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45.ミレーヌ


 

エレンが出て行った後、残されたエティは、下肢に刺激を与えぬようゆるりと移動して、トイレに入って行った……

滾っていた熱情を解放すると、精霊術で自身と衣服を清浄化した。

そうして何も無かった様に部屋に戻ると、寝台と室内の空気も、精霊術を行使して清浄な状態にするのだった。


 寝台で横になりながらエティは、リンカが無防備過ぎる件について、今後の為にも、一度じっくり言い聞かせる必要があるのではないかと、考えていた……





◇◇◇◇◇◇◇◇





 リンカはミレーヌに友達認定してもらう為に、話をする事から始めた。



「ミレーヌ……何歳なのか、聞いても怒らない?」



「別に、怒ったりしないわよ。二十歳だけど、だからなに?」



ミレーヌは怒ってはいないと言うけれど、不機嫌そうな様子に、友達への道は、険しそうだな……と、リンカは感じていた。



「えっと、二十歳ってことは私より二つ上なんだね……」



 『私より二つ上だね』……と言うリンカの言葉を聞いたミレーヌは大きな眼をさらに大きくして、リンカの全身を、大げさに首を上下にしながら凝視した。



「リンカ……からかわないでちょうだい。どう見ても、十八歳には見えないわよ」



「どう見ても……って……」



「だって、胸が無いじゃない。身長から考えても、十三……よく見ても、十五歳ってところでしょう?」



「胸が無い…………十五歳……」



 ミレーヌにはっきり言われてリンカのライフポイントはガリガリと削られていった。

リンカの身長は……日本人の女子にしたら平均身長だ。胸だって……

ミレーヌは、口をパクパクするだけで言い返せないリンカを見て笑っていた。



「ごめんね、リンカ……胸はあるわ………小さいのが二つ」



 ミレーヌの言葉に、一瞬浮上しかけたリンカだったが、後に続いた言葉に、更にライフポイントが削れてしまった。



「十五歳だったらわかるけど、十八歳でその大きさはないわー」



「うぅう……胸は、まだ……成長途中だから!!これからだから……」



「そう?そんなものだったかしら?」

よくわかんないけどね。オレ男だし……でも、面白いな……


ミレーヌは、リンカを揶揄う事が、段々楽しくなってきていた。


 リンカはエレン様に助けを求めようとしたが、エレン様はミレーヌと仲良くするのですよ……と言うと昼食の準備をして来ますね、と、メリルを連れて応接間を出て行ってしまった。


 リンカは涙目で、胸はこれから成長するんだ。発展途上なんだ……とか、独り言を呟いていた。


 それにしても、リンカのいた日本なら、免許証やパスポートでいくらでも証明できるのだが、異世界では、個人の証明ってどうやっているのだろう?


 リンカはミレーヌに、一般庶民は、どうやって個人の証明をするのか聞くことにした。


「ねぇミレーヌ……個人の証明って、出来るの?」



「個人の証明って?何の事?」



「生年月日とか、親は誰で家族は誰とか、そういった証明ってどうしてるのかなって?」



「変な事、聞くのね……」



 そう言いながらもミレーヌは、事細かに、リンカの質問に答えてくれていた。

ミレーヌの説明によると、出生した時か五歳になった時に、生れた地域の教会で、登録するのが一般的だと教えてくれた。

 

