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48.お披露目


読みに来ていただき有難うございます。

ブックマークを有難うございます。

励みになっております。


 顔を真っ赤にして、脱衣所からエティが出て行ってしまった。

残されたリンカは、キスするのは平気なのに、お風呂は恥かしいんだぁ……と、エティの出て行った扉を見つめながら、呟いていた。

そういえば、ここってお風呂に入るのに、湯帷子つけないとダメなんだよね。

でも、一人で入るんだから無くっていいよねー……うんうん、と一人頷きながら、鼻歌まじりに、すぽぽーんと着ていた衣を脱いで、浴室に入って行った。


 リンカは一人、お風呂を堪能すると、寝間着姿で部屋に戻った。エティ姉様が待っているかなと思っていたけど、部屋には誰もいなかった。


いつの間にか整えられたベッドに横たわったリンカは、ミレーヌから聞いて、メモ帳に簡単に書いた国名と、位置関係だけの地図を眺めていた。


 此処が今いる北の大国・アストーリア神皇国、北西に同盟国・セヴェイル、北東……東の国境に小三国からなるエレメンタール共和国、その隣がエステール……

東の大国・グラーベンは軍事国家で、隣のバスターク王国とは常に小競り合いが起こっているそうだ。


アストーリア神皇国と敵対しているのは、西の大国・オーヴェスタで、二年前にも、同盟国セヴェイルに侵攻してきたオーヴェスタ軍制圧に、ティア様も、シリウス隊長率いるフォルティス隊も、出征したそうだ。


戦場で活躍したティア様は『銀の戦乙女ヴァルキリア』と称され、オーヴェスタ軍の兵たちは、震えあがったと、ミレーヌが熱く語っていた。


南には、アルディバランという国があるらしい……アストーリアからは遠すぎて、情報が追い付かないと、ミレーヌが言っていた。



 この世界の中心には、神々の住まう聖域があり、人が踏み込むことが出来ない為、北から南に行こうと思ったら、ほぼ世界を半周する事になる。

この国から離れるなら、同盟国と、敵対国を通るより、東にコースを取った方が良さそうだ。聖域を抜ける事が出来ればいいけど、出来そうにないしなぁ……

不安材料は、軍事国家というグラーベンを通る事かな……


リンカはメモ帳に、この世界で自立する為に他にどういった知識が必要か、思いつくまま書き出していった。


う~ん、だいたいこんなもんかなぁ……通貨って、紙幣じゃないよねぇ……たぶん、銅とか銀とかだよねぇ……神殿に戻ったら、外に出られるかな?


塔に残れって言われたらどうしよう……大巫女様やエレン様には、良くしてもらってるけど、いつまでもこの国にいるのは危険だよね……


 『豊穣の乙女』の玲奈と違って、私の立場なんてオマケでしかないもんね。

神官長は庇ってくれそうだけどあの皇子とかサンタ髭の対応を思い出せば、追い出されるとか、牢に入れられるとか、最悪処分されるとか、悪い予感しかしない……

トリップ物のラノベにしても、ハード系なのかなぁ、魔法もないし……

リンカは小さく溜め息を吐くと、掛け布を頭まですっぽりと被った。


それから、新しく出来たミレーヌという友達に、明日は何を教えてもらうか、考える事で、胸の奥に湧いてくる不安を考えない様にするのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇



~ミラン視点~



俺はミラン・ケンドール……シリウス隊長率いるフォルティス隊に所属している。十六年前、西のオーヴェスタが同盟国セヴェイルを下し、国境沿いのベルスタッドにまで侵攻してきた。


 あの日……あの運命の夜、自警団員だった父は仕事で家にいなかった。

城壁を越えて侵入したオーヴェスタの先兵が家に押し入った。

当時三歳だった俺は、隣に寝ているはずの母を探して、ベッドを抜け出した。

階下から聞こえてくる物音に近付いて覗けば、母親の身体の上に知らない男が覆い被さって何かをしていた。母が泣いている事に気が付いた俺は、その男に向って行こうとして、別の男に背中を切りつけられた。

