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26.斜め上を行く男


 リンカが騎士フォルクスに連れられて、鍛練場を出た後、フォルツァ、リビングストンの両名は、影と呼ばれる

諜報部隊の報告を受けたシリウスにより、鍛練場が光に包まれた事の詳細について、尋問を受けていた。





◇◇◇◇◇◇◇◇





「で?フォルツァ、何があったか、詳細に報告しろ」



「はっ!」



「リンカに精霊術を見せるため、サンダーボルト、サンダーバーストを鍛練場に落としました。その際、リビングストン殿が防御壁を展開、術の行使に問題無く……ただ……その……リビングストンが常軌を逸し……」



 シリウスは、はらわたが煮えくりそうなほど、怒っていた。

精霊術を熟知しているリビングストンであれば、害のない術で、リンカを満足させると、見込んでいたのだ。

それを、よりによって、攻撃特化の雷……バカが!!

リビングストンが常軌を逸した?


「ほう……何があった?何をした!リビングストン!!」



「……防御壁内で、リンカの甘い……甘い、香りに我を忘れ……」



「我を忘れて?それで?……」


シリウスは眉を吊り上げ、リビングストンに詰め寄った。



「リンカに、キスしやがったんだ……」


フォルツァが、見たままに、シリウスに告げた。


「無理やりだ!リンカは嫌がってた……」

 

そうだ……あの時リンカは抵抗していた。細い腕で、リビングストンの顔を押し戻そうとしていた……。

フォルツァは、その時の情景を思い出し、身の内を、激しい怒りがほとばしった。


「嫌がるリンカに無理やり……っの野郎!」


 

リビングストンを殴ろうとするフォルツァを、シリウスが制した。そして、リビングストンに向き直った……



「ご、誤解だ。まだ、やってない……出来なかったんだ。

嫌がられて……その、髭が嫌だと……」


リビングストンの弁解を一切聞かず……シリウスは大きく息を吸うと、凍り付くほどに冷たい視線を向け……怒りを抑える様に、小刻みに震えるほど強く握った右の拳をリビングストンの鳩尾に躊躇なく突き上げた。



「グブッ、ブフォッ……」


リビングストンは、低く呻くと、口には出せない物を口から溢していた。


 

 冷静沈着、冷酷無比……

その身体は冷たい氷で出来ている……


『凍れる獅子』と称される『フォルティス隊』のシリウスが押さえきれない激しい怒りに、我を忘れた。


 手加減無しの……熊さえ倒しそうな重い一撃だったが、リビングストンは、隊長職についているだけあって、僅かに後退ったが、倒れることなくその場に踏みとどまっていた。


 

「それで?お前は何をやっていた?……」


 シリウスはフォルツァに向き直ると、温かみのまるでない、冷たい声で問い詰めた。 



「リンカを救い出す為に、防御壁を壊そうと、サンダーボルトを連発して……」


 背中に冷たい汗が伝うのを感じながら、フォルツァは状況を説明した。



「弾かれて跳ね返って自爆か?フン、バカめ!防御壁が

壊れたら、中の人間は無事ですむか?よく考えろ!腕の怪我は自業自得だ。馬鹿者め!!」


お兄様などと言われて浮かれているからだ、バカが……


「フォルツァ、リンカと親しくするのは構わん……が、節度をもて。あの娘は花嫁の付き添い人だ……わかっているな?」



「…………」



「ぐっ……私は……正式にリンカに求婚する。彼女を、離したくない……。構わないな?」


 リビングストンは、リンカを前にすると、自制できない程の独占欲に、支配されていた。

諦めたくない、諦められない……諦めない……

まるで魂の半分に出会った様な、そんな気持ちに囚われていた。

 


「そんな事を、俺に聴いてどうする?」


 エドワード・リビングストン伯爵……

コルディリネ侯爵家の嫡男で、今年確か三十歳だったか……


「たしか、婚約者がいたんじゃなかったか?」


シリウスは低い声で、無表情に言葉を続けた。


「親の決めた婚約など、とうの昔に解消している。リンカに求婚するのに問題など無い!」

 

 リビングストンは、興奮して体温が上がったのか、顔を紅潮させ、声を荒げた。

 