 その時余裕が有れば特殊な認識票を購入する事も出来るが、大抵は教会のリストに載るだけと言う事だった。

リストに載っている者が死亡するといつの間にか、死亡者の名前に、黒い線が入るらしい……


ミレーヌも、見たことは無いから、聞いた話でしか無いとの事だった。



「リンカのいた国ではどうだったの?」



「う~ん……届け出をする場所があって、生れた時も、死んだ時も、引っ越す……移動する時も、結婚する時も、届けをだすんだよ」



「何それ、面倒なのね……」



「うんそうだね、面倒かもね……でも、人口とか誰がどこに住んでるかとか、解り易くて便利だったのかなぁ……」



「ふ~ん……で、ジンコウって何?」



「え?あ、ああ……それは、例えばその地域に住んでいる人の数ね。年齢とか、性別とか、それぞれの数がすぐにわかるんだよ」



「へぇ~随分記憶術に優れた民族なんだな……」



「え?ちがうよ。記録する機械……道具があって、集計もあっという間に出来ちゃうんだよ」



「そんな道具があるのか?リンカのいた所って……どんな所だったの?」



ミレーヌの目がキラキラを通り越して、ギラギラ……しているのは、気のせい……だよね?リンカは狙われた小動物の様な気持ちになっていた。



「え~っと、私のいた日本って国はね……」

うわ~なんかミレーヌの目付きが……


「はやくはやくぅ、教えてぇリンカぁ~」


ミレーヌはリンカに強請りながら、自分から距離を取ろうとして、逃げ腰になっていたリンカの両肩をガシッと押えて、逃げられない様にしていた。



「う~ん……一言で言うなら、平和な国……だよ」



「えぇ~。そうじゃなくってぇ……もう、教えてくれないの?」



「そ、そんなことないよ。う~ん……あ!そうだ、いいこと考えちゃった!」



 大きな声でリンカはそう言うと、フンフンと鼻歌まじりで、ミレーヌに迫るのだった。


 一方、ミレーヌは迫ってくるリンカの勢いに、タジタジになって、ゴクっと、生唾を呑み込んでいた……






◇◇◇◇◇◇◇◇





 エティは一人、大人しく横になっていた……

だがそれも……もう、限界だった。


リンカが部屋から出て行ったまま、戻ってこない……

リンカが側にいてくれるなら、いくらでもベッドに入っていられるのに、一人はイヤダ……



「リンカ……」


エティは無意識の内に、リンカの名を呟いていた……

リンカに会いたい……一緒にいたい……

エティの足はゆっくり……応接間に向かって進んでいた。


エティは応接間に続く扉を、そっと開くと、中の様子を窺った……

そこには見知らぬ若い娘と、楽しそうに笑っているリンカがいた。


 あれは誰だ?何者か……

自分の知らないところでリンカに話しかけ、笑い合う見知らぬ若い娘……

エティは応接間の扉を音を立てて閉めると、隣あって座っているリンカと、誰かわからぬ若い娘の間に立ちふさがった。



「エティ姉様……」



「リンカ……戻ってこないので、迎えに来てしまいました……」



エティは振り返ってリンカの顔を見ながら言い難そうに言うのだった。



「エティ姉様……すぐに戻らなくてごめんなさい」



「……そんな、謝らなくてもいいのですよ。それよりも

良く知らない人物と二人きりでいるのは、危ないですからね。何もされませんでしたか?」



「な、何も……何もありません。ミレーヌはエレン様が……」



「エティエンヌ様、お初にお目にかかります。エレン様からリンカ様付き護衛兼侍女の命を受けました、ミレーヌと申します」



リンカがミレーヌを紹介するのを遮る様に、椅子から立ち上がると、ミレーヌは自己紹介を始めた。



「……護衛?ですか?あなたの様な若い娘が?」



「ええ、そうですわ。護衛に付けたベテランが倒れて使い物にならないから、是非にと……若い分体力もありますから、倒れたりしませんわ。エティエンヌ様」



「……若ければいいというものでも無いでしょう。経験も足りないようだし、礼儀作法もなってないようね……ミレーヌさん」



「そんなこと無いと思うけど……経験ねぇ……熱を出して護衛対象に看病されるなんて経験はした事はありませんねぇ……エティエンヌ様」



うふふふ、おほほほ……と、二人は張り付けたような笑顔で、表面上はにこやかに会話していた。だが、エティとミレーヌの間には、見えないブリザードが吹き荒れている様だった。


話しの途中で、ミレーヌが熱を出したエティを責めている様に感じたリンカは、ミレーヌからエティを庇う様に二人の間に割って入った。



「あ、あのね……ミレーヌ……エティ姉様が熱を出したのは、私がいけないの。だから、エティ姉様の看病は、私の役目だよ」



リンカがミレーヌに、エティが熱を出したのは自分のせいだから、看病するのは当然だと、詳しく説明しようとすると、ミレーヌが突然リンカを抱きしめた。



「リンカ……側仕えの護衛兼侍女を庇うなんて……優しいのね……」



ミレーヌはそう言うと、抱きしめたままリンカを頬擦りしていた。

リンカは、いきなりキスされたことを思い出して顔を赤くしていた。

エティは赤くなったリンカを見て、ミレーヌからリンカを引き剥がすと、自分の腕の中へと囲い込んだ。



「あなたは……リンカに対して何をやっているのですか?」



エティは、自分のしている事は棚に上げて、ミレーヌに文句を言い始めた。

ミレーヌはエティに、心外だという表情で、答えた。



「小さくて可愛いから、抱きしめて頬擦りしただけですけど、何か問題が?」



「……女性同士とはいえ……少々馴れ馴れしいのでは?」



「エティエンヌ様に、言われるほどではないですわ。それに、リンカに友達になりたいと言われましたの。仲良くなるにはスキンシップも必要ですわ。」



 エティはミレーヌからリンカを隠す様に、リンカに覆いかぶさっていた。

リンカは少し息苦しいと思ったが、嫌悪感は感じなかったので、そのまま腕の中でじっとしていた……




 リンカの頭の上での言い合いは、メリルが昼食を乗せたワゴンを押して、部屋に戻ってくるまで続いていた……

 