自警団は詰め所を襲われて、父も殉職していた。


 次の日、目を開けた俺の前には、変わり果てた母の死骸があった。

聖騎士団による追撃に逃走するオーヴェスタ兵が家に入り込み、追走する騎士に発見されるまで、俺は母の死体を横目に、訪れる死を待っていた。

死にかけていた俺を、救ってくれたのが当時のフォルティス隊の隊長……フォルツァ先輩の父上だ。


 そして、死にかけで孤児になった俺を引き取って、面倒を見てくれたのは当時のフォルティス隊・副隊長のアラン・ケンドール……養父オヤジ殿だった。


 フォルツァ先輩は、恩人の子息というだけでなく、孤児だった俺に、差別する事無く相手をしてくれた。

士官学校では、フォルティス隊副隊長ケンドールの養子という事で、出自以上に、陰湿な嫌がらせがあった。校内試合で勝ち進む俺が集団で襲われた時、助けてくれたのもフォルツァ先輩だった。


剣技では負けない俺でも、集団で襲われて、無事では済まないだろうと覚悟していた。フォルツァの名を持つ、親と子、二人が俺の命の恩人になった。


 相手が貴族だった為、退校処分を覚悟していたが、上級生が集団で下級生を襲った、という事が、騎士道精神に欠けると、一対一での対戦を言い渡された。

公平を期すため、武器、防具全て同じものを用意され、建国記念の式典の余興として、騎士団の模範試合の後で対戦する事になった。


 試合の日まで謹慎処分で自宅待機だった俺は、養父オヤジに鍛え直され、満身創痍で試合に挑んだ。

結果は……現在フォルティス隊に所属している俺を見ればわかるだろう?ってことで割愛だ。


 俺の命の恩人で、敬愛するフォルツァ先輩に馴れ馴れしく言い寄るリンカ……同性愛嗜好の女かと思ったら……実は白の塔支部のリビングストン隊長だったエティと……

女装しているとはいえ、(エティ)と同衾し、人前で抱き合い、口づけされても受け流し、俺にまで一緒に寝ようと誘いかけた……


 なぁ~にが、『ウィル兄様』だ……ふざけやがって、尻軽女め……

あのお堅い神官長にまで、馴れ馴れしく抱っこされて、寝落ちだと……

揶揄うと面白いが、幼い振りして俺から世界情報を聞きだしたり、思った以上に、したたかな女だ。あの女の本性を暴いて、フォルツァ先輩の目を覚まさなければ……


 俺は神官長のいる執務室に向っていた。護衛のフォルツァ先輩はもちろん、シリウス隊長もそこにいるだろう。可愛い振りして平気で女装男リビングストンと同衾し、俺に一緒に寝よう誘いかけたリンカ……


護衛任務に就いている俺には、任務中の出来事を上司に報告する義務がある。ふっ……俺の報告を聞いて、あの女の本性を知るといいんだ。俺はほくそ笑みながら、執務室に入った。

だがそこに、敬愛するフォルツァ先輩の姿は無かった……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 大巫女ユーフェミアが、フォルツァの望みに対する返事についての神託を受けて、神官長に貸し与えた執務室に来たのは、ミレーヌがリンカを連れて退出した後だった。

