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49.夜会にて


読んでいただいて有難うございます。


玲奈視点で始まります。




 寝室に立てこもった私に、待ち焦がれた彼の人の声が聞こえてきた……


 私は、カギを外す間も惜しいほどに、急いで寝室のドアを開けた。早く早く……


ドアの外にいたのは、思った通り皇太子様だった……



「『豊穣の乙女』……迎えに来たのだが、寝室から出ないと聞いた。何処か具合が悪いのか?あ?どうしたのだ……??」



皇太子が玲奈に話し掛けた。玲奈は、教育担当の女官に言われた事などすっかり忘れて、すぐに返事を返した。



「皇太子様ぁ~お会いしたかったですぅ~」



 抱きつきそうな勢いで飛び出した玲奈を、皇太子本人が抑えた。

玲奈は、皇太子までが私を虐めるの?と思った。



「『豊穣の乙女』……どうしたのだ?その顔は……」



 皇太子に顔と言われて、そう言えば、寝室で化粧を落とそうとして、肩にかけていたショールで拭いていたんだった……



「……女官が、変な化粧をするの……。白く塗りたくって……ヘンな顔になったわ。あんな顔で人前に出られないわよ」



「変な顔?『豊穣の乙女』は、どんな顔でも可愛いぞ……」



皇太子の言葉に、玲奈の顔はうっすらと赤く染まった。



「今宵は其方のお披露目なのだから、美しく着飾って欲しい」



そう言うと、皇太子は女官長に目配せをした。



「さ、『豊穣の乙女』様、お化粧直しを致しましょう。さぁ、此方へ」



 そう言って女官長は玲奈を奥の部屋へと連れて行った。

半刻(十五分)程たって、またもやアミ○○姫の様な顔になった玲奈は、皇太子にエスコートされて、部屋を出て行った。



通路を進む間、玲奈は、皇太子と、ほぼ一人で話していたが、時折り皇太子が返事をするので、その事には気が付いていなかった。



「……それで、皇太子様、私の事は玲奈と呼んで下さいって、前に言いましたよね?」


 玲奈の口の利き方に、付き添っている侍従が眉をヒクヒクさせていた。

皇太子がいるので、面と向かって注意する事が出来ないだけで、後で女官長を通して伝えなければと、侍従は思っていた。


 玲奈は皇太子が名前で呼んでくれないと、口を尖らせて拗ねた顔をした。

拗ね顔が年上の男性に、可愛いと思われるのを知ってわざとやっているのだ。



「皇太子様ぁ……どうして、名前で呼んでくれないの?あ、もしかして、私の名前忘れちゃったの?」


「……覚えていますよ。玲奈……。名前を呼ぶのは、二人だけの時に、ね?」


これでこの話は終わりだと、皇太子はそういう意味で、言ったのだったが、

玲奈は二人だけの時という言葉に、一人で盛り上っていた。

玲奈は残念すぎるほどの、お花畑な思考の持ち主になっていた。


 やがて二人は、大きな二枚扉の前に着いた。

扉の前にいた兵士が、二枚の扉を開けると、中から

『豊穣の乙女』の登場です、と、声が掛けられた。


 私は皇太子様にエスコートされ、人々の賞賛を浴びながら、会場の中央へと進んだ。それから、皇太子様が、透明な箱の中に、案内した。



「大切な『豊穣の乙女』に何かあったら、いけないからな……」



 皇太子様に、夜会が終わるまで安全の為に……私の為にも、この中にいてほしいと言われ、私は夜会が終わるまでの間、透明な箱の中で過ごした。


 透明な箱の中で、何だか見世物にされている様な気もしていたけど、夜会の途中で、きつい眼をした女の子が、私に向って何かを投げつけていた。

箱の中にいた私には、何も出来ないとわかるまで、その女の子以外にも、飲み物をかけようとしたりする女の子……令嬢という種族だろうか?がいて、私は箱の中にいて良かったと、皇太子様に感謝をしたのだった。


