31.異世界で女子会
湯浴みを終えて、セクシーな夜衣を着たリンカに、直視出来ずにエティ……リビングストンは部屋を飛び出して行った。
髪がやがて乾いた頃、少し厚手のガウンを持ってエティが戻って来た。
「そのままでは、湯冷めしてしまいます」
そう言うと、ガウンを肩にかけてくれた。
「では、私も湯浴み……してきます……」
そう言ってお風呂に行こうとしたエティに、声を掛けた。
「待って、あのね……」
私は浴室に置いたままの、シャンプー、トリートメント、ボディソープの使い方をエティに説明した。
エティは顔を薄っすらと赤くしながら、聞いていた。
「リンカと同じ甘い香り……」
「?……使い方大丈夫かな?じゃあ、ごゆっくり……」
私は浴室を出て、もう一度クローゼットを確かめた。
寝間着は、やっぱり薄手のセクシー系が多い。
エティみたいに大人な女子なら似合うだろうけど、私にはちょっと……無理だよねー。
こうなったら、もう一枚重ねて着ちゃうか……
薄手の生地だったから、重ねても違和感が無かった。
いや、そもそも重ねて着るものなのかも?う~ん、メリルがいたら、聞く事が出来たのにな……
応接間で顔を合わせたら、確認しようっと。
しばらくして、エティがお風呂から出てきた。
ぅわぁ~……色っぽい……白い肌がほんのり色づいて、
鼻血ものの、色っぽさです。ほへぇ~……って見ていたら、エティと目が合った。気怠い感じがたまりません。
はぁはぁ……これは、もう、やるしかない!!
「エティ~……あのねぇ、お願いがあるんだけど」
「?な、なんでしょう?リンカ……?」
「ふふふ……エティ、こっちに来て……」
私はエティの手を引くと、椅子に座らせた。そして、恥かしそうにしているエティに、囁いた。
「動かないで、じっとしてて……私がやってあげる。」
「リ、リンカ……?な、なにを?」
「動いちゃダメ。気持ちよくしてあげるね……」
私は、大きな布でエティの濡れた髪を、拭い始めた。
「エティの髪って、真っ直ぐで綺麗な髪だね。トリートメントが効いて、サラサラだね。ふふ、同じ香りだぁ」
「リンカ……」
「いいなぁ、真っ直ぐで、サラサラ……」
私は、エティの髪を櫛で梳かしはじめた。
エティは黙ってされるがままだった。
「痛くない?気持ちいい?ねぇ?私上手でしょう?」
「え、えぇ、気持ち、いいです。リンカ……」
「サラサラで、いいなぁ。憧れちゃう……」
私はエティの長い髪をゆるく編み込むと、
背後から覗き込むようにしながら、声を掛けた。
「どうかなぁ?引っ張られるようなところある?」
それまで目を閉じて、されるがままだったエティが
ゆっくり目をあけた。思っていた以上にお互いの顏の距離が近い……
優し気なクリームブラウンの瞳、誰かに……そうだ、エディに似てるんだ。
「エティ……って、エディに、そっくり……もしかして、
エディの姉弟なの?お姉さん?それとも、妹なの??」
一瞬身構えた様子のエティが、気まずそうに、何も聞かないで下さいと言った。
「ご、ごめんなさい。言いたくない事とかあるよね。へんな事、聞いてごめんなさい……」
私は、髪を結わせてもらった事で、馴れ馴れしくし過ぎてしまった。同じ部屋なのを嫌そうにしていたのをすっかり忘れていた。
「エティ……私の事、嫌なんだよね?ごめんね。馴れ馴れしく髪の毛いじったりして……」
「そんな事……リンカを嫌なんて、思うわけが!」
不意にエティに抱き寄せられた。椅子に座っていた
エティの膝の上に倒れこんでしまった私を、エティは抱きしめていた。
「私が、リンカを嫌がるなんてことありません」
そう言うと、私の頬に口づけをして、すぐに離れたエティの顔は赤くなっていた……
私はエティが親愛の意味でキスしたと思ったから、同じ様に、エティの左の頬にキスを返した。
すごく照れる……。これは、顔が赤くなるわけだ。
私の顔も真っ赤になっていると思う……
「エティ……姉様って、呼んでもいい?」
「……い、いいですよ。リンカ……」
「ありがとう。エティ姉様……」
エティの膝の上で抱き寄せられたままだった私は、甘える様にその胸に顔を寄せた。