執務室前で警護していたのは、カルセドニィとティアーズだ。


 大巫女の供をしていたレイラとシンディは、扉の前で待つように言い渡された。

入室を許可されず不満そうな顔をしたレイラだったが、カルセドニィの姿を見ると、艶やかな笑みを浮かべ、カルセドニィに話し掛けるのだった。



先触れも無しに、執務室を訪れた大巫女ユーフェミアに、

神官長は当惑気に声を掛けた。



「小母上……どうされました?」



「……そんな不機嫌そうな顔をするでないユースよ。用があるは、お主にでは無い、フォルツァにじゃ……」



「わ、私にですか?もしやそれは……」



 大巫女から用事があると言われて、フォルツァは身構えた。

だが、それが自分の望んだことに関する事だと思うと、緊張からゴキュっと音を立てて、生唾を呑み込むのだった。



「ふむぅ……フォルツァ……何時じゃ?何時からなのじゃ……」



「は?……大巫女様?」



「何時からなのじゃぁ、羨ましいのじゃ……」



「小母上……どうされたのです?何を取り乱しているのです?」



「フォルツァ……其の方いつの間に精霊王より加護を賜った?」



「はぁ?」



「精霊王の加護……フォルツァ殿に?」



「そうなのじゃ。精霊王の加護が有るから聖域に入れるそうじゃ……」



「「!」」



精霊王の加護が有るから聖域に入れるという大巫女の言葉に、神官長も、フォルツァも、暫しの間、呼吸する事さえ忘れてしまいそうだった。


「そ、それは、確かなのですか?小母上……」



「審議を問うとは……神託じゃぞ!……条件と制約付きで、特別に許可が出たのじゃ……」



 大巫女は前に組んでいた両腕の右手を右頬に当てると、信じられないと言う様にゆっくりと顔を左右に振りながら、大きな溜め息を吐いた。



「小母上、条件とは?それに、制約?ですか……」



「条件は、リンカじゃ……リンカが共にいたいと願えば、叶えられよう……」



 大巫女が告げた聖域に入るための条件を聞いたフォルツァは、この胸にある想いを、今すぐにでも、リンカに告げたい……告げなければと、思った。


フォルツァはミレーヌに連れられて部屋に戻ったリンカに会うために、精霊同士の念話を使って、まずはミレーヌに連絡を入れようと考えていた。



「難しい……条件ですね……」



小さく溜め息を吐きながら、神官長が呟く様にこぼした言葉を聞いたフォルツァは、頭から冷水を被せられたような気がした。


リンカに嫌がられると言われている気がして、つい神官長を睨んでしまった。

神官長は苦笑しながら、フォルツァに話し掛けた。



「あぁ……いや、そうでは無い……リンカは自分が『神の花嫁』と、知らない……付き添いとして、塔に来ていると思っている」



「……」



「リンカに『神の花嫁』として聖域に嫁いでもらう事は、

『花嫁の儀』が行われる前までには、話さねばと思っていたが……」



「……リンカに、神の花嫁と告げるは無用じゃ。それは要らぬと、神の言葉じゃ……」



リンカに神の花嫁について、話す必要が無いという大巫女の言葉に、それでは聖域に共に行きたいと、リンカに話す事が出来ない……。

フォルツァはリンカに対して、どのように告げればよいのか、どうすればよいか、わからなかった。


言葉を失った様に、黙して身動きしないフォルツァに、神官長が話し出した。



「フォルツァ殿……決意は変わっていないのだな?聖域にリンカと共に在りたいと……ならば今の内に、ご家族とお別れをしては?」



 フォルツァが聖域に行ってしまえば、今生で会う事は無いだろう。

今の内に、親兄弟と、別れの挨拶をして来るようにと、神官長は、フォルツァを諭すのだった。



「今宵、城にて『豊穣の乙女』を披露する夜会が執り行われると、神殿にも通達があった。主立った者は出席せよとの命が出されている。フォルツァ殿のご家族も、登城するのでは?」



