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28.美人騎士 エティエンヌ



 騎士団に行っているティア様も、何かの作業があるとか言っていたエレン様も、まだ戻ってきていない……今はメリルと二人きりだ。


 それにしても、時計が無い生活は、時間に追われていた現代人、特に勤勉な日本人には何とも落ち着かない気持ちにさせる。


 スマートフォンを持ち歩くようになってから、腕時計なんてしていなかったからなぁ……

余裕があれば、ファッションで付ける事があったかもしれない……腕時計なんて無くても、時間を表示する物は街中に溢れていた。

もしも私が錬金術師だったら、携帯できる時計を作るのにな……


そんな事を思いながら、二人でとりとめのない話をしていた。あまりにも手持ち無沙汰だった私は、ふと思いついたことがあり、メリルに聞いてみた。



「ねぇ、メリル、この世界で手作業でする物って、どんな物があるの?」



「手作業……ですか?」



「うん、ほら、あれよ、淑女の嗜みでさぁ、刺繍とか、編み物とか、縫物とか……」



「ああ、わかりました、勿論ありますよ。刺繍は淑女にとって必須ですからね。編み物と言うのは、どういった物ですか?」



「編み物っていうのは、羊毛……羊とか、兎とか、モフモフの毛を紡いだ糸を専用の道具を使って、編んで、服とか小物を作ったりするんだよ。」



「モフモフの毛ですか……モフモフ??」



「モフモフっていうのはねぇ……」

(兎さん、出てきてくれないかな?)

私は垂れ耳兎の姿をした精霊を思い浮かべた。


《僕を呼んだ~?》


(わぁ、兎さん、来てくれたんだね。)


《僕たちは姿は見えなくても、一緒にいるよ。ねぇねぇ、僕の名前、アイスだよ?忘れないでね。》


(えっと、今一緒にいるメリルに、アイスの事、紹介しても大丈夫かな?名前とか、精霊だっていう事、話しても大丈夫?)


《リンカが話してもよいと思えば、構わないよ》


 私は精霊と心の中で話をしていた。私はメリルに、アイスの事を話すことにした。ただ、名前だけは、変えようと思った。真名だったら……と気にしたのだ。


 短絡的な私の考えで、ちょっとした失敗をしてしまうのだが、その時の私は、まるで気が付いていなかった。


「メリル、氷の精霊の【ロップ】だよ」


 垂れ耳、ロップイヤーだから、ロップと紹介する事にした。中々いい偽名じゃない……などと、自己満足していた私、恥かしい。逃げたい……


《我その名によって契約を成す》


(え?契約??)

何の事?と思った瞬間氷の精霊、アイスの体が光り輝いた。


《リンカ、僕に名前をありがとう。これでリンカも精霊の術が使えるよ》


そう言って、腕の中に現れた茶色いモフモフの、耳の垂れた兎……



「リ、リンカ様……そ、それは精霊では??」



「う、うん。氷の精霊さん……モフモフでしょ?耳の後ろが特にたまらないんだよぉ~」


 ちょっと……というか、かなり現実逃避したい。

ああ、私は何て迂闊な事をやってしまったんだ……

名付け……それが契約って、ラノベの定石じゃないか。

そりゃ、精霊と契約したかったけど、これじゃ、何だか騙し討ちみたいで、罪悪感が……



《リンカ、僕と契約するの、嫌だったの?》


(そんな事ないよ!アイスの気持ちを聞かなかったから、

契約して、良かったのかな?って)


《契約の方法については話せ無かったんだ。でも、僕たち、リンカと、ずっと一緒にいたくて……力になりたくて、契約できて僕、すごくうれしいんだ!》


(ロップ……ありがとう。これからよろしくね)



「リンカ様は、精霊と契約を?いつの間に??」



「メリル、違うよ……守護精霊さんだよ」


 私は、精霊と契約した事は一先ず、隠すことにした。

精霊王様が、私の守りに付けた精霊達だもの、守護精霊で

間違ってはいないだろう……


 それにしても……

「あ~、癒されるぅ……」

私はロップの耳裏を思う存分モフっていた。

ロップも、嫌がる事無く気持ち良さそうだ。


《ふふん。契約しちゃったぜ。一番乗りだ!!》


 他の精霊達に、一人契約した嬉しさで、得意げになっている、『氷の精霊』がそこにいた……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 リンカが偶然精霊と契約していた頃、騎士団の隊長執務室では、リンカの警護について話し合いが、続いていた。居住区は基本男子禁制、自室にいる時、立場上ユスティアが張り続けるのは難しい……ならばどうするか?


 不意に、騎士団でも類を見ない策士、シリウスが

口を開いた……


「男子禁制……男子じゃなければいいんだよな……」

 

シリウスは、黒い微笑みを顔面いっぱいに浮かべた。

それを見た誰もが、背筋に冷たい物が伝うのを感じた事だろう。


「リビングストン……お前リンカの側にいたいだろう?」



「?急に何を??……」


 ユスティアも、フォルツァも、言われた当人のリビングストンさえも、シリウスの意図が分からない。



「リンカとキスしたいんだよなぁ?髭が無ければ出来るんじゃないか?髭を剃って、リンカに見てほしいよなぁ?側で守りたいよなぁ……?」



「シリウス、何を考えている?」


 シリウスの意図が分からないユスティアが問うた。



「リビングストンには、これから女になってもらう」



「な、な、なんだってぇ~!!」


 絶叫するリビングストンに、一目見ただけで恋に落ちてしまいそうなほど素敵な笑顔をして、シリウスは涙を浮かべ、笑い出したいのを我慢しながら、そう提案したのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇






 誰かがドアをノックした。


メリルがドアに向かっている間に、ロップに姿を消して、と頼んだ。

私が精霊と契約した事は、出来るだけ秘密にしようと考えているからだ。


 ドアをノックしていたのは、ティア様だった。

ティア様は、スーパーモデルの様な背が高くて、均整の取れたプロポーションの女性を伴っていた。


「リンカ、警護担当のエティエンヌだ。女性らしい事は苦手だが、腕は立つ……あんなことがあったからな、側にいて警護してもらう様に……」


 ティア様はそう言うと。大巫女様の所に用事があるからとすぐに行ってしまった。まさか、ドアの外でお腹を抱えて大笑いしているとは、思いもしてなかった。



「あ、あの、リンカです。よろしくお願いします」


 私は、エティエンヌさんに、挨拶をした。見上げるほど

背が高い。でも、胸は大きいし、美人さんだ。



「わ、私の事は、エティとお呼び下さい……」


 シャイなんだろうか?顔をほんのり赤くして、小さな声で恥かしそうに話している。

私はまだ話したかったが、任務中だからと、あまり話してくれなかった。近寄りがたい人なのかと思ったが、誰かを想わせる暖かな茶色の瞳で、優しく私を見ていた。


髪は鈍い色の金髪で、複雑に結ってあり、くずしたら修復できそうになかった。非情に残念だけど、私には、手出し出来そうにないな……。


 私を一人にはできない……と、部屋から出られなかった

メリルだったが、エティさんが来たので、ある物を取りに

行ってもらっていた。


 しばらくして、メリルが色とりどりの、刺繍糸を持って

部屋に戻って来た。ドアを軽くノックして、すぐに部屋に入って来たメリルから、私を守ろうとエティさんに急に抱き寄せられて、ビックリした。

メリルは、中からドアが開けられるまで、待つように注意されていた。


普段は、そんな事なかったのに、たまたまうっかりで注意されて、メリルが凹んでる。私はぎゅ~って、メリルを抱きしめて、頭をなでなで……



「メリルぅ~ありがとう。沢山持ってきてくれたんだね」


これだけあったら、二十本は軽く出来そうだ。



「リンカ様、刺繍糸で何を作られるのですか?」



「ミサンガをね、作ろうかな~って」



「みさんが?ですか?」



「そう、ミサンガっていう、願いをかけて身に着ける……

う~ん、自然に結びが切れたら願いが叶うっていう、おまじない……だよ。」



「オマジナイですか?」



「うん、願いが叶うといいな……って思いながら、手首とか足首に付けて、結びが自然に切れたら願いがかなうかも?って。」


 此処でおまじないとか、ゲン担ぎとかって、翻訳がむずかしい。まずは、見本を兼ねて作ってみる事にした。


 メリルに贈るミサンガだから、友情の黄緑と、勉強の青、それと、健康、浄化の白かな……。私はその三色を選んで、編むことにした。

 

 固定するのに、バインダーも、テープも無いなぁ……

メリルは、何かやってるし、う~ん……


「あの、エティさん、少し手をかして欲しいんだけど、大丈夫ですか?」


私は、エティさんに先を持ってもらうことにした。


「リンカ様、どうぞエティとお呼び下さいませ」



「あの、私の事リンカで、リンカって呼んで下さい。

それで、糸の先を、持っていてほしいんですけど……」


 エティにテーブルの斜め向かい側に座ってもらった。

私は、エティの手を取ると、


「この部分を持っていて下さいね。」と、頼んだ。


 私は三色六本で平織のミサンガを編んでいく。

その手元を、エティはじっと見つめていた。顔を上げると、優しく私を見ているエティの眼があった。


無言で向き合っているのも辛くなってきた私は、エティと

話し始めた。


「エティって、大人っぽいけど、いくつなの?」



「は、はい……今年、三十歳になりました……」



「えぇ?見えない!わかーい!!独身?恋人とかいるの?」



「いえ……まだ独身で、恋人もいません」



「そうなの?婚約者がいるとか?」



「いいえ、いません。でも、好きな人はいます」



 そう言うと、エティは赤くなった。ぉお、なんか、

かわいい!!やだ……つられて赤くなっちゃう……

二人赤くなって向き合ってるって、百合か?百合なのか?

いやいやいや、ソレは無いっしょ。

などと、相変わらずの、自己突っ込みをしていたら、

いつの間にか、七の鐘がなっていた。






◇◇◇◇◇◇◇◇






 エレンは、大巫女ユーフェミアの居室で、フォルクスが操られて、リンカを責めていた件について、現時点で分かっている事の報告をしていた。


「どうにも……厄介な相手です。巧妙に隠れていて、

追いきれませんでした。ですが、罠を張りましたので、

今後動く事が有れば、確実に絡め取る事が出来ます。」



「うむ、『感受の巫女』が追えぬとはの……それ程までに、厄介な相手じゃ、シリウスの見解通り、標的はリンカでは無く別にあるのであろう。じゃが、リンカの警護を怠ってはならぬ。何事も無く、嫁がせるのじゃ。」



「ユーフェミア小母様。リンカの警護の事ですが……

ぷ、くっくっく……。っ失礼。実は……」



「何と!!まことか?」



「シリウス様、それは本当のお話ですか?」



「くっくっく……本当だとも。いや、実に美しい女性に

なってなぁ。影に器用な奴がいて助かった」


 影と呼ばれる諜報部隊では、時には女装して潜入する事もあったのだ。衣装の着付けや、偽乳、化粧など、器用にこなす者がいても不思議はない。


 士官学校で共に過ごしたことがあるシリウスは、リビングストンが、女みたいな顔をしているのを知っていた。

髭を生やしていたのも、元はと言えば女顔が嫌で、部下に嘗められないように虚勢を張る為だった。 


女装しても違和感が無いと思ったが、予想以上に似合っていた。リンカをすぐそばで守る事が出来て奴も本望だろう。好きな女に女装しているなんて、知られたくないだろうから、ばれない様に、上手くやるだろうしな……

近くにいて親しくなろうが、手も出せないだろうよ。


 そんな事を思いながら、シリウスはまた、真っ黒な微笑みを浮かべた。


 大巫女ユーフェミア、ユスティア、エレンは、

そんなシリウスを見て、苦笑するのだった。



女装美人だったリビングストン、

リンカに気が付かれないといいですね。

フォルツァは、女装したらそれは単に

女装した男にしかならなかったようです。


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