿は見えなくてもリンカの側にいたんだよ》
風の精霊ウィンディが、リンカにそう言うと、光の精霊が
リンカに囁いた。
《いつでも、こうしてリンカを抱きしめていたいのに……》
美形に美声で、耳元で囁かれたリンカの顔は、真っ赤になっていた。
何だろうこの、居た堪れない気持ち……リンカはルーチェの膝から降りようとしたが、がっちり掴まれていて身動きが出来なかった。
そんなリンカにかまわず、ルーチェは続けて、に耳元で囁いた。
《リンカ……私と契約を……》
《ルーチェ……抜け駆けすんな!リンカ……俺と契約してくれ……》
そう言って真っ赤な髪の少年、雷の精霊トーネルもリンカの手を握り、契約を強請った。
《ルーチェもトーネルもずるいです。僕だってヒトガタぐらい……》
小さな蛇の姿だったアクアが、白い髪に赤い瞳の少年の姿に変わった。
そして、ルーチェの脚を跨いで、リンカに迫った。
木の精霊アーベルは、緑色の髪の少女の姿に、炎の精霊ファイアは燃える炎の様な、
赤とオレンジの混じった様な髪の少年の姿になった。
偶然契約してしまった氷の精霊ロップを除いた精霊たちが、こぞってヒトの姿に変化した。そして、口々にリンカに契約を強請っていた。
リンカはすぐには返事が出来なかった。どうすればいいのか、わからなかった。
精霊との契約について、その意味を正しく知ってから……認識理解してから返事しなくてはいけないと、考えたのだった。
「契約……するの、もう少し待ってくれる?考える時間がほしいの……」
困った様にリンカが言うと、精霊達は、そんなには待てないと言った。
どうして?というリンカの問いに、精霊達は今迄待ったのだから……とだけ、リンカに告げると、氷の精霊ロップを残して姿を消していった。
リンカを膝に乗せて横抱きにしていて光の精霊ルーチェは、別れ際リンカに優しく言うのだった。
《姿は見えずとも、いつも側に控えています。何時でも呼んで下さいね。》
ルーチェは、リンカの頬に口づけをして微笑むと、名残惜しそうに、霞む様に、その姿を消していくのだった。
氷の精霊ロップは、リンカを守る為にその姿を消すことなく、他の人間にも認識できる様にしたまま、残ったのだった。
精霊達は、リンカが聖域に行く前に、何か起こりそうな嫌な予感がして、リンカと契約をと考えたのだった。
リンカには、唯一神の加護、全ての精霊王の加護がある。
余程の事が無い限りは、死なない体になったと言える……
それでも、普通の人間でしかない。
不測の事態を避ける為……それから、聖域に行く前に契約すれば、聖域に入ってからも共に過ごせるという願望が、精霊達にはあった。
氷の精霊ロップは、先に契約した優越感に、リンカを独占したいと思っていた。
でも、リンカが望むなら、他の精霊と契約するのを邪魔したりはしない……
リンカを独り占めできなくなるより、リンカに嫌われたくない、ロップだった。
前回の更新から間が空いてしまい
申し訳ありませんでした。




