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27.斜めを行く男は真っ直ぐな奴だった



◇◇◇◇◇◇◇◇


 私の名前はメリル……

神官見習いをしている十二歳の女の子です。

神官長モナーフ様の下で見習いをしながら教義の勉強をしています。


 昨日、モナーフ様がお力を尽くして成された『豊穣の乙女』召喚の儀式で、乙女と共に現れた迷い人……

それがリンカ様でした。


モナーフ様はリンカ様を私室へとお連れになり、私に世話係を、お命じになられたのです。

 

 同じ年頃かと思われたリンカ様は、実は十八歳の成人された女性でした。私も、モナーフ様付き側仕えのヨルズも、とても驚きました。


見た目が幼いだけではなく、されることもどこか幼さの残るリンカ様……

私はすぐに、リンカ様の事が好きになりました。


 迷い人のリンカ様は、ご存じない事ですが、塔で育った神官見習いは、時には罵倒され、時に謂れのない暴力行為を受ける事がありました。

上司によっては虐待する者もいるのです。


優しいモナーフ様の側に仕える事が出来た私は、運が良かったのです。そんな立場の、私やヨルズを抱きしめてくれたリンカ様……

モナーフ様がお気に入られるのもわかります。


 昨日浴場で姿を消されたリンカ様が、モナーフ様とどうやら同衾どうきんされたらしいことを、ヨルズから聞きだしました。

ですが、特別な事は何も無かった様です。


『神の花嫁』である第三皇女様の付き添いとして塔に向かわれる事になったリンカ様。

世話係の私も一緒に、二年前まで住んでいた懐かしい白の塔に来ています。


 この世界の事を知りたいと、お勉強を始めたリンカ様。お疲れなのか、湯あみをされて寝入ってしまわれました。このままでは風邪を引いてしまう……どうしようと思っていたら、アノ方が現れたのです。


 アノ方は、リンカ様を優しく抱き抱えられ、部屋に戻ると、リンカ様を寝台に横たえました。

その先は……

部屋の扉が閉められて、私にはわかりません。

ですが、目覚められたリンカ様に、変わったところは何もありませんでした。

きっと、無体な事は為されなかったのでしょう……


 モナーフ様が、アノ方に勝つのは難しいかもしれません。ですが私は、優しいモナーフ様を応援致します……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 う~ん……苦しぃい……

何だろう?何だか懐かしい夢を見ていたような気もするけど……って、私あのまま寝ちゃってた??

あれ?ベッドだ……どうやってベッドまで来たんだ?

何だろう?体が重い……起き上がれない……


 段々意識がはっきりしてきた私が、眼を開けると首に縋りつくように、している黒い物体が??

あぁ~ん……?何だぁ?って、クロちゃん……?クロちゃんだ!!



《リンカ……会いたかった……》



「クロちゃん……クロちゃんも精霊なの?」


私は、飛び起きると、クロちゃんに問いかけた。



《……イヤ……我は精霊などでは……》



「もう、どこにも行かない?一緒にいられるよね?」


 私は、そう言いながら、クロちゃんを抱きしめた。



《リンカ……離れたくない……が、行かねばならぬ》


今のままでは……リンカには耐えられぬ……


《リンカ……聖域で……っ》


不意にクロちゃんの姿が、まるでノイズの入った画面の様に崩れ始めた。


「クロちゃん??」


急にヒトの姿になったクロちゃんは、右手で私の顎を持ち上げると、顔を近づけて、唇を合わせてきた。


「!!……」


それはまだ、軽い、触れる様なキスだったが、名残惜しそうに小さく鳴いて離れると直ぐに、クロちゃんの姿は消えていた。

私は状況を呑み込めずに、指で唇をなぞっていた……


「クロちゃん……」


 ベッドでボーっとしていてもしょうがない……気を取り直して、部屋を出る事にした。


部屋を出ると、メリルが応接室で待っていた。


「よかったぁ、メリルおねが~い」


私は、着ている貫頭衣の細かい調整をメリルに頼んだ。

腰の部分で余分な長さを、幅の広い紐で調節するのだが

幾重にも重なった造りなので、一人ではうまく出来ない。


「ありがとう、メリル。一人で着れるメリルはスゴイね」


私がそう言うと、メリルは一言、慣れですよ、と返した。

ユスティア様は、騎士団、シリウス様の所に行っている

そうだ。シリウス様……怒っていたなぁ。……


 シリウス様に怒られていたウィル兄様、エディの事を

思い出したあと、騎士フォルクスの事を思い出していた……。


闇の精霊ダークは、フォルクスが《操られていた》と、

確かにそう言ったのだ。では、いったい誰に?

フォルクスは私を責めた。それは操られていたから?

