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29.楽しい手作業


◇◇◇◇◇◇◇◇




リビングストン視点




 勇猛果敢な『フォルティス隊』隊長シリウス……


聖騎士団副団長ユスティアの忠実な従者にして、目的の為なら味方を犠牲にすることも厭わない、冷酷無比な策謀家……


 士官学校時代から狡猾な策士だった奴が、俺に女になれと……

髭を剃って女装しろと、言いやがった……


「ふざけるな!」と、詰め寄って、その澄ました顔を、殴りつけたいと思った。

だが、女装すればリンカをすぐそばで守る事が出来る。

髭が邪魔だと言っていた、リンカ……

リンカの為なら、キスする為ならば……自慢の髭を剃るのも厭わない。


 影と呼ばれる諜報部隊の中に、女装を得意とする者がいた。手伝うだけかと思えば、納得のいく姿が出来上がるまで、着せ替え人形のようにされるがままだった。


胸は詰め物でもするのかと思ったら、何か弾力のある透明な物を貼られた。

その上から後宮担当の女騎士の様な、胸当てをつければ、違和感が無かった。


 騎士の姿は目立つと、ユスティア様からダメ出しがあり、巫女の様な衣装に変更された。


……肩が震えていますね。笑いたいんですね?

笑いたいんですよね?ユスティア様……


 士官学校時代にも、女装姿を見たことがあったからだろうか?シリウスの表情は、あまり変わらなかった。


 フォルツァは、自分も女装してリンカを守りたいと言っていたが、似合わないのと、毛深いから体毛を剃っても無理だと却下されていた。


 俺は体毛が薄くて、顎鬚を綺麗にそろえるのにも、長くかかった。好きになりかけた女には、男に思えないと言われたこともある。

俺は、大声で笑いだしたいのをグッと堪えた。

人より劣っていると思っていた事で優越感を味わえるなんて、思ってもみなかった……

くっ……こんな事で、優越感に浸ってどうする……



「声……精霊術で変えるのを忘れないで。それから名前ね、何か考えないと、リンカに紹介できないわ」



 ユスティア様に言われた俺は、せっかく“エディ”と、リンカが呼んでくれるのだから、出来れば近い愛称の名前が良いと思った……


「エティ……エティエンヌでは?いかがでしょうか?」



「エティエンヌか……、いいんじゃないか?どうだ?」


ユスティア様がシリウスにそう言うと、シリウスは名前など、どうでもいいという表情だ。



「ではエティエンヌ、リンカの所に行きましょうか……」



 俺はユスティア様に連れられて男子禁制の居住区、リンカのいる部屋へと、向かう事になった。


部屋を出る寸前、リンカに女装を感づかれないように、

近づきすぎないようにと、忠告された……

俺が……女装しているなんて、リンカに知られたくない。

言われなくても、バレてたまるか……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 「そういえば、リンカ様はおいくつなのですか?」


 エティに聞かれて、そういえば女性に年齢を聞くなんて、失礼な事をやらかして、自分の年齢の事は言っていなかった事を思い出した。


「あ、そうだよね。エティに聞いておいて、自分は言わないなんて、ごめんね。私十八歳だよ」



「えぇ!?リンカ様は、十八歳だったのですか?もっとお小さいかと……」



私は、そんなに童顔じゃないと思うのだけど……


「ん~、何かね、みんなそう言うけど、そんなに幼く見える?あとね、リ・ン・カ、だよ。様ってつけちゃダメ」



くっ、唇を尖らせて拗ねるなど……可愛すぎる……

「わ、わかりました、リンカ……」



「エティは、私の事、どう思った?いくつ位に見える?」



「失礼ながら、十八歳とは思っていませんでした。成人されているのですね。ずっと、十三歳ぐらいかと……」



「成人してないよ。私がいた処では、二十歳で成人になるんだよ。だから、お酒もまだ、飲んだ事が無いんだ」



「まぁ……此方では十五歳で成人ですから、お酒を飲むことも結婚する事もできますよ。リンカは恋人はいたのですか?」



「いな~い、よ。付き合った事も無いんだ」



「こんなに可愛らしいのに……」



「そ、そんなことないよ……」

 