なかなかの弾力、羨ましい……
そんな事を思っていたら、部屋のドアをノックする音がした。
私はエティの膝から下してもらうと、部屋のドアを開けた。
其処には、中を伺う様に見るティア様とエレン様がいた。
「……遅いですわよ、リンカ。待ちくたびれましたわ」
「メリルったら、リンカ様に教わって下さいって言って、
自分だけ編み始めてるのよ」
なるほど、それでお二人が、迎えに来たんですね。
「わかりました。エティ姉様も、一緒にいくよね」
「?リンカ……姉様って?エティ姉様って??」
「……エティと仲良くなったんですか?リンカ様……」
これはまた……違う方へ向かったものだわ……
エレンは眉を寄せて、部屋の奥にいるエティに目をやった。
「そうなの、姉様って呼んでもいいって、言ってくれたんだよ。それに、私が髪を結ったの……上手にできてると思うんだけど、どうかな?」
私はエティを手招きすると、両手を腰に回して背後に立った。
そのまま、前にいるティア様とエレン様の二人に、エティの背後から覗き込むように声を掛けた。
「エティの髪って、サラサラしてて、すっごく手触りがいいんだよ」
私は、自分の事の様にエティの髪を褒めた。
「仲が良くて、よろしゅうございました……」
エレン様はあきれた様な表情で私とエティを見ると、そう言って、小さな溜め息をついた。
「く……エティばかりずるいわ。リンカ、私の事もお姉様と……」
「リンカ様、お茶でも飲みながら、致しましょう」
ティア様が全て言う前に、エレン様はそう言って、エティと私の手を引いて、応接間のソファへと誘った。
ソファには、既に三センチほど編み進めているメリルがいた。
配色が青を基調としている……もしや、異性へのプレゼントか?
うっふっふ~、メリルってば、やるなぁ……ニヤニヤしながらメリルの事を見ていたら、私が来たことに気が付いた様だ。
「リンカ様、ここまで一人でやってみましたけど、どうでしょうか?」
メリルは、ミサンガ作りに夢中みたいだ。簡単だし、
応用きくし、私も一時期嵌まったなぁ……なんて、思い出していた。
「メリルはもう、一人でも出来そうだね。それ編み終わったら、違う模様で編んでみようか?」
「リンカ、そ、それ、私に先に教えてくれ」
「ティア様……乱れてますわよ、皇女様……」
エレン様の一睨みコワイです……
「む、……リンカ、メリルとは違う編み方で教えてもらえるかしら?」
「は、はい。少し手順が違うだけですから……難しくないですから、大丈夫です」
私はそう言って、糸の準備を始めた。
色にも意味がある事を説明したが、二人はそれよりも、好きな色、色合いに興味を持ったようだった。
「私は、情熱の赤にピンク、白の三色にするわ」
ティア様が選んだ色は、グラデーションがキレイに
出そうな組み合わせだった。
エレン様が選んだ色は、黄色、緑、白の三色だ。
「エティ姉様は何色にするの?恋愛運を上げるなら、ピンクを入れるといいんだよ」
「……では、ピンクと……リンカは何色が好きなの?」
エティ姉様にそう聞かれて、水色と、もう一色選ぶなら
グレーがいいと言ったら、その三色に決めた様だ。
私は赤、青、白の三色で矢羽模様の飾り紐を編むことにした。
糸は、一本の長さを百八十センチにして、三人は半分で、私はそのままの長さで、編み始める事にした。
五センチ位のところで玉結びをして、紐のついたクリップに挟んで、クレイが造ってくれた重石で固定した。
クレイに、何かお礼しなくっちゃ……
私がそう考えていると、喜んでいるクレイの声が聞こえた気がした。
ティア様とエレン様はブイ字模様になる編み方を選んでいた。
エティは簡単なのがいいと言うので、メリルと同じ平編みにしてもらった。
わからない所は、メリルに聞く事も出来るし……ね。
編み始めは、慎重なのか、みんな無言で作業していた。
五人も女子が集まっているのに、無言で作業……
うぅ、耐えられない……。楽しい女子会を期待していたのに、無言の女子会なんて、いやだぁああ……
何か、話しかけなくっちゃ……共通の話題って、なんか
あるかな?それとも、女子会の王道、恋バナ?
