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44.フォルツァの願望


 エティ……リビングストンは、無邪気で無防備なリンカに煽られて、内に籠った熱情を、冷水を被る事で鎮めようとした。

冷水を被り冷えきった身体を温める事が出来ずそのまま眠りについたリビングストンは、高い熱を出した。



あぁ……熱い……

頭がボーっとして……何も考えられぬ……


夢を見ている様な、夢の中にいる様な感覚の中、甘い……

甘露が私の喉を潤した……


あぁ……もっと……もっと欲しい……

私は夢現のまま、貪る様に甘い甘露を吸ったのだった……


 私が目覚めて初めに目にする者は……リンカだと思っていたのに……

何故か、エレン様だった……


エレン様に急いで着替える様に言われる。リンカに見られたら……

マズイなんてものじゃない……死ぬほど恥ずかしい……

上衣を脱いで着替えていたら、エレン様が、女装具の感触を確かめて……

なぜ、そんな絶妙な力加減で揉むのだろう……

揉まれた感触は私にはわからない……わからなくて良かった……


 エレン様の女装具チェックが終わり、着替えを終えた私が寝台に腰掛けていると、高熱を出し、意識朦朧としている私をリンカが介抱してくれたという……

エレン様から、リンカが口移しで薬を飲ませたと聞いた私は、夢現に、甘い……甘露を貪る様に吸った事を思いだした。

あれは……あの甘い蜜はリンカだったのだ。


 私はエレン様からその話を聞いて、知らずに味わった幸福をゆっくりと思い出していた。だが、いくら思い返しても……その時のリンカの様子が思い出せない……

拒絶されてはいなかったと、嫌がってはいなかったと、思いたい……



食事に行っていたリンカが部屋に戻って来た。私はそっとリンカの顔を見て……

あぁ……何て愛らしい唇……あの唇が私に……

寝台に腰掛けたまま、そんな事を思っていたら、リンカに寝る様に怒られてしまった。

もぉ~っと言って、怒る仕草が何だかかわいい……


 それにしても、着替えが終わっていて……リンカに見られなくて良かった……

そんな事を考えながらベッドに入って、上を向いた時、リンカの顔が私に近付いてきた。私は目の前に迫ってくる愛らしい唇から目が離せなかった。


 リンカが私の額に自身の額を合わせて、何か確かめている……

口移しの事をエレン様に聞いてから、リンカの唇を見ると思い出してしまう……

私の顔は、自然と赤く染まっていた様だ。リンカに心配されてしまった……


 エレン様に何か食す物をと言われたが、今は何も食べられそうにない。

私はリンカに叱られない様、大人しく寝ているしかなさそうだ。

そもそも熱を出すなど、護衛として失格かもしれない……


エレン様が、リンカに私をずっと見張っている様にと言いつけて、部屋から出て行かれた。リンカは、食べれなくても水分は必要だと、水分を取ってほしいと言われた。

寝ている私が水を……


私はリンカに飲ませてほしいと、甘えてみた。寝ているままでは飲みにくい。

もしかしたらまた……そんな期待は、あっさりと裏切られてしまった。

上半身を抱き起こされ、コップに入った水を口元にあてられた。あぁ……残念だ……


横になった私に、リンカが掛け布をかけてくれた。リンカが離れて行く予感に捕まえなければ、とその手をとった。離してと言われても、嫌だ。離したくない。

私はリンカに側についていてほしいと強請った……

そして、手にしていたリンカの手の指先に口付けしようとした時、《ネムレ》と頭の中で声が聞こえた……



 闇の精霊ダークによって浅く長い眠りについたエティ……リビングストンは奇妙な夢を見ていた。


 それは古い活動写真の様な、静止した映像が次々と流れて行く様な、自分なのに自分では無い、生まれてから死ぬまでの物語を延々と見せられている様な夢だった……

 

 掴もうとしても掴めない、すくっても手の平から零れ落ちて行く……

どんなに手を伸ばしても届かない……目の前から消えていく……

身体は何かに押さえつけられたように、重く動かない……


 エティは、幸せな温もりに包まれているのを感じていたのに、いつからか心を占める大きな喪失感に、涙が止まらなくなっていた。


 イヤダイヤダ……モウミタクナイ


エティは、心も体も、凍り付いてしまった様に感じていた……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 トクン……トクン……

