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25.忍び寄る悪意……



 精神を安定するために、眠りに落ちていたウィル兄様とエディが眼を覚ました。



「う……リ、ンカ……俺は……?寝ていたのか?」



「……ウィル兄様、良かった。腕は?痛みはない?」



「……わ、私は……すまなかった、フォルツァ殿……

怪我は?怪我の具合は?この償いはどうすれば……」



「リビングストン……展開中の防御壁に弾かれた……

要は自爆だ。貴殿のせいではない。それに、怪我は精霊が癒してくれたようだ。上着が破けていなければ、何も無かったかの様だ」



「ウィル兄様、良かった……」


 私は、ウィル兄様を抱きしめた。

上半身を起こした状態のウィル兄様を膝立ちの私が抱きしめたのだ。ウィル兄様の顔が丁度胸の辺りにあったとしても、気にも留めていなかった。



「……思ったより育って……」


 ウィル兄様が、何か呟いた?私が聴き返すと、


「いや、思っていたより胸があるんだな……」


「!!にゃ、にゃにを……」


 私はウィル兄様を両手で突き飛ばそうとして、倒れこみ、そのまま強く抱きしめられた。


「リンカ、ありがとう。助かったよ」


「わ、私は、何も……」


「呼んでくれただろう?精霊を……。腕の怪我が治ったのは、リンカが精霊を呼んで、それに応えてくれたのだろう?」


 優しく微笑むウィル兄様に、私は胸の鼓動が高鳴るのを感じた。

無言で見つめ合う、私と、ウィル兄様……

そんな、静寂を突如破ったのは、シリウス様でした。



「……いつまで寝そべっている……馬鹿者が!!」


 いつの間にか、鍛練場に姿を現したシリウス様に腕を取られ、私は立ち上がった。

寝転がったままの、ウィル兄様は……



「なにを甘えている、さっさと立たんか!!リビングストン、貴様もだ!!」



ゲシゲシ……

ウィル兄様は、シリウス隊長に足蹴にされていた……



「ぐっ……隊長~、ひどくないっすかぁ?」



「リンカを迎えに来てみれば、呑気に寝転げておるからだ。リビングストン、すまんが部下を借りる……其処にいる騎士、付添人殿を、大巫女様の所まで送り届けてくれ」



「……フォルクス、シリウス殿の指示に従え。リンカを頼む」



「はっ!リビングストン隊長……付添人様、此方へ」


 フォルクスは、右手を心臓の位置に掲げ礼を取ったあと、私の右手を取り、鍛練場を後にした。

視線を向けてみれば、ウィル兄様とエディは、シリウス様と何か話し込んでいた。


 塔の中にっ戻って、見覚えのある通路を歩いていると、

不意に体を引き寄せられた。私を案内している騎士フォルクスが冷酷な表情で、他には漏れない様、耳元で話しかけてきた。



「アンタ……何モンだ?ニンゲン?だよな……見た目子供なのに、大の男を手玉に取って……堅物の隊長が、あんなおかしくなっちまって……なんかやったのか?なぁ、お前がいなけりゃ……」


 