 箱の中で会場の様子を眺めていた玲奈は、一人の青年に目を止めた。

周りの貴族と変わらない服装の青年だったが、服の上からでも、周りの男性よりも鍛えている事がわかった。そして、何よりもイケメンだ。

自由に動く事が出来たら、話しかけたいほどのイケメンだった。

ジッと見ていたら、そのイケメンが自分を見た。

どうしよう、目が合っちゃった。しかも、私の事をじっと見つめている……

そ、そんな目で見つめても、私には皇太子様が……。

ああでも、アノ男の人もいいな……二人で私の事を取り合ったりして……


などと、妄想に浸っている玲奈であった。






◇◇◇◇◇◇◇◇





 アストーリア神皇国・現皇太子ユークリッド・ソレス・アストーリアは、女官長の話を聞いて、イラつきを隠そうともせずに叱責するのだった。



「『豊穣の乙女』の機嫌を損ねるなと、言ってあったはずだが?」



「お、お許し下さいませ。誠心誠意、『豊穣の乙女』様の

お世話をしているのですが、気難しい方ですので……」



「……まぁ、よい。それより、アノ報告は真実まことか?」



「は、はい。『豊穣の乙女』様は、処女ではございません。ですが、腹に子はおりませんので、お手を付けられても問題ないと……」



女官長の指示で、寝ている間に玲奈は処女かどうか、調べられていた。

皇族の相手をする玲奈だからこその、検査だった。



 検査結果を聞いた皇太子は、既に男を知っていても、

玲奈の身体では、無理もないか、と、考えた。あの身体……

皇太子は、玲奈の大きな胸を思い出し、知らず、口角を上げていた。


 皇太子は玲奈を夜会に連れて行く予定だったので、少し早いが、迎えに行くことにした。女官長の話では、寝室に閉じこもったというが、自分が迎えに行けばすぐに出てくるだろうと、思ったからだ。


 皇太子が思っていた通り、迎えに行けば玲奈は直に寝室から出てきた。

だが、泣いたのか化粧が落ちて、酷い顔になっていた。女官に言って、すぐになおさせたが、あのままでは夜会に出せない程ひどかった。


 夜会で、皇族の席に玲奈を座らせるわけにもいかず、かと言って放置する訳にもいかなかった。

透明な箱に囲ってしまえば、誰も手が出せず、勝手に歩き回る事も無い。

わざわざ神殿から解体して運び込み、組み立てておいて良かった。

皇太子は自分の考えた事が上手くいって、上機嫌だった。


 皇帝ユーリウス・ソル・アストーリアは、透明な箱に入っている玲奈を見て、あの箱の中で、一糸まとわぬ『豊穣の乙女』を飼うのは楽しそうだと、ろくでもない事を考えていた。


 皇帝も、女官長から玲奈についての報告を受けていた。皇太子の好みは、男を知らない生娘きむすめを自分好みにする事だから、『豊穣の乙女』に飽きるのも、早いだろう。その日が来るのが楽しみだと、皇帝は、ほくそ笑んでいた。




 夜会が始まってから、四刻(二時間)が過ぎても、第三皇女ユスティアの姿が無かった。

アスティ教神官長であり、皇弟でもあるユースヴェルクも、その姿を見せない。


 皇太子は、妃にはなりえなくとも、皇族の……自分の花嫁とも言うべき『豊穣の乙女』の披露目の為の夜会に、皇族の一員である二人が出席しない事に、自分自身を否定されたような憤りを感じて、苛立っていた。



「ユークリッド……皇太子なのだから、少しは感情を押さえぬか……」



「ですが、父上……ユスティアはともかく、神官長でもある叔父上までが欠席とは……侮られていると、思われても仕方ないのでは?」



「ユスティアは、『花嫁の儀』に合わせて、行動しておる。ユースヴェルクは、塔で起こった異変を調べるのに、二日ほど塔に行く日が早くなっただけだ……」



「『花嫁の儀』……ユスティアが嫁ぐのですか?」



「……わからぬ。毎回その予定ではあるが、大巫女が何か画策しておろう……」



「『花嫁の儀』には、皇族が見届ける義務があるのでしたよね?」


「……故に、ユースヴェルクが塔に行っているのだが?何故そんな事を?」



「可愛い異母妹いもうとと別れるやもしれぬのです。見送りに行ったとて、誰に責められましょう?……明日私も塔に向かいます。止めても無駄です。」



「勝手にするがいい……余は何も知らん……。」



「はい。有難うございます……父上……。」



皇太子は、皇帝に言われた通り、勝手に塔に行くことに決めたのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇





 ウィリアム・フォルツァは、夕刻の六の鐘と共に、塔を出発した。

湖の上に現れた透明な通路を迷う事無く一気に駆け抜け、森を抜け、皇都の貴族街側にある城門に着いたのは七の鐘が鳴ってから二刻……

かれこれ一時間程、経過してからの事だった。


七の鐘に、固く閉ざされてしまう城門だったが、フォルティス隊の切り込み隊長フォルツァを知らない兵士などいない。城門を守る兵士に、

顔パスで入れてもらった、フォルツァだった。


 フォルツァはそのまま、馬を歩かせ、皇都にある屋敷へ向かった。

貴族街の外れにあるフォルツァの親が所有する屋敷は、二階建ての、瀟洒なテラスハウスの様な館だった。


 普段騎士団宿舎で暮らしている四男が急に戻って来た事で、屋敷の中は大騒ぎになった。



「ウィリアム、急に戻ってくるなんて……」



「すいません、母上……帰ってこない方が良かったでしょうか?」



「馬鹿ねぇ、ウィル……連絡の一つでも寄越していれば、色々準備出来たのに……貴方の部屋はそのままだから、使えるわよ」



「ありがとうございます。父上は?在宅でしょうか?」



「今日は『豊穣の乙女』のお披露目で仕事しているわ。戻るのは……明日の朝ね。そうだわ、ウィル。貴方、私をエスコートなさい」



「はい?……急に何です?」



 母親から、エスコートする様に言われたウィリアムは、何を言われたのか、理解出来ずにいた。母親に呼ばれた執事が、心得たとばかりにウィリアムを部屋へと連れて、歩いていった。