そんな事を思っていたらエレン様が笑いだした。
「うふふふ、みんな黙ってやっていて、可笑しいわね……
途中で休みたい時はどうするのかしら?」
「そうですね。だいたい指の半分の長さぐらいまで編めたら、一列編み終った後でなら、中断しても大丈夫ですよ」
「お茶でもお入れいたしますか?」
先に始めていたメリルが、遠慮がちに聞いてきた。
「お酒でも飲みたい気分だけれど、お子様がいるものね」
顎に手をあて、小首を傾けてエレン様が残念そうに呟いていた。 お子様……メリルの事だよね?
「私は、本当は成人してないけど、こちらでは成人した事になるんですよね?……お酒、飲んだ事ないから、どんな味なのか、興味があります」
「あら、リンカは飲んだ事ないの?果実酒ぐらいは飲んだことあるでしょう?」
「ティア様、未成年がお酒を飲んだら、捕まっちゃいます」
「まぁ、誰に捕まるのかしら?試しに飲ませてみようかしら?」
エレン様……誰にッて、それは、サッちゃん(警察)にですよ。
「メリルはお茶の用意を……私は果実酒でもご用意してまいりましょう」
そう言って、エレン様は、部屋を出て行った。
私は、ティア様とエティ姉様のミサンガの様子を見せてもらった。
「ティア様、同じ調子で結ぶようにすると、綺麗に仕上がりますよ」
「ぬ?同じ調子?あぁ、同じ力配分って事か……わかったわ」
「ふぅ……私のはどうかしら?」
「エティ姉様は……うわぁ……スゴイきっちりしてる……
もしや、エティ姉様って、几帳面な性格?」
「キチョウメン?それって、何かしら?」
「えぇっと、細部までこだわる……こま……」
「細かい事にうるさいっていうことよ。わかったかしら?エティお・ネ・エ・さ・ま……」
「わ、私は、こだわりはしても、細かくなどない」
「あ~ら、そうかしらぁ?お・ネ・エ・さ・ま……」
何だろう?ティア様とエティ姉様、、仲悪いの?
それとも……仲が良すぎて、じゃれてるのかな?
「ティア様、エティ姉様と仲がいいんだね?……」
「リンカ、誤解していてよ。エティと仲がいいなんて、
そんな事ないわ」
「え?それじゃ、ティア様は、エティ姉様が嫌いなの?」
「……そう、そうね、どちらかと言えば、好きではないわ」
ティア様は言い難そうに、そう答えた。
「エティ……私は好きだよ、エティ姉様……ティア様が嫌いでも、私はエティ姉様の事好き……」
私は、エティに抱きついた。
「リンカ……私もリンカが大好きよ。誰よりも……可愛い、リンカ……」
そう言って、エティも私を抱きしめてきた。
「もう~~貴方達、何やってるの?離れなさい!」
ティア様が私からエティを引き剥がすと、私を抱きしめ、スンスンと頭の匂いを嗅いでいた。
「う~ん……甘い香り……クラクラするわぁ……エティには、危険な香り……ねぇ?」
ティア様が言う甘い香りって、トリートメントかなぁ?
エティも同じの使ったよね?甘い香りするのかなぁ?
私はエティに近づいて、うなじの辺りに鼻をくっつけて、
クンクン……香りを確かめてみた。
「リンカ?な、なにを?く、くすぐったいです」
エティは顔を赤くして……ちょっと涙目だ。
「ごめんね。でも、エティ姉様いいにおい……」
エティにまた、抱きついていたら、戻って来たエレン様が眼を大きく見開いて、驚いていた。
だけど、そんなエレンよりも、エレンと一緒に来た大巫女様に、私は驚かされたのだった。
やっと、女子会までこぎつけたのに、
恋バナまで行きませんでした。
初めてのお酒、恋バナ、
大巫女様乱入で波乱の予感……。