メリルは昼食を三人分しか用意していなかった。



「わ、わたし、食堂で食べますから……どうぞ……」



そう言うメリルに、エティ姉様が、優しく声を掛けた。



「まだ食欲が無いから……私の分はいらないわ。お願いメリル、私の分の食事を、代わりに食べてくれるかしら?」



「エティ様……」



メリルはエティに、自分の代わりに応接間で食べる様に言われたが、すぐに返事が出来なかった……此処で一緒に食べたいとも思ったが、食堂に食べに行けば、ソフィと話が出来るかもしれないと思っていたからだ。



「メリル、ここで、一緒に食べましょう。エティ姉様、食欲が無くても、少しは食べないと駄目です。私のを一緒に食べましょう?」



リンカはそう言うと、隣の椅子を手でポンポン叩きながら、エティに話し掛けた。



「エティ姉様は、此処に座って下さい」



エティはリンカの迫力に……無言で隣の椅子に腰を下ろした。

メリルとミレーヌも、各々テーブルに着くと、目の前の食事を食べる事にした。


 リンカは持ち手のついた器の中に入っている具だくさんのスープをスプーンでかき混ぜてから、ひとすくいした。

そして、フーフーと息を吹きかけて少し冷ましてからエティに差し出した。



「エティ姉様……あ~ん……」



 リンカがあ~ん、と言っても、エティはどうしていいかわからなかった。



「……エティ姉様、あ~んですよ、あ~ん……って、お口開けて下さい」



「……あ~ん……」



 リンカに言われて、エティが口を開けると、リンカがスプーンですくった、スープをエティの口に入れるのだった。

エティは初めての事に驚いていると、リンカが心配そうに声を掛けてきた。



「エティ姉様……熱くないですか?……美味しい?」



「だ、大丈夫、熱くないわ。スープ……美味しいわ」



エティがそう返事すると、すでにリンカも、スープを飲んでいた。



「美味しい……エティ姉様、はい、あ~ん……」



「……あ~ん」



 二口目のスープを口にしながら、エティはリンカと同じスプーンで、食べている事に気が付いた。リンカは何でもない事の様に、エティの口に、スープを運んだあと、同じスプーンでスープをすくって飲んでいる……