 騎士家系の六人兄弟……優秀な三人の兄たちは、二人は領地で、一人は皇都で、それぞれ活躍していた。弟二人は士官学校の寮生活。子供が六人もいて、誰一人として側に居る者は無い……ウィリアムの母は常日頃気丈に振る舞っていた。

だが、本心は寂しくて、我慢を重ねていたのだ。

予期せず帰宅した可愛い息子を前に、はしゃいだとしても、仕方がないだろう。



「うふふ、いい男に育ってくれて嬉しいわ、ウィル……」



「はぁ……こんな事をしている間は……」



「あら?駄目よウィル。私のお願いを聞いてくれなきゃ、

貴方の願いも叶わなくてよ?」



 話したいことがあると、ウィリアムは母に言ったのだが、父が帰宅してから、二人で話を聞くからと言われた。そして、夜会で自分をエスコートしないと、話しは聞かないと、ウィリアムは母に脅されたのだった。


 馬車が城に着くと、先に外に出たウィリアムは、母に手を差し出し、いつの日か、リンカの事をこうしてエスコートしたいと、思うのだった。


夜会の会場の大広間には、着飾った紳士淑女が派閥など、何かしらの関係で少数づつ輪になって歓談していた。そこかしこで『豊穣の乙女』という言葉が囁かれていた。


 普段、夜会など華やかな会に顔を出さないウィリアムの母は、輪になっているグループに参加するでなく、ウィリアムを供に、静かにたたずんでいた。


時折り挨拶してくる知人にはにこやかに、そうでも無い者には無表情に、そつなく挨拶を交わし、ウィリアムの事を言われても、素敵でしょう?とか朴念仁なのよとか、使い分け、煩わしい話しをさせないように相手していた。


 ウィリアムはと言えば、リンカの事を説明する時の事ばかり考えていて、年若い人妻から秋波を送られても、全く気が付いていないのだった。


 やがて高くなっている皇族の席に、皇太子以外の皇族が席に着いた。

通常であれば、爵位の高い者から挨拶に出向かなければならないが、本日の主役は『豊穣の乙女』という事で、挨拶は無しだった。


 宰相の掛け声と共に、大扉が開かれ、皇太子に連れられて、伝統的な衣装と化粧を施された、とてつもなく胸が大きな、正に、『豊穣の乙女』と呼ぶに相応しい女性が現れた。


 会場は大歓声に包まれた。


 破壊的な胸の大きさに、感嘆する者、嘲笑する者、羨望の眼差しで見る者、様々だったが、概ね好意的に受け止められていた。

皇太子から離れ、透明な箱の中に入れられた後、どこぞの令嬢が近付き、『豊穣の乙女』に無礼を働いていたが、透明な箱に守られて事なきを得ていた。


 ウィリアムは終始、母の側にいた。母が心配な事もあったが、何よりも、一人でいると、話し掛けられて煩わしかったからだ。

『豊穣の乙女』も見た事だし、もう帰りたい……顔の表情筋も、悲鳴をあげる直前だった。


 ウィリアムの母は、傍らにいるそんな息子を見て、扇で顔を隠しながら溜め息を吐き、ハイハイ、もう帰りましょう、と言って、壁際に控えている召使に、馬車を回すように告げていた。



 やっと家に帰れると、安堵していたウィリアムだったが、自分に対する射貫く様な視線を感じて、振り返ると、透明な箱に守られた、『豊穣の乙女』玲奈と目が合った。

豊穣の乙女の事など、何とも思っていないウィリアムだったが、リンカと同郷だと思って暫し、目線を合わせたまま凝視していた。


その内……『豊穣の乙女』が顔を手で覆い、何事か呟いている様子に気味が悪くて、背中に悪寒が走った。

出来れば、関わり合いたくない相手だと認識した。


 傍目には『豊穣の乙女』を見て呆けている様にしか見えない息子を、ウィリアムの母が扇で頭をバシッとするまで、ウィリアムは透明な箱、『豊穣の乙女』に目を向けていた。思っていた内容は、人々の想像とは、かけ離れていたものだった。


 夜会がお開きになる前に、ウィリアム母子は、会場を後にし、屋敷へと戻って行った……


 屋敷の、自分の部屋に戻ったフォルツァは、自分の気に入っていた本、アスティ教の神に関する挿絵の入った本をリンカに贈ることにした。

明日は両親と話さなければならない。夜会での疲れもあって、ウィリアムはベッドに入って早々に、深い眠りについた……



次回はフォルツァ親子の話し合いから、皇太子が

塔に押し掛けるまでを予定しています。

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