「フン、貴様は馬鹿か?リンカは迷い人だ。許されるわけが……」


「そんな事関係ない!!誰の許しが無くとも、私は、リンカと……」


「黙れ……アゴヒゲ!」


「!な、何を?」


「黙れと言ったんだ。アゴヒゲ!」


 シリウスはフォルツァにお前も言え、とばかりに目配せをした。


フォルツァは、心得たとばかりに、嘲笑した。


「アゴヒゲ!リンカとお前が結婚など、できる筈が無いだろう?キスも許してもらえないんだからな……」



「っぐ……キスが……キス出来たら、求婚していいんだな!」



諦めさせようとしていたのに、なんか、変な方向に……


「はぁ……」


 シリウスは、深い溜め息を吐いた。

『神の花嫁』になるリンカの事を諦めさせなければと、馬鹿にする様に、『アゴヒゲ』と、扱下ろし、最後に『アゴヒゲ』と馬鹿にしていたのはリンカだと、そんな事を言う娘なんだと落胆させようとしたのに……


何で……そうなった?



 リンカが『神の花嫁』になる事は、口外できない。

分かっているはずのフォルツァの態度も、問題だ。

可愛がりたくなるのは分かるが、深入りするのは……。


「とにかく、リビングストンは頭を冷やして、よく考えろ。フォルツァは、暫くリンカに接近禁止だ。わかったな?」



 ……そういえば、普段は人間味の無い、

モナーフ様もリンカには心を開いていたな……

迷い人には、人を魅了する要因が、何かあるのだろうか?






◇◇◇◇◇◇◇◇






 ユーフェミア様の所でお茶を頂いた後、ティア様と二人で、与えられていた自室に戻って来た。ドアをノックすると、中からメリルが出てきて、迎え入れてくれた。


「ティア様、リンカ様、お疲れ様でした。お茶でもお入れいたしましょうか?」



「ありがとうメリル。でも、小母様の所でお茶してきたの。だから今はいいわ。ごめんなさいね。」



「リンカ様はいかがいたしますか?」



「私も今はいいや……それよりも、ちょっと疲れたかな。」


 

「湯浴みでも、されますか?」


 私は、メリルからお風呂ときいて、そういえば鍛練場で

バタバタしたなぁ、お風呂……いいかも、そう思った。


「お風呂入る。さっぱりしたい……」



「ご用意出来ております、リンカ様。洗濯物も乾いてお部屋に置いてあります。」



「わぁ、メリルありがとう」


 私はメリルを抱きしめて、お礼を言った。

年下なのに、働き者で、とても頼りになるメリル。


「メリル、だーい好き」



「はいはい、リンカ様、お風呂へどうぞ」



 リンカの過剰なスキンシップにも慣れた様子のメリルは

部屋の奥にあるお風呂に案内してくれた。


「此方は、このお部屋専用の浴場となっています。神殿の様に、他の誰かと一緒には、なりません。お一人で入られますか?お手伝い致しましょうか?」


「一人で大丈夫だよ。着替えの用意と、着る時に手伝ってね。」



「はい、リンカ様。お一人でも、()()()をお召しになって下さいね。では、ごゆるりと……」


 

 私は一人になると、ササッと脱いで、面倒だが湯帷子も忘れずに着用した。

神殿のお風呂と違って、香油が備えてあった。

石鹸で全身洗って、頭も洗った。

香油の香りを確認しながら、髪に付けた。


かけ湯してから、風呂に浸る……


「はぁ~……気持ちいい……」


 神殿のお風呂より小さいが、一度に三人は楽に入れそうな広さがあった。私は一人、湯船に浸かりながら、クロちゃんの事を考えていた。

猫や犬の姿になる精霊がいるんだから、もしかしてクロちゃんも精霊なのかな?一緒に、この世界に来たよね……

また会えるよね?クロちゃん……


 お風呂から出ると、新しい着替えが棚に置いてあった。

寝間着では無く、さっきまで着ていた物と大差ない貫頭衣だ。

頭から被った後の調節が慣れない。

メリルに手伝ってもらわないと……


「ふ、あふぁ……」


 欠伸が出てしまった。朝早かったから……

メリルを呼ばないと……


 こんな所で寝ちゃだめだ、と、思うのに眠気が押し寄せて、その場に座り込むと、棚の下段に頭を乗せて、眠りに落ちてしまった。



……誰かが頭を撫でている……誰だろう?

昔から知ってる、手だ……

すごく安心する……

私は、暫し眠るつもりだったのに、いつの間にか

深い眠りについていた。



斜め上の思考をするリビングストン。

思い切った事をやります。

リンカ、お風呂多いですか?

青い悪魔の所の女子みたいです?


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