私を責めるのが目的だったの?でも、私この世界に来たばっかだよ?知り合いだって少ないのに……


 私は、ここが知らない世界なのを思いだすと、

クロちゃんが消えてしまった事も思い出し、身体が急に温度を無くしていくかの様な感覚に襲われた。

堪らない不安に、自分で自分を抱きしめるかのように両腕を組んだ。

私に悪意を向けるとしたら、玲奈?でも、塔にはいない。

あぁ、もう、訳わかんない!!理解できない事は、早々に手放すことにした。考えたって、時間の無駄だ。



「リンカ様?どうかいたしましたか?」



 考え込んでいた私に、メリルが心配そうな顔で話しかけてきた。



「申し訳ございません。夕餉までは今しばらく……」



「えぇ~。メリルひどぉ~い……お腹が空いて無口だと思ってたんだ……私ってどれだけ食いしん坊なの?」



「あわわわ……ご、ご不快に……」



「ぷっ……メリルってば、何焦ってるの?こんな事で怒ったりしないよぉ~。確かに小腹空いてるし……」



「コバラ?腹に子供があるのですか?」



「えぇ~。違うよ、腹に子供なんて無いよ。メリルってば

かわいいなぁ~。お腹が少し、空いたってことだよ」



「え??では、空腹がひどい時は大腹が空くのですか」



「それも、違うけど……話題変えよう。益々お腹すいちゃう」



「リンカ様は、食いしん坊ですからね……ふふ」


 ひとしきりメリルと笑い合うと、抱え始めていた不安が

遠ざかっていくのを感じた。






◇◇◇◇◇◇◇◇






 アストーリア神皇国・第三皇女ユスティアは、聖騎士団白の塔支部、副官のフォルクスと名乗った騎士がリンカを襲っていた時の事を話す為に、シリウスの所に来ていた。


 騎士団詰め所にいたシリウスとフォルツァ、それからリビングストンを呼ぶと、話しをするために隊長執務室へと移動した。


 リビングストン隊長の執務室は、術具によって防音遮断出来るため、密談に適していた。



「鍛練場からリンカを送って来た、フォルクスと言う騎士だが……どんな奴だ?信用できるのか?」


 聖騎士団副団長として、ユスティアはリビングストンに質問した。



「それは、どういう意味ですか?」


 怪訝そうな表情で、リビングストンは問い返した。



「……報告されていないのだな、その副官だが、リンカを襲っていたんだ」


ユスティアの話に、シリウス、フォルツァ、リビングストン、三名の顔色が変わった。



「影からはまだ、報告が来ていない……リンカは無事なのですか?」



「リンカを送って来た騎士の様子が異常な事に私が気づいて、首を絞めようとしていたのを未然に防いだ」


シリウスの言葉に、ユスティアはそう答えた。

何故、フォルクスがリンカを襲ったのか?


「お前がおかしなことをするから、リンカが責められた」


疑問に思っているリビングストンに、ユスティアはそう言うと、言葉を続けた。


「エレンが言うには、何者かに操られていたと……」



「誰が、そんな事を?」


 

「今、エレンが……『感受の巫女』が探っているところだ。」


シリウスの問いかけに、ユスティアはそう言った。


「……目的は、リンカなのでしょうか?」


 フォルツァが疑問を投げかける……



「シリウスはどう思う?」


 ユスティアは、シリウスに意見を求めた。



「リンカ様は、此方に来たばかり……まして塔に来たのは今朝の事です。リンカ様が標的になったという事よりも、

フォルクスが操られたという事の方が重要かと……」


 シリウスは、リンカが標的になったのは偶然で操られたフォルクス……騎士が操られたという事に重点を置くべきとの見解を述べた。


 誰が何のために……それがわからない事には、今できる最善策は、リンカから眼を離さない様に護衛する他はないだろう……


 シリウスは軽く息を吐くと、フォルツァに命じた。


「フォルツァ、接近禁止は取り消しだ。リンカから出来るだけ眼を離すな」



「はっ!」

 

 言われなくても、リンカは……リンカを守るのは俺の役目だ……。フォルツァは騎士の礼をとってシリウスに返答しながら、そう考えていた。



「シリウスに、リンカへの接近禁止を言い渡されるなんて、何をやったんだ?」



 ユスティアは、ニヤニヤしながらフォルツァに聞いていた。


「別に、ミスって自爆しただけです。俺より、リビングストンですよ。っのヤロウ、リンカにキスしようとしやがって……髭が嫌だって嫌がられたっていうのに……」



「ほほぅ……アゴヒゲが……」



「……わ、私は、リンカに求婚するのだ」


 リビングストンは、リンカをあきらめていない。

だいたい、こういったものは、反対すればするほど、逆に、燃え上がる……のではなかったか??

シリウスはもう、下手に反対するのは逆効果だと放置を決めた。計画通り、リンカが嫁げば、どのみち出来ない話だからだ。


「リビングストン……悪い事は言わん、あきらめろ。リンカにはもう決まった相手が……」


聖域に嫁ぐのだ。そうでなければ……


それさえなければ、ユース兄様がきっと……



ユスティアは、本当はユースヴェルクが、リンカを聖域に送りたくない事を分かっていた。

だが、神託が下ったのだ……リンカを聖域に送るしかない……


「いいや……副団長に命じられても、私はリンカをあきらめたりしない……」


リビングストンは、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


 恋に溺れている者に、何を言っても聞き入れはしない……

シリウスも、ユスティアも、リビングストンの事は放置する事に決めたようだ。フォルツァだけは、リンカに手は出させない、と鼻息が荒くなっていた。



アゴヒゲは純愛を貫きたい。

相手の気持ちも考えずに暴走しそうです。

クロちゃんは、やっとキスを認知されました。

小腹で腹に子供・・・メリルってば

恐ろしい子……

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