 二つの鼓動が重なり合う……

 遠い昔……失くしてしまったモノ……

 何よりも近くて……何よりも愛しい存在……

 永き時の果て……漸く巡り合えた……

 もう……離さない……ずっと……一緒に……





 氷の精霊ロップにより、氷の様に冷えきっていたエティだったが、リンカによる人肌密着で、徐々に温もりを取り戻していた。



「うぅ……ん……」



 長い夢から覚める様に、エティが目覚め始めた。

半覚醒のエティは、寝ぼけた目から入る情報よりも、肌に触れる柔らかな感触と、鼻をくすぐる甘い香り……そして、かすかに聞こえる寝息に、何が起こっているのか、わかっていなかった……

遠く響いて来る鐘の音さえ、頭に入ってこない……


 エティは左足に巻き付く様に足を絡め、胸を枕に寝ているリンカを見て、困惑していた……


愛しいリンカが自分の胸で……腕の中で寝ている……

エティは腕の中の愛しい存在に、鼓動は激しくなり、左手に触れる肌の、柔らかく滑らかな手触り……絡み合う足の感触に……自分自身の膨張を、抑え切れなくなりそうな気がしていた。

だが、自分は今『女』……エティなのだ、こんな事で、リンカにエディだと悟られるのはイヤだと、エティは思った。

 

 エティは、このまま張り続けて誤魔化せなくなってしまう前に、リンカを起こそうと、声を掛けた。



「……リンカ……起きて下さい、リンカ……」



「……」



「リンカ……お願い起きて……」



「……うぅん……やぁ……」



 優しく声を掛けるだけでは、リンカは起きそうにも無かった。

エティは、左腕でリンカの背中をゆっくりと擦りながら、再度声を掛けた。



「リンカ……起きて……起きて下さいリンカ」



「う~ん……やだっぁ……離れるのやぁ」



 寝ぼけているのかリンカは、それまでエティの左足に絡めるようにしていた足を、今度はエティを跨ぐように足を広げ、枕にしていたエテイの胸だけでは無く、今度は上半身を敷布団の様にして寝始めた。



 エティは、困惑していた……嬉しいが、困る……手を出したくても、手を出せない……生殺しにされているかのような状況で、自分と自分自身の忍耐を、試されているのだと思っていた。


エティは、もう一度リンカを起こすために声を掛けた。



「リンカ、起きて下さい。起きないと悪戯しますよ……」



 エティがそう言って、リンカの上半身を両手で持ち上げようとした時、リンカが急に頭を動かした。リンカの顔を覗き込む様にしていたエティの顎に、リンカの後頭部が直撃した……リンカは痛む後頭部を撫でながら、エティにはわからない事を言っていた。



「うぅ……お、でこに肉……かかないでぇ……って……え?あれ?」



「……やっと……起きましたか?リンカ……」



 後頭部を撫でながら上半身を起こしたリンカは、寝ているエティに跨って、馬乗り状態になっていた。


 冷えきったエティを人肌で温めるために、リンカは下着姿だった。

上半身は胸の前で閉めるタイプのビスチェ、下肢は腰の外側をヒモで結ぶ、所謂ヒモパンだった。


 エティは目覚めたリンカの胸元を見てしまい、慌てて目線を下にした事で、自分に跨っているリンカの股間を直視してしまった。



「!!……」



 リンカが寝ている間にひもが緩んでしまったのか、前身ごろが、かろうじて引っかかっている様なヒモショーツに、エティは驚くあまり視線を外す事が出来なくなっていた。


 エティは、血液が一気に下半身に向かって流れて行くような感覚に、これ以上リンカを見ている事が辛くて、苦しそうな表情で目を瞑った……



「あ!ご、ごめんなさい……重いよね……」



 リンカは辛そうな表情で目を瞑ったエティを見て、慌ててエティの上……寝台から降りようとした。

寝ているエティの左側に移動している時、リンカは足の付け根に、何か硬い物が掠った様な気がした。


エティが辛そうに、小さく呻き声をあげたのを聞いて、リンカは慌てて寝台から降りようとして、床に転がり落ちてしまった。


 ドタッ……っという音と共に寝台から落ちたリンカは、お尻を床にぶつけて痛そうにしていた。


落ちた拍子に紐が緩んでいたのか、リンカのつけていたビスチェがずれて、まだまだ硬い花の蕾のような膨らみが露わになっていた。

ショーツは右側の紐が解けてぎりぎり、股間に挟まっているだけだった。



 エティは寝台から落ちたリンカに、何かに耐えながら、上半身を起こし、声を掛けようとしてリンカを見てしまった。



「!!…………」



リンカは上向きに倒れたまま呆然としていた。



「び……びっくりしたぁ……」



「……だ、大丈夫ですか?リンカ……」



エティはリンカに声を掛けながら、ゆっくり顔をそらした。



「う……うん……だいじょ……ぅわっ!」



 身体をおこそうとしてリンカは、自分が今どんな状態なのかようやく気が付いた。

下着姿には自分からなったのだから、今更なのだが、まさかショーツの紐が解けて脱げそうになっているのと、ビスチェがずれて他人にはあまり見せたくはない部分がポロリしている事に、つい声をあげてしまったのだ。