何だろう……なんか照れる……

集中して編んでいたから、異世界で初作成のミサンガも、

最期に二つに分けて、それぞれ三つ編みしたら終わりだ。


「手伝ってくれて、ありがとう。後は一人で出来るから、

大丈夫だよ。」


「もう、終わりなのですか?もっと……」



「う、うん。まだ作るけど、まずは一つ……っと」



 メリルの為に、白、黄緑、青、三色を使って、平織に編んだミサンガが出来上がった。

私はメリルを呼ぶと、左の手首に結んで付けた。


「リンカ様、これは?」



「これはね、メリルの為に編んだミサンガだよ」



「これが、ミサンガ……」



「そう、使っている糸の色にね、意味があって、白は健康で、青は勉強を、で、この色、黄緑は友情を意味してるんだよ」



「リンカ様が、私の為に……」



「うん、メリルが健康で勉強がうまくいきますようにって、願いを込めて編んだんだ。それと、いつまでも友達って……」



「あ、ありがとうございます。リンカ様……」


 メリルは顔を赤くして、泣きそうになっていた。

私は、妹がいたら、こんな感じ?とか思いながら、メリルをぎゅーってハグしていた。




 二人の様子を、羨ましそうに見ているいくつもの眼があった……

リンカを影から見守る精霊達、そしてエティ……


エティは、リンカがメリルを抱きしめているように、リンカを抱きしめたい……そう思っていても、近づきすぎて、実は男だと……エディなんだと発覚する事が怖くて、手が出せないでいた……


僅かな時間に、ここまで考えて策を練り上げたシリウスは、『謀略の賢者』と称されるに相応しい狡猾で腹黒い男だった。






◇◇◇◇◇◇◇◇





 メリルのミサンガを作り終えた私は、肩をグルグル回したり、首を前後左右に動かしていた。

集中して一気に編み上げたのだが、一時間近く同じ姿勢をしていたので、少し固まってしまった。

若い私は、肩こりとは、あえて言わないからね。ね?


 エティはそんな私を見て苦笑いしていた。が、急に険しい顔つきに代わった。不思議に思っていると、誰かがドアをノックした……


私を背に庇うようなエティ……

メリルがそっとドアを開けると、其処にいたのはエレン様でした。

夕餉の準備が整ったので、私達を呼びに来てくれたのでした。


エレン様はエティを見て、満面の笑みを浮かべていた。


「大巫女様、ユスティア様、お二人共、既に食堂にて皆さまをお待ちです。大巫女様が、エティに会うのを楽しみにしていますわ」


そう言って、私達を案内してくれた。




 食堂の中に入ると、朝食を取ったテーブルに、大巫女様とティア様が座って、何か話し込んでいた。

私達に気が付くと、大巫女様はエティに声を掛けた。


「……リンカの警護のエティか?うむ、聞いていた通り、

エティは美しいのぉ……齧り付きたくなるほどの美女ぶりじゃ。ふふふふ……」


そう言って、楽しそうに笑っていた。

大巫女様が褒める様に、確かにエティは美人だ。背が高くて、スタイルが良くて、胸もそれなりに立派だ……私より大きぃ……


何で独身なんだろ?異世界の男は見る目が無いな……

私が男だったら、放っておかないのにな……


「ぶふぉっ……げほっ、こほん……失礼いたしました。」


そんな事を思っていたら、エレン様が吹いていた。なんだか、大巫女様も、エレン様も何かを隠すような……笑って誤魔化している様な感じだ。



「わぁ、かわいい。メリルそれどうしたの?」



朝食の時、メリルに話しかけていた女の子だ。

メリルがしているミサンガを見て話しているのか、チラチラと私の方を見ながら、二人で話している。


 メリル一人で運ぶのも大変そうなので、私も手伝う事にした。腕を組んで座っているエティの前に配膳していたら、嬉しそうにしていた。

うっすらと涙まで浮かべている……


すごくお腹が空いていたんだね?

うんうん、分かるよ、その気持ち……。空腹は辛いよね。

私とエティは見つめ合い微笑みを交わした。

エレン様は、私とエティを交互に見て軽く首を振り、深いため息を吐かれた。



 夕食後は私とメリル、エティの三人で部屋に戻った。

メリルはミサンガについて、どうやって作るのか聞いてきた。

私は初めから、メリルと一緒に作ろうと思っていたので、

メリルが興味を持ってくれて嬉しかった。


 私は、二つ目はティア様に贈る物を作ろうと思った。

希望のオレンジ、友情の黄緑、癒しの緑……

見るだけで元気が出そうな配色だな……

メリルは、食堂で話していた女の子にあげるのだと、

健康の白、恋愛のピンク、笑顔の水色の三色を選んでいた。

その色を選んだのはなぜ?と、メリルに聞いたら、とにかく可愛い色で作ってほしいと言われたようだ。


 私はメリルに、糸を固定するのに、何かないか聞いてみた。

クリップボードもテープも、やはりこの世界には無かった。

エティがまた持ちますよ、と言ってくれた。うれしかった。


「だが、ことわる!」

を、させて頂いた。ありがとう、でも、ごめんね……。

警護で傍にいてくれるからって、そんな事で拘束したら、

申し訳なくって……。それに、試してみたい事があった。

私は二人を応接間に残して、一人で部屋に入った。



「ロップ、出てきて」

 私は、契約している氷の精霊の、垂れ耳兎を呼び出した。


《は~い、リンカ呼んだぁ~?》


私は、頭の中で四角い台座に、丸い突起が付いたものを

思い浮かべた。そして、こんな感じのもの、何処かにあるかな?と、聞いていると、土の精霊、クレイが出てきた。


《ボクが造ってあげる~》


そう言って、エゾリスっぽい小動物がくるりん、っと

一回転した後に、土粘土で出来た、大きなハンコの様な物が出てきた。その質感、形状も、頭に描いていた……希望していた通りのものだった。


「う~ん、台になっている部分は丸い方が引っかからなくていいかなぁ。あと、表面を滑らかに出来るかな?お願い!」


《出来るよぉ~、だってボク、やればできる子だも~ん》


そう言って、くるくるくるりんって、二回転した。


さっきまで四角かった物が、丸い台に突起がついて、表面がツルツルしているペーパーウェイトの様になっていた。

私は、クレイに、もう一つ同じものを造ってもらった。


「クレイ、ありがとう」


私がクレイの頭を撫でながらお礼を言うと、


《どんたまして~》


と言いながら、ほっぺにチュッてして、消えた。

ロップは、


《ぼく、役にたてなかった……》 

ショボボ~ンって、


音が聞こえそうなほど、耳を垂らしてがっくりしていた。


「ふふ、可愛い。ありがとう、ロップ」


ロップに頬擦りして、礼を言いうと、


《また呼んでね~》


と、消えて行った。



 私は、部屋を出て応接間に戻ると、


「メリルお待たせ~。ちょうどいい物があったよ」


と言って、クレイが造ってくれた固定用の重石を一つはメリルの前に、もう一つを自分の前のテーブルに置いた。



「使う糸も決まったし、一緒に編んでいこうね」


「はい、リンカ様。よろしくお願いします」


 すごい……メリルがやる気だ。


始めに片方を少し長くして、中心から少し三つ編みして、

三つ編み部分を輪にしたら、その輪を突起に引っ掛けて、

編み始めたら、後はひたすら同じ作業の繰り返し……


呑み込みの早いメリルの隣で、私も黙々と編んでいく……

単純作業を繰り返し、調子づいた私は、いつの間にか鼻歌交じりで作業を続けていた。





 楽しそうに編んでいるリンカと、一生懸命なメリル……

そんな二人を、エティは羨望の眼差しで見ていた。


 触れたいのに、触れられない……

抱きしめたくても、抱きしめられない……

今は側で、ただ見ている事しか出来ない……


 エティ……エドワード・リビングストンは、胸が締め付けられるような想いに、知らず知らずの内に、きつく手を握りこんでいた……



お小遣い稼ぎに、手作り品を置く店に

ミサンガ、組み紐を作って、

委託販売していたリンカ。

単純作業って、たまにやると、

楽しいですよね。


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