神官長の言葉に、出来るなら別れる前に、何も言えなくても、顔ぐらいは見てから行きたいと、フォルツァは思った。


どうしようか迷っているフォルツァは、無言のまま天井を睨んでいた。


今まで黙って話しを聞いていたシリウスがフォルツァ告げるのだった。



「フォルツァ、明日の夕刻七の鐘まで特別休暇だ……」



「隊長……」



「塔に戻る時、城に残留している物から四人選んで連れてこい。人選は任せる。口の堅い者を選べ……」



「はっ!ご配慮感謝致します……では!」



 フォルツァは、右手を左胸に当て、シリウスに向けて騎士の礼を取った。

部屋から退出する直前、扉の前で振り返ると、両腕を胸の前で交差し、大巫女と神官長に、アスティ教の礼を取り、フォルツァは執務室から出て行った。





 夕刻の六の鐘に……

 白の塔から岸辺に架かる透明な通路を

 単騎で渡る、騎士の姿があった……



◇◇◇◇◇◇◇◇




~『豊穣の乙女』玲奈視点~



 朝起きて、身の回りの世話をする女官に言われてお風呂に入った。

ベッドから出ようとして、何故か下腹部に鈍い痛みがあったが、生理前にお腹が痛くなることがあったから、そのせいだなと思って気にしなかった。


 身体を清めて、女官がマッサージを始めた。それまで無駄話をしなかったその女官が私の肌を褒めた。年齢も近いのだし、もっと打ち解けて、話したらいいのに……

私はその女官に、『豊穣の乙女』では無く、これからは玲奈と、名前で呼ぶように話し掛けた。名前で呼び合えば、

もっと仲良くなれると思ったのに、その女官は青い顔をして、謝罪を始め、泣き出してしまった。

彼女は、青い顔をして涙を浮かべ、お許しくださいと繰り返していた。


 異変に気が付いた女官長が、その女官を下がらせたので、教育係の女官が、私に服をきせ、髪を梳かし始めた。

女官長が言っていた『塔』について聞くと、孤児院と花嫁学校の様なものだと、教えてくれた。花嫁修業を、私もした方がいいのか女官に聞くと、わからないと言われた。


今迄、聞いた事には明確に答えていたのに……理由を聞いてみようかと思っていたら、戻って来た女官長に、相手が決まっているから必要ないと言われた。


 『白の塔』には、まだ相手が決まっていない娘が相手が決まるのを待つ間に、花嫁修業をするのだと女官長が説明してくれた。そして、新たに私の世話をする女官を連れてきていた。