 只のチャラ騎士だと思っていたフォルクスが、私を責め、取られていた右手が締め付けられて痛い……。


「お前がいなければ……」


 遠い昔に責め立てられた時と同じ言葉に、私はその時の事を思い出し始めていた。目の前の騎士の姿はもう見えない。私の目に映っているのは、アノトキの光景だ。







◇◇◇◇◇◇◇◇






「お前さえいなければ、和人は死ななかったんじゃ」


「お前のせいで、和人は死んだのよ。お前のせい……」


「アンタがいたから、パパは家を出たの……アンタのせいで……パパは帰ってこない……アンタなんかいらない、どっかいっちゃえ!!」



 私の誕生日のプレゼントと予約していたケーキを買いに行ったときにおきた交通事故だった。

私の事をヨブンナモノとしか認識しなかった義父の両親……


そして、義祖母に言いくるめられていたのか、再婚した父親と暮らさずに実家にいた義姉の玲奈……


 義父の前では、仲の良い振りをしていたが、義父がいないと、髪を引っ張られたり、つねられた。

それでも、母が幸せそうだったのと、弟の為に我慢した。

私の代わりに、弟が虐められたらと思うと、何も言えなかった。


私の誕生日で無ければ、買物に行かないで、家にいたのだろうか?……その時の事を、聞くことはもう出来ない……






◇◇◇◇◇◇◇◇






 私を責め続けるフォルクスの手が、興奮しているのか、

手が震え、襟首をつかもうとしたのか、その手が首を絞めつけてきた。



「げほっ……苦し、い……」



 この世界に来て、初めてあからさまな悪意にさらされた。アノトキの事もフラッシュバックして、私はいないほうが、生きていない方がいいのかと、思い始めてしまった……



《だめー!》 《ワルイヤツ》

《リンカを守るです!!》 《燃やす!》

《がるるうう……》 《ちがう、やっちゃだめ!》

《アイツ縛られてる》 《待って、助け来る》



「そこで、何をやっている……?」



 突然声がしたと思ったら、ユスティア様がフォルクスを引き剥がしてくれた。



「……あ?じ、自分は何を???」



「げほっ……はぁ、はぁ……テ、ィア様……」



「リンカ?リンカどうした?大丈夫か?」



「ティア様……大丈夫で、す。なんとも……ありません」



「そこの騎士、名前は?リンカに何をしていた?」



「はっ!自分は聖騎士団白の塔支部、副官のフォルクスであります。シリウス隊長の指示により、付き添い人様を大巫女様の所へお連れしているところであります。」



 ティア様に返答するフォルクスを見ていたら、闇の精霊ダークが、

 

《アノ人間、操られてた》


そう、教えてくれた。


「ティア様……ご自分のお立場を……」


 エレン様はそう言いながら、何事かティア様に囁いていた。そして、私をここまで案内してきたフォルクスに向かって、



「ここからは、私がお連れいたします。ご苦労様でした」



そう、告げた。



「リンカ、遅いから心配したのよ。精霊術は見れて?鍛練場に行ったのですって?」



「ティア様……。先ずは大巫女様の所へ行きましょう。こんな所で立ち話は良くはございません」


 

 エレン様に促されて、私達は、大巫女様の待つ部屋へと向かった。

昇降機で三階に上がり、居住区のほぼ中央の部屋の大きな両扉の前に着いた。エレン様は扉に付いているノッカーを鳴らすと、扉が開いて中に通された。



「ユーフェミア小母様、リンカを連れて来ましたわ」



「うむ、よう参った。リンカ、待っていたのじゃ」


  

 何の御用か、大巫女様が私を待っていたらしい。


「私は、火消作業の進み具合を見てきます」

 

エレン様はそう言って、後の事をシンディに頼むと退出して行った。エレン様の後を、こっそり風の精霊、ウィンディが付いて行った。


 大巫女様はティア様と私を応接間のソファに案内した。


「リンカ、精霊術は堪能出来たか?どうだったのじゃ?」


 大巫女様が私に精霊術の感想をきいてきた。

私は、どう答えようか、どう答えるのが正解なのかを考えた……考えたけど、なにも浮かばない……

答えられない私を、ティア様は不安そうに見ている……

大巫女様は、ニヤリと笑うと、



「ふふふ……ちと、虐め過ぎたかの……鍛練場での事、わかっておるのじゃ。今頃アヤツら、シリウスから雷を落とされておるじゃろ……ふふふ、雷属性が雷を落とされるのじゃ……笑える……」



 何だろう?大巫女様、何かがツボに入ったらしく、爆笑しております。そんな大巫女様をジト目で見た後、ティア様が、問いかけてきました。



「リンカ、鍛練場が光に包まれたところまでは、報告が入っているのよ。そのあと何があったの?」


 

 う~ん、精霊王様達、特に口止めされなかったけど、

言って良いことなのかな?どうしよう……

悩んでいると、闇の精霊が子犬の姿で現れて、


《人の子よ、見えぬものは知ろうと思わぬことだ》


ティア様にそう告げた。そして、私の膝の上に乗ると、気持ちよさそうに寝息を立て始めた。……ちょっと、なにコレ、もう、可愛すぎるんですけど……


 私は闇の精霊、ダーク君の耳の後ろをそっと撫でて、そのモフモフ感に、癒されたのでした。


 大巫女様は、私を見て、安心したような顔をして静かにほほ笑んでいた……



「リンカはいいじゃ……素直で、良き魂の持ち主じゃ……」



 そう言って、頭を撫でてくれた。

それを見ていたティア様は、



「私、リンカが好きよ。この先何があっても、ずっとお友達よ」



そう言って、抱きしめてくれた……

私は、フラッシュバックしていた()()()遠くなっていくのを感じた。



誰かに向けられた悪意……

それはリンカ個人に向けたもの?

それとも……?


すみません。

アノトキの風景→光景に修正しました

他、微細な修正ありです。

よろしくお願いします。


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