21.異世界のお勉強始めました
アストーリア皇国の一般常識の
説明が長いです。ななめ読みでOKです。
毎日、毎日、バイトと勉強、そして施設の手伝い……
私の女子高生・生活は充実はしていたが、派手に遊んだり、旅行に行ったり、恋愛といった華やかさとは縁のない
普通の女子高生からしたら、地味でつまらないものだった。
趣味と言えば、歌う事、アニメに漫画、ラノベやネット小説を見たり読んだりする事だった。
掛け持ちバイトをしていたカフェで、イタリア人のオーナーに気に入られ、高校卒業後イタリアにバリスタの研修をしに行く予定だった。
親を亡くしてから育った施設を出て空港ヘ向う途中で、
縁を切っていた義姉の玲奈に遭遇、召喚に巻き込まれて、
異世界にトリップしてしまった。
ラノベによくある異世界召喚において、召喚なんてするのは、大概まともな人物じゃない。有無を言わさず拉致して、働かせて、帰せません、なんて……
例え、勇者様、聖女様なんて、もてはやされても、世に言うブラック企業よりもよっぽど黒い……
重要人物じゃない、巻き込まれトリップなんて、最高じゃないか……使命も無ければ指名もされない。
上手く立ち回れば、自由で快適な異世界生活が手に入るのだ。全ては交渉次第……
私は一人でも、生活出来る様になったら、この国から出て、他の国で暮らしたいと思っている。
召喚した国なんて、後々面倒な事が出てきそうだ。
その為にはまず、一般的な常識を覚えなくてはならない。
通貨の価値や単位、どういった職業があるのか?
私の持っているノウハウは価値があるのかないのか。
幸い皇女様に気に入ってもらえた私は、独り立ちできるまではティア様の下で過ごしたい。
騎士団の人とも仲良くなって、自分の身は少しでも守れるように剣を習いたい。
こんな本心を隠している私は、自分でもイヤな奴だと思う……
◇◇◇◇◇◇◇◇
この世界に魔法はあるのか……
私は気になっていて、今迄聞けなかったことを聞くことにした。
「魔法というのは……リンカ様、それはどういった物ですか?」
ぅ……質問に質問で返されてしまった……
「魔法っていうのは、呪文を唱えて、炎を出したり、水を出したり、風を起こしたり……」
う~ん、説明するって難しいな……
「例えば、暗闇で、光よ!とかいうと明るくなるとか、そう言ったものは、あるのですか?」
う~ん……この世界に、魔法って無いんだろうか?
でも、神官長あやしいんだよね。変な術とか、使ってるぽい。
「ええと、ですね。魔法というのは、無いです」
フォルツァさんが、答えてくれた。
魔法無いの?マジで??えぇ~……
期待が外れてうなだれる私に、フォルツァさんは言葉をつづける。
「でも、精霊術というのに、似ているかなぁ?」
「精霊術?それはどういったものなのですか?」
私は勢いよく頭を上げて、フォルツァ様に詰め寄った。
「そうですねぇ、実際に見てもらうと解り易いかなぁ……」
「わ、あ……見たいです。お願いします!」
魔法が見られる。期待に胸の鼓動が高鳴った。
「う〜ん、今すぐは難しいなぁ。残念だけど私の契約精霊の属性がね……」
フォルツァは攻撃特化型の精霊術士で、契約精霊の属性は、雷属性だった。室内で術を行使する事は難しい。
「今塔に居る精霊術士で最も優れているのはリビングストンだ」
シリウス様は何事か、考えながらそう呟いた。
「……精霊術については、リビングストン隊長に一任しよう。他にはどういったことを?」
「この世界についての常識的な事をお願いします。一年の単位とか、暦に関する事、時間、子供でも知っている事なら全部お願いします。」
私は、身を乗り出す様にして、二人の騎士に迫っていた。
思わぬ勢いに、シリウス様は少し困ったように、苦笑していた。
「それではまず……一般的な事から勉強を始めますか?」
それからシリウス様、フォルツァ様による子供でも知ってる一般常識集中講座が、始まったのでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
シリウス様は、まず暦について話し始めた。
一年の単位をフロルと言い、今は1487フロル。
アストーリア歴298フロル……
アストーリア神皇国となってから298年目だという。
一か月は30日で、一年は360日。一月から順に、
ヤヌア、フェブラ、メルツ、アプリール、マイン、ジェネ、ジュエン、アルブ、セッテン、オクト、ノヴァン、デッツェン
一週間は、ルネ、マルタ、メルク、ドンナ、ゾンア、バスク、の六日間で一セテマ……
五セテマで一モンス、五週で一ケ月だ。
十二月の結びの日から一月の始まりの日まで五日間、
デッツェン・アンフィーネからヤヌア・アンファング……
十二月三十日から一月一日までの、五日間は神々の祝祭の日で次のフロルに移行する準備期間となる。
人にとっての安息日となり、神々に感謝を捧げ、家族と共に過ごすらしい……
誕生日という概念は無く、五日の間にお祝いをして、一つ年を取るという慣習になっているそうだ。
って、こんなの聞いただけで覚えられる訳無いでしょう……無理無理……
話が始まってすぐ、ウエストバッグから紙とペンを取り出して、メモ書きしましたよ。
私が書いている文字を見て、フォルツァ様が興味津々という表情で横から覗き込んできた。
書き難い……段々と顔が……近い!近いから!!
私は書いているのを隠す様にして、
「恥かしいから、見ちゃダメ!」
と、訴えた。そう、顔が近くて恥ずかしいんだよ。
吸い込まれそうな青い瞳が、近すぎなんだよ……
「フォルツァ、幼く見えても、リンカは十八歳ですわよ。
距離が近いのではなくて?」
ティア様が助けてくれた?……助けてくれたんだよね?
幼くって……幼く見えますか?ああ、そうですか……
フォルツァ様は、急に距離を取って、信じられないっていう顔をしている。
シリウス様は、フォルツァの様子を見て鼻で笑っていた。
「リンカ、他にはどういったことを?」
私は気になる事をメモを取りながら、聞き続けた。
私が次に聞いた事は、どんな職業があって、どんな人たちが住んでいるかについてだ。
アストーリア神皇国の首都『アステル』……
宗教国家でもあるこの国の首都は、聖域に近い場所に三神崇拝のアスティ教の荘厳な神殿があり、皇帝や皇族の居城は都市の中央に、周囲を見下ろす様な高台に、周囲を壁に囲まれ、神殿よりも大きく、権威を誇示するかのように建っている。
城に近いほど、有力で上位の貴族が住んでいる。
遠ざかるほどに、爵位とか、身分が下になるのかと思えば、地方の領主とか、辺境伯などは、城から