 リンカは、お風呂でなら、全裸を他人……同性に見られる事にも平気だが、着替え中とかでもなく中途半端に脱げている状態が羞恥心を煽り、床の上で、身体を隠す様に縮こまり……リンカは身動きが取れなくなっていた。


エティはエティで……諸事情からベッドから出る事が出来なくなっていた。


 リンカとエティ……二人ともいっぱいいっぱいの、膠着状態は……そんなに長くは続かなかった。






◇◇◇◇◇◇◇◇





 リンカが個室に戻って行ったあと、応接間で一人残されたメリルは、新しく習った矢羽模様のミサンガを黙々と編んでいた。

細かい手作業に没頭する事で、ソフィに言われた事も、段々と薄らいでいた。


 メリルが矢羽模様らしくなってきたミサンガを手に取って、上手に出来ているかどうか、考えていると、応接間の扉を、誰かがノックしていた……

メリルが確認すると、扉の外にいたのはエレンだった。


 エレンは、新たにリンカ付きの護衛、兼侍女を連れて来ていた。

そして、メリルにお茶の用意をする様に言うとリンカを呼びに一人、個室へと向かった。


 エレンが応接間の奥の扉を経て、リンカの部屋の前に近付くと、室内から何かが倒れたような音が聞こえてきた。


 リンカの部屋の前でエレンは、中にいる人の感情が、歓喜と後悔、不安、絶望……ありとあらゆる感情が入り混じって、混乱しているのを感じた。

室内で何が起こっているのか……



「リンカ……いいですか?開けますよ……」



 エレンはノックするのももどかしく、声を掛けながらドアを開け、床に座りこんでいるリンカを見て、息をのんだ。

リンカは下着姿で……しかも脱がせる途中の様な……中途半端に体に残っている状態だった……リンカが脱いでエティに迫ったとは思えない……

リンカの感情にエティを忌避しているものが無いのを感じて、エレンはエティが、リンカを襲ったという事でもなくて良かったと、安堵した。


 エレンは、座りこんでいるリンカの前にしゃがみこむと、落ち着かせるように、優しく話し掛けた。



「リンカ……落ち着いて……ねぇ、まずは衣服を整えましょう?」



エレンに言われてリンカは、黙って首を上下に動かしていた。


 エレンは、ずり落ちて胸が露出しているビスチェを手早く整えると、

紐を締め直した。リンカが自由に動かせるようになった手で、ショーツをなおそうとすると、エレンがリンカを立たせて手早く紐を、左右両側とも、リボン結びに、結び直した。


それから、エティが寝ている寝台とは別の寝台の上に、リンカが放って置いた巫女風の貫頭衣を着せて、肩、胸、腰の余っている部分を紐で調節して、朝とは少し違う感じに着付けしていた。


 衣服を着用して、落ち着きを取り戻したリンカに、話しは後で聞くから、応接間でお茶を飲む様に、エレンは言うのだった。


 素直に部屋を出て応接間に向うリンカに、エレンは小さな溜め息を吐き、羞恥で固まっているエティをみて、大きなため息を吐くのだった。



 リンカがエレンによって着付けられている間も、眼を閉じ顔を背け、何かと必死に戦っていたエティは、上半身はかろうじて動かす事が出来た。



「よく耐えましたね、エティ……」



 エレンはエティに声を掛けると、事情はリンカに確認すること、十二の鐘の後また来るわね、と言って早々に部屋を後にした。



 エレンが応接間に戻ると、しょぼんとしているリンカを、メリルが慰めていた。

ミレーヌは、そんな二人を少し距離を置いてじっと見ていた。


 エレンはリンカの対面に腰を下ろすと、メリルが茶を入れ終わるのを待って、リンカに話し掛けた。



「それで……リンカ、何があったのですか?」



「あ、あの……エレン様……」



「ゆっくりで……いいですから、話してくれますね?リンカ」



「は、はい……あの……エティ姉様と……一緒に寝ていただけなんです」



「!……ぶふぉっ……」



リンカの話に、ミレーヌがお茶を吹き出していた。

エレンはミレーヌをジト目で一睨みすると、リンカにもっと詳しく話してほしいと言うのだった。



「私がいけないんです……エティ姉様を冷やし過ぎてしまって、凍えていたので、温めるのに、寝ていただけなんです……」



「下着姿だったのは……?脱がされたの?」


 