今度の女官は優秀だから間違いないと紹介された。

やっと慣れて来ていた前の女官が良かったのにと言ったら、本人がもう『塔』に帰る事を決めたと言われて諦めた……



「『豊穣の乙女』様、今宵乙女様をお披露目する夜会が開かれます」



朝食を食べていたら、女官長が話しを始めた。



「乙女様には、午前は礼儀作法、午後からは夜会の準備を致します」


「夜会って、舞踏会なの?」


「いいえ、ちがいますよ」


「違うの?じゃあダンスとかしないの?」


「……本日はお披露目の夜会ですので、私にはわかりかねます」


「ダンスはしなくてもいいのね?っていうか、できないけど……」


「乙女様は、笑顔で挨拶されるだけでよろしいのですよ。では、後の事は任せましたよ」


そう言うと、私の横にいる女官二人に目配せをして、女官長は部屋を出て行った。



「今日は何を勉強するのかしら?」


 私が問いかけると、教育担当の女官は小さな溜め息を吐いた。そして、何事か呟きながら確かめる様に、首を上下に頷かせながら、予定を確認していた。



「午前中は、夜会での礼儀作法を指導いたしますね」


「はい、お願いいたします」


「はぁ……何度も申し上げましたが、すぐに発言してはいけません」


 教育担当の女官は、私の身分が低いから、誰に話し掛けられても、直接言葉を交わしてはいけないと注意された。黙って、微笑んでいれば、それでいいらしい……



「私の身分が低いというのなら、『豊穣の乙女』などと呼ばずに、名前で呼べばいいじゃない……」


 イラッとした私は、教育担当の女官を、責める様に言ってやった。

怒るなら怒ればいい……。そう思っていたのに、女官は怒りもせず、言い返してきた。



「身分が低いといっても、それは貴族の方たちからという意味です。女官や使用人よりも、乙女様は上の立場です。感情的に責めてはいけません」


教育担当の女官は、更に小言を続ける。



「それから、仕事を離れた女官の中には、貴族の令嬢もおります。女官服を着ていない女官に、女官だからといって、話し掛けるのもいけません」


女官の話を聞いて、玲奈はうんざりしていた。


 私より、身分が下の者がいても仕事中以外は話し掛けるなってこと?私は、黙っていればいいのね……

いいわよ……何か言われても、黙ってるわよ。

あんたが何か言ったって、もう答えないわよ。


それからは、黙って女官の話を聞くふりをしていた。何を言われても、頭に入ってこなかった。どうせ黙ってろ言われるし……


そうだ!夜会って、皇太子様も参加するわよね……

言いつけてやる……教育担当の女官が虐めるって言いつけてやるわ。



「……と、いう事ですからね……。乙女様、わかりましたね?」


「ええ、わかったわ。ニッコリ笑って、黙っていればいいんでしょう?」


 私の答えを聞いて、教育担当の女官は、大変宜しいと言って、出て行った。

入れ替わりに世話係の女官がやってきて、昼食になった。

昼食は、雑穀粥だった。昼はコレって決まりでもあるのか、毎回この雑穀粥が出された。栄養が有るから、残さずに食べろというが、塩味が足りない……



「……残さずにお食べ下さい。夜会では……何も食べられません」


「え?そんな事ないでしょう?何か用意されているのでしょう?」


世話係担当の女官が、夜会では何も食べられないという……まさか、食べ物が何もでない夜会なのだろうか?飲み物も出ないというのか?



「高貴な方々……皇族もいらっしゃるのです。粗相があってはいけません」


 女官の言葉に、玲奈はムッとした顔をして、無言で粥を食べた。


粗相……粗相って何よ。小さな子供じゃあるまいし、こぼしたり、散らかしたりしないわよ……前の女官の子が良かったのに、皇太子様に頼んでみようかな……アンタの事も、言いつけてやるんだから……


 昼食が終わると、女官長が三人の女官を連れてやってきた。一人が大きな箱を持っていた。何が入っているのかと思っていたら、女官長がこの後で着る衣装だと言った。


 三人の女官が、女官長の指示によって私を浴場に連れて行った。

夜会を前に湯浴みするのは想定内だから、驚かなかった。でも、三人がかりで容赦なく体をこすられて、皮がむけるかと思ったわ。


 湯浴みの後、香油を塗られ体の毛を処理された。頭髪以外の毛を、全て処理された……眉毛も……下の毛も、ツルッと丸ごと処理されてしまった。

釈然としない私に、三人は一言も話さず黙々と作業を進めた。


 湯浴みが終わって、女官長の待つ部屋に戻ると、世話係の女官もいた。

二人はコソコソ聞こえない様に話しているのだろうけど、何故か『塔』という言葉が耳に入って来た。


 濡れた髪を、大きな和紙の様な物で何回も拭き上げ、髪の毛が乾いた。

乾いた髪は全て、細い三つ編みにされていた。生乾きの髪の毛にそんな事すれば、後で外した時はウェーブがかかって……うん、いい感じになるかも?


 髪を三つ編みにして結い上げた後は、化粧もされた。化粧道具は、日本とあまり変わらない様だった。ハケとか、ブラシとか……あ、でも、リップスティックは無いわね……

口紅は、パレットみたいなのに筆で最期に入れられた。


女官長が、綺麗に出来ているわ、と、三人の女官を褒めていた。


 化粧が終わって、次は着付けだ。ドレスかと思ったら、

豪華なギリシャ風の衣装だった。ホルダーネックで胸の下で紐が交差し、やたらと胸を強調するような衣装だった。大きな胸が、いつも以上に目立って、恥かしい……

衣装に合わせたのか、履物はサンダルだった。


 神官によって召喚されたらしいから、私って巫女みたいなものなのかな?

世界を浄化するとか、ゲームみたいに何かあるのかしら……



「とても、お綺麗です、『豊穣の乙女』様……」


 女官長が感嘆の溜め息を吐きながら思わず……という感じで私を褒めた。

私は出来上がりを鏡で見て、化粧した顔にビックリした。何?この顔??

まるでSF映画のアミ○○女王みたいに、白塗りで、額に模様が描かれていた。


顔と衣装が合って無いよ……ミスマッチだよ……

ああ、もう夜会なんて、行きたくない。こんな顔で人前になんか出たくない。


明らかに機嫌が悪くなった私を見て、世話係の女官が嘲笑を浮かべていた。



「い……嫌よ。夜会なんて、行きたくない……。行かないわよ!」


 私は女官を突き飛ばして、そのまま寝室に逃げ込んでカギを掛けた。寝室の外で、私を呼ぶ声がするけど、無視だ。知るもんか!



扉を叩く音が暫くの間していたが、諦めたのか急に静かになった。やがて、ドアをノックする音がして、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 それは、会いたくてたまらなかった彼の人の声だった……


次回も、玲奈視点で始まります。

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