24.精霊王の加護
霞んではっきりしない光の氾濫の中……
鮮やかな輪郭を成した、ソノヒトは……
会った事など無い筈なのに……
どうしてだろう……?
何故だか懐かしく感じてしまう……
『我は闇の精霊を統べる者ソワール……』
七つの大きな光の内、その姿を目視出来る様になったソノヒトは、闇の精霊王様でした。
「あの、助けて下さって、ありがとうございました」
『我らを呼んだであろう……愛し子よ……』
闇の精霊王ソワール様がそう言うと、
《呼んだ、呼んだよ〜》
《ボクらを呼んだぁ〜》
《ワーイ、ワ~イ……》
無数の小さな光が、私を取り囲んだ……
殆どの光は薄い膜の様な球体だった。だが、その内の幾つかは、小さな子供の様な姿をしていた。
「あ、あなた達は?……精霊さんなの?」
《そうだよ~僕たち精霊だよ~》
《そうなの~私たち精霊なの~》
私が問いかけると、小さな子供の姿をした精霊さん達は嬉しそうに、楽しそうに、答えていた……
『…愛しき娘よ……許す、と……一言、許す……と……』
何だろう?闇の精霊王様は、何を言っているんだろう?
私は、よく分からないまま、求められた言葉を言っていた。
「許す……?」
闇の精霊王に求められた言葉を私が言った途端、光のすべてが、眼を開けている事が出来ない程光り輝き……鍛錬場を明るく照らし、瞬く間も無く、突如消滅した。
光りが消えた感覚に、私はそっと眼を開けた。
するとそこには、闇の精霊王に加え、背の高い、見目麗しい男性が、九人も立っていた。
彼らは口々に、何か言っているのだが、よくわからない。
見かねた闇の精霊王が、何事か指示すれば、彼らは心得たとばかりに、大きく頷いていた。
それから、私を覆い隠す様に囲い込むと、一人ずつ自己紹介を始めた……
『 我は光の精霊を統べる者
名を□□□□□□ 』
光の精霊王 リュミエール
『 我は風を統べるモノ
名を□□□□□□ 』
風の精霊王 ヴァーチェル
『 我は雷の精霊を統べる者
名を□□□□□ 』
雷の精霊王 エクレール
『 我は炎を司る者にして精霊の王
名を□□□□□ 』
炎の精霊王 イーグニス
『 私は水の精霊を束ねる者
名を□□□□□ 』
水の精霊王 ヴァッサー
『 我は木の精霊を統べる者
名を□□□□□ 』
木の精霊王 リーファス
『 我は地の精霊を統べる者
名を□□□□□□ 』
地の精霊王 グランテール
『 我が名は □□□□□
氷の精霊を統べる者』
氷の精霊王 グラキエス
そして、彼等は私に告げた……
『 我らの加護を……愛し子に…… 』
私、精霊王様達に、加護をいただきました……
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺の名前は、ウィリアム・フォルツァ……
雷の精霊と契約している精霊術士だ。
攻撃特化型の雷属性は、防御には向かない。
だが、『フォルティス隊』斬り込み隊長でもある俺には、
これ以上のものは無いほど、性に合っている。
この世界の事は、小さな子供でも知っている事を、何も知らないリンカ。
迷い人の娘は、見た目が幼くて、胸だって発育途上にしか、見えなかった。
年齢を聞いたときは、ユスティア様に揶揄われているのだと思った。
同じ年頃の娘たちと違って、“女”臭くないところがいいのか、シリウス隊長もリンカを気に入ったようだ。
冒険者の話で、くりっとした目を輝かせたリンカと、隊長が親しげに話していた。
年上から丁寧に話されたくないらしい。ならば、俺だって、年上だ。リンカと遠慮なしに言葉を交わす……よし!言質は取った。
休憩中に、リンカがとんでもないことを言った。
シリウス隊長に、やらせて欲しい?いじってみたい??
ま、待て、待て、待て……いくらなんでも、早いだろう?
いや、十八歳だったら……いや、ダメだ!
真相は、隊長の長い髪の事だったが、アセッた。
白の塔の隊長なら、やらせるんじゃないか?なんて、シリウス隊長は、余計な事を言っていた。
時間の事を説明している隊長を、リンカが“センセイ”と、呼び掛ける。特別な事の様に思えて、俺もそう呼ぶように請えば、俺を見上げる、可愛い生き物がそこにいた。可愛すぎる……。閉じ込めたくなる可愛さだ。
空腹に涙する、可愛いリンカ……
俺を兄様と呼んで慕ってくる。
男六人兄弟の四男の俺に、可愛い妹が出来た。
精霊術が見たいというリンカをはぐれない様に、手を繋いでリビングストンの所に連れてきた。
仲のいい俺たちに、リビングストンが目を剥いてきた。
転びそうになったリンカを抱き留めたまま、リビングストンの奴は、中々離そうとしない。
険悪な雰囲気になったのをリンカが止めたが、何故だ?
何時の間にかリビングストンを愛称で呼んでいる。
リンカが可愛いのがいけないのか?鍛練場まで、ドサクサに紛れて手を繋いで案内するリビングストン……
鍛練場ならば、術を行使しても、大丈夫だろう。
不本意だが、防御が得意な奴もいる……。
俺は術を二つ……派手に雷をぶっ放した。
リビングストンが防御壁を展開している。あれならば、
万が一にもリンカが怪我したりすることは無いだろう。
そう思って見ていれば、あの野郎……
防御壁の中、逃げられないリンカにキスを??
頭に来た俺は、防御壁を叩いた。手で叩いても、防御壁は消えない……頭に血が上った俺は防御壁に向かって、雷をぶっ放した。
防御壁に弾かれた雷は、そのまま俺に撥ね返って来た。
リンカの悲鳴が聞こえた……
泣くな……リンカ……俺がミスったんだ……
直撃は避けたはずだったが、腕に激痛が走った。
チッ……
切り込み隊長の俺が、ヘマしちまった……
リビングストンの様子が……眼の焦点が合ってない。
あぁ……腕が痛てぇ……
リンカが……精霊に呼びかけた……
その時、俺は信じられないものを見た。
高位の精霊……まさか、精霊王、か……?
全部で九体……まさか、全属性の??
その内の一体が俺に近ずいて……
腕の怪我が消えた……精霊の癒しを俺に??
精霊王が、リンカを隠して……?何を……
そこで俺の意識は無くなった……
◇◇◇◇◇◇◇◇
精霊王に加護を貰ってから、全ての精霊の姿が、
眼に見えるようになった。
始めから見る事が出来た闇の精霊王は、私がこの世界に
来てすぐに、加護を与えていたのだという。
そして、守りの為に『ダーク』という精霊を付けていた。
人と契約している精霊は、名をもらう事で人に近い形を
取ったり、動物に近い姿を取ったりする事が出来る様になり、気に入った相手には、姿を現すそうだ。
ダーク以外に見えていた精霊は、誰かと契約していた
精霊だったようだ。
フォルツァ様とリビングストン様を助けてくれたのは
光の精霊王様と闇の精霊王様……
光の精霊が癒し、闇の精霊が精神を安定させる為、一時の眠りに落ちているとの事だ。
精霊王様が聖域に戻る前に、私に守りの精霊を付けてくれる事になった。全ての属性の精霊が私の守りについてくれた。精霊たちはそれぞれ、
光の精霊 《ルーチェ 》は白い猫
風の精霊 《ウィンディ》はインコに似た小鳥
雷の精霊 《トーネル 》は小さな龍の姿
炎の精霊 《ファイア 》は小さなドラゴンの姿
水の精霊 《 アクア 》は小さな蛇に
木の精霊 《アーベル 》は小さな蜥蜴
土の精霊 《 クレイ 》はエゾリスの様な小動物
闇の精霊 《 ダーク 》は黒い子犬
氷の精霊 《 アイス 》は茶色のたれ耳の兎
おぉ、なんか可愛いモフモフがいる……
精霊が小さな動物に変わった。精霊王が聖域に戻る前、名残惜しそうにハグをして……『神の愛し子』、
『アプリール・アンファング』、『また会おう』、
『聖域で待っている』など、よくわからない事を言っていた。
私はそんな事より、精霊と契約出来るのか?
精霊術が使えるようになるのか?その事ばかり気になっていたけど、聞く前に精霊王達は、聖域に戻ってしまった。
残った精霊達は契約できるのか?
私が精霊術を使えるのか?の問いには、『僕たちもわからな~い』そう言って、はぐらかされてしまう。
まったく、このモフモフどもめ!!
一頻モフモフを堪能していたら、ウィル兄様と、エディ、二人が意識を取り戻した。
そして、さっきまでの出来事は私達三人の秘密となった。
加護と契約は別物です。
守りの精霊、爬虫類はそれなりにかわいいです。
冬は眠いと言ってさぼったりは……