ガチャン……

エレン様の下着姿……脱がされた……と言う言葉に、ミレーヌはソーサーの上に、カップを落としそうになって、派手な音をたてた。



「身体を温めるのは、人肌がいいから……でも、裸は恥かしいから、下着で……」



「あぁ、リンカ……責めているのでは無いのよ。そうよね……裸は恥かしいわよね。それで……どうして床に座っていたの?」



「そ、それは……ベッドから落ちて……」

うぅ……まぬけすぎる……



「どうして寝台から落ちてしまったの?エティに……何かされたの?」



「ち、ちがう……違います。自分で……エティ姉様から降りようとして、勢いあまって転げ落ちたんですぅ……」

うぅ……もうやだぁ……私……バカみたいだぁ……



 リンカはエレン様に話しているうちに、あまりにも情けなくて、心が折れそうだった……

メリルや、エレン様に自分のドジ話を曝露するのも情けないが、もう一人同じ年頃の美少女がいるのに……自己紹介する前からドン引きされている……

リンカは机に頭を突っ伏して溜め息を吐いた。



「リンカ……何も無くて良かった……」



 エレンはそう言いながら、リンカの頭を撫でて慰めていたが、中々浮上してこないリンカに、エレンは考えを巡らしていた。

そういえば……と、エレンは思い出したようにリンカに、

ミレーヌを紹介する事にしたのだった。



「リンカ……紹介がまだだったわね……護衛兼侍女のミレーヌよ」



 エレンがミレーヌの事をリンカに紹介しても、リンカはうわの空で、聞いているのかいないのか……そんな状態だった。

そんなリンカをミレーヌは冷めた目で見ていた。

今迄リンカと言葉も交わしていないミレーヌにしてみたら、自分を見ようともしない……顔は此方に向けていても視線を合わそうともしないリンカに、ミレーヌは苛立っていた……


 ミレーヌはリンカに近付くと、両手でリンカの顔を掴み、いきなりその口に、口をつけるのだった。



「!!」



「ミ、ミレーヌ……何を……何をしているのです貴方は!!」



 いきなり、リンカに口づけをしたミレーヌを、エレン様が激怒している。

だがミレーヌはシレッとした顔でエレン様の怒りをスルーしている。



「な、な、な、にゃにを……」



リンカは同性とはいえ、いきなり口づけをされて驚くあまり、真っ赤な顔をして、思いっきり言葉をかんでいた……



「ああ……ようやく視線を合わせてくれましたね……」



ミレーヌはリンカに向かってそう言うと、会心の笑みを浮かべていた。



「リンカ様、初めまして……ミレーヌと申します」



ミレーヌはリンカに向って話し掛けると、笑顔のままリンカの返事を待った。

リンカはミレーヌの言葉に、エレン様がミレーヌの事を紹介している時、上の空だったことを思い出し、失礼な事をしてしまったと大反省中だった。



「様なんて……リンカと呼んで下さい。それからあの……ごめんなさい」



リンカはミレーヌに頭を下げると、そのままエレン様にも、頭を下げ謝罪するのだった。



「リンカ様は素直な方なのですね……」



 ミレーヌの中で、リンカに対する評価が少しだけ良くなった。



「リ・ン・カ・です。ミレーヌさん……」



 リンカはそう言いながら、自分を見ているミレーヌの右手を握って、ブンブンと上下に振っていた。

この世界には、握手という習慣が無く、ミレーヌは目をパチパチさせていた。



「ミ・レー・ヌ・です……リンカ」



「ミレーヌ、この子はメリル、私の大切な、お友達だよ」



リンカはミレーヌに、メリルの事を友達だと紹介した。リンカに大切な友達だと紹介されたメリルは、両手を小刻みに振りながら、アワワ、アワワと焦っていた。



「お友達だなんて……お、お世話係でしゅぅう……」



文末がカミカミになってしまったメリルは、耳まで真っ赤になっていた。

リンカはそんなメリルを可愛い可愛いと、抱きしめていた。



「ミレーヌ……嫌じゃ無かったら……お友達にな……」



「嫌です」



 リンカがお友達になってと、言う前にミレーヌは

はっきり嫌だと答えていた。



「う、うん……調子にのってごめんなさい……」



ミレーヌの返事を聞いたリンカは動揺を隠し、表情を取り繕いながら、小さな声で言うのだった。

ミレーヌはそんなリンカの様子を見て、ちょっと虐め過ぎたか……と思っていた。

面倒で、舌打ちしたいような気もするが、エレン様の視線が恐ろしい……



「もう少しリンカの事を知ってから、友達になります」



ミレーヌは、そう言った後、他人にはわからない様小さく溜め息を吐いた。

リンカは嬉しそうに、よろしくね……とミレーヌに言うのだった。


ミレーヌは、目指せ友達とか、なんとか言っているリンカを見て、苛立ち……顔は笑っていても、目が少しも笑っていなかった。


ミレーヌ……ミランは大好きなフォルツァがリンカを大切に思っている事が許せなかった。

同性とはいえ、下着姿で抱き合って寝ていたなど……破廉恥な……

リンカの話を聞いて、ミレーヌは性悪なリンカにフォルツァが騙されていると、そう思い込んでいた。


いい子ぶってるアンタの本性……暴いてやる……

そんな本心を、ミレーヌは笑顔に隠してリンカに接しているのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇






 大巫女ユーフェミアの執務室で、フォルツァは神官長から、聖域に行くことを諦める様に諭されていた。



「神官長……どうして……どうしてわかってくれないんですか」



「わからないのは、貴殿の方だろう?フォルツァ……」



リンカと共に聖域に行きたいと、フォルツァは決心していた。だが、此方に血縁者のいないリンカと違って、フォルツァには親兄弟がいる。

聖域に行くには……行ったらもう二度と会えなくなってしまうのに……


二人の話は、平行線をたどっていた。


 フォルツァは神官長が何かを隠しているのがわかっていた。だがそれが何か、わからなかった……



「神官長……何を隠してるんです?どうして言ってくれないんですか?」



「…………」



フォルツァが何度聞いても、神官長は話してくれなかった。

苛立ったフォルツァは、椅子を思い切り蹴とばした。

予想以上に大きな音が、大巫女の執務室に響いた……

蹴り飛ばした椅子を元に戻している内に、フォルツァは

こんな事なら大巫女に直接訴えていれば……と考えていた。


 次に大巫女様に会ったら、直接……

フォルツァがそんな事を考えていたら、執務室の扉が開いた。


大巫女ユーフェミアが、シンディを伴って、執務室に戻って来た。

シンディは、大巫女ユーフェミアに言われて、ワゴンに乗せてきた四人分の昼食を机の上にそろえると、礼をとって、執務室を出て行った。


退出したシンディと入れ替わる様に、エレンが執務室に入って来た。

大巫女ユーフェミアは、フォルツァが話したい事があるのは知っているが、先ずは食事をと、神官長とフォルツァに言うのだった。


 誰も余計な事は言わず……黙々と取る食事は味気ない物だった。

エレンが食後のお茶を入れると、大巫女ユーフェミアが、話し始めた。



「……ふぅ……それで、フォルツァ……我に言いたい事があろう?何を言っても咎めぬ……はっきりと望みを言うのじゃ……」



「……大巫女様……リンカが聖域に行くときに、私も共に行きたいのです。どうか私をリンカと共に聖域へ……」



大巫女はフォルツァの真剣な眼差しに、心打たれた……それに……いつの間にかフォルツァは、それとは気づかずに、ある()()を満たしていた。



「フォルツァ……其の方、もしやリンカの事を……」



大巫女ユーフェミアがそのすべてを口にする前に、フォルツァが胸の内を明かした。

真っ直ぐなフォルツァの想いに、大巫女ユーフェミアは眩しい物を見る様に、目を細めた。『感受の巫女』エレンは、能力など関係なしに、溢れ出すフォルツァの愛情に心が震えるのを感じていた……


これは……リビングストンもかなわないわね……

エレンはエティ……リビングストンの事を思うと、胸が痛んだ。


大巫女ユーフェミアは、エレンに目配せすると、『神の花嫁』について……

ひいては自分とエレンの秘密について、フォルツァに話し始めた。


聖域に留まれば、親兄弟には、二度と会う事叶わず、また時の流れが違う故、聖域を出るのが何年後になるのかわからぬ事、人間ひとではない、別なものになってしまう事など……諭す様に細かく大巫女ユーフェミアは、フォルツァに話すのだった。


フォルツァの心はもう決まっていた。だが、即答しようとするのを、神官長が止めた。


大巫女ユーフェミアも、聖域に入る為には神々に許可を取らねば……伺いを立てねばならぬと、その返事をするまでは何も言うなと厳命した。



フォルツァの願望が叶うかどうかは、神の意思にゆだねられる事となった……


大巫女ユーフェミアも、エレンも

実年齢までは話さなかったみたいです

フォルツァも、恐ろしくて質問できないですよねぇ

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