「リンカ……同じスプーンで食べるのは……」



「え?同じスプーンで食べるのって、ダメだったの?」



 リンカは、同じスプーンで食べる事がいけない事だと思っていなかった。

施設の下の子や、仲の良い友人と食べさせ合ったりする事があったからだ。



「ご、ごめんなさい。エティ姉様……イヤだった……」



リンカは慌ててエティに謝ろうとしてエティの顔を上目遣いに見上げた。



「リンカ……驚いたけど……嫌じゃないわ……」



「イヤじゃない?……ほんとうに?」



「えぇ、嫌じゃないわリンカ……」



嫌じゃないと言いながらエティは、リンカがやっていたように、スプーンでスープをすくって、自分が、リンカに食べさせようとした。


「リンカ……あ~……」



「はい、ア~ン……」



 リンカが、エティが差し出したスプーンを口にしようと、口を開いた時だった。

リンカの対面にいたミレーヌが、リンカが開いた口に、素早くスプーンを押し込んだ。



「リンカ、美味しい?」



「う……ん……ありがとうミレー……」



「あ~ん……」



 リンカがミレーヌにありがとう、と言っている途中で、

今度は隣にいるエティがリンカの開いた口にスプーンをねじ込んだ。

リンカは休む間もなく、もぐもぐ……と、口を動かしていた。


エティとミレーヌの二人から、次々と食べさせられて、リンカはもうこれ以上は入らないとばかりに、左手で口を隠し、右手を小刻みに左右に振るのだった。




 食事を終えて、リンカ、エティ、ミレーヌの三人は、

メリルが入れてくれたお茶を飲んでいた。メリルは食事の片づけをすると、食器などをワゴンに乗せて、応接間を出て行った。


 食べ過ぎて話しをする余裕も無いリンカは、無言でお茶を飲んでいた。

エティは涼しい顔でお茶を飲んでいたが、時々何かを思い出しては、目尻を下げてニンマリしていた。

ミレーヌはそんなエティをジトっとした目でチラチラ見る以外は、ずっとリンカを観察していた。


 リンカを値踏みする様にじっと見ているミレーヌに、

エティが話し掛けた。



「そういえば……ミレーヌは、塔にはいなかったわよね?」



 エティは、今日までミレーヌを塔で見た事が無いと言った。

不審がるエティにミレーヌは、当然だと答えた。



「今朝、神官長モナーフ様に、此方に連れて来ていただきました。塔で、護衛兼侍女をするのは初めてですわ」



リンカはミレーヌの、神官長に連れて来られたという言葉を聞いて、神官長に用事がある事を思い出した。



「神官長……まだ塔にいるかなぁ……」



 昨日神官長は、挨拶もしないで神殿へ戻ってしまっていた。

リンカは貰った髪飾りのお礼も言いたいし、お返しに作った飾り紐も渡したいと思っていた。



「神官長……モナーフ様だったら、大巫女様の執務室に行けば、会えると思うわ」



「大巫女様の執務室……」



「連れて行ってあげましょうか?」



考えこんでいるリンカに、ミレーヌが執務室まで連れて行こうかと言った。

ミレーヌは、リンカが行動を制限されているとは、思っていなかった。

塔からでなければ、執務室に行くぐらい何の問題も無いだろうと思っていた。


 リンカは自分がどんな状況なのか、だいたいわかっていた。

『豊穣の乙女』と違って、余計な者として迷い込んだ世界……

ユスティア様に気に入っていただいて、『神の花嫁』の付き添いとして、『白の塔』に来た……

大巫女ユーフェミア様、エレン様にも可愛がっていただいて、衣食住には、今のところ困ってはいない。でも、自由に出来ているかと言えば、そうではない……

そんな私が、許可も取らずに部屋から出ていいのだろうか……



「あ、あのねミレーヌ、私……部屋から出るのは……」



「……?何か問題があるのですか?」



「……エティ姉様……私、神官長に会ってもいいのかな……?」



「リンカ……神官長に……会いたいのですか?」



 リンカはエティから、神官長に会いたいかと聞かれると、言葉に詰まってしまった……

エティはリンカが、もしも神官長に会いたいと返事をしたら……それはどういった気持ちからくるものなのか、考えるだけで、エティは気が気ではない……

リンカの返事を、エティは息をひそめて、待っていた。



「……う~ん……会いたいというより、会わないといけないかな……って……」



「神官長に何か用事があるのですか?」



エティに聞かれてリンカは、神官長から髪飾りを貰った事を話した。



「神官長がリンカに贈りものを……」



 エティは、時分よりも年上の神官長がリンカに髪飾りを贈ったと聞いて、先を越された……と、そう思った。

そして、()()()として、リンカに贈りものをしよう、と心に誓っていた。


ミレーヌは、神官長が贈りもの……しかも女性(子供)に……と、思いもしなかった事実に驚いていた。



「神官長……まさか……幼女趣味が……」



 ミレーヌは、神官長が幼女趣味だったとは知らなかった、と呟いていた。

リンカはミレーヌの言う幼女が自分の事だと気が付いていなかった。



「神官長って……ロリコン?やだ……メリル大丈夫かな……」



ミレーヌはリンカの言葉に、なぜ自分では無く、メリルの心配をするのだろうと、首を傾げた。幼女体型で成人しているなど……特殊な性癖を持つ者がその存在を知ったら、

手段を問わず手に入れようとするのではないだろうか……

『白の塔』ならば、騎士と神官以外は女性しかいない。だから神官長はリンカを塔に、連れてきたのだろうか?


ミレーヌはリンカが塔に来たのは、副団長……ユスティア皇女の『神の花嫁』の付き添いだからだと、今も思っていた。

女装してリンカの護衛に着くことになったのは、先輩騎士のフォルツァに、リンカを守る様に頼まれたからだった。でも、何から守るかまでは聞いていない。

まさか神官長から守れってことじゃ……

嫌な考えが浮かんで、ミレーヌは肩を落とし、大きな溜め息を吐いた。



「ご、ごめんね、ミレーヌ……でも、部屋から出ていいか、エレン様に聞いてみないと、わからないから……」



ミレーヌがため息を吐いたのは、執務室に行くかどうかの返事をしない事だと、勘違いしたリンカは、返事できなかった事をミレーヌに謝っていた。



「エレン様が来るまで一緒に待ちましょう」



エティは項垂れているリンカの頭を撫でながら、リンカを慰めていた。


ミレーヌは消極的な二人の態度に苛立っていた。

エレン様の許可が無ければ、部屋から出る事も出来ないなんて、何でそんな風に思い込んでいるのかと、ミレーヌは思っていた。

外に出る訳じゃない……塔の中を移動するだけなのに何でダメなんだ?



「あ~、私ちょっと執務室に行って、神官長に会えるかどうか、確認してきますね~」



ミレーヌは言うが早いか、応接間を出て行ってしまった。

リンカは、いきなり執務室に行くより、会えるかどうか

確認してくると言ったミレーヌに、感激していた。



「そうだよね……急に行って、神官長いなかったら何にもならないよね」


リンカは独り言の様に、呟くのだった……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 シリウスはカルセドニィと共に、騎士団白の塔支部の執務室で、騎士団本部に出向して不在の隊長、リビングストンの代役をしていた。

三日後の『花嫁の儀』までに、塔にやってくるであろう皇族や貴族の警護の概要をまとめていた。


また、副官のフォルクスに、団員の能力や個人的な事を聞きながら、個人資料をチェックしていた。



「リビングストン隊長は、いつ本部から戻るのでしょうか?」



「上の意向だから……わからんな……」



フォルクスに聞かれて、シリウスは事も無げに答えた。

三日後に『白の塔』最大の神事があるというのに、隊長不在で、帰還がいつになるかわからない……


フォルクスは頭を抱えたかったが、隊長不在だからと言って、別の隊の隊長や騎士にみっともない姿を見せる訳に行かない……


 フォルクスは、リビングストン隊長の代わりに、当日の人員配置の計画を立てる様に、シリウスに指示を受けた。



「は!」


フォルクスは了承すると、騎士の礼を取って執務室を出て、隊員の待つ鍛練場に、午後の訓練をする為に向かうのだった。


 シリウスとカルセドニィも、フォルクスが執務室を退出するのと同時に、リビングストンの執務室を後にした。





◇◇◇◇◇◇◇◇





 大巫女ユーフェミアの執務室の扉の前には、シリウスの部下の二人の騎士が警護に付いていた。


 聖騎士団白の塔支部・隊長執務室から、シリウスとカルセドニィが、大巫女の執務室に戻って来た。


 シリウスはカルセドニィに、警護していた二人と順番に休憩する様に言うと、執務室の中へと入って行った。


 執務室の中には、神官長と、その護衛としてフォルツァが側に付いていた。

黙々と仕事をしている神官長と、その傍らで無表情に警護しているフォルツァ、二人の様子に、何か不穏な雰囲気をシリウスは感じていた。



 執務室の外の扉の前では、カルセドニィ、ロータス、ティアーズの三人が、誰から休憩を取るか話し合っていた。まだ食事もとっていないロータスとティアーズの二人が、休憩を取る事に決まった。


カルセドニィ一人を残して、二人が騎士団宿舎に向かって通路を歩いていると、見目麗しい侍女とすれ違った。

ロータスとティアーズは、侍女が通り過ぎた後も、立ち止まってその行方を見ていた……すると、残っていたカルセドニィが、その侍女に話し掛けるのを見て、二人はウンザリした様に顔を見合わせると、再び通路を歩き始めた。


 執務室の扉の前で、カルセドニィは執務室を訪ねてきた美しい侍女に、興味のない振りをしながら、侍女の全身をチェックしていた。


 其の侍女が、神官長に面会したいとカルセドニィに言うと、侍女を手で制し、カルセドニィが扉をノックして、神官長に侍女が面会に来ている事を告げた。

すると、扉が開いて中からフォルツァが顔を出すと、侍女の手を引いて、執務室に引っ張り込む様に中に入れると、扉を閉めた。


 カルセドニィは、焦った様なフォルツァの態度を不思議に思いながら、侍女が出てきたら、名前を聞いて口説かなければ……と、変な使命感に駆られるのだった……


カルセドニィという男……

女性を見たら口説きます。


……こんな人物には要注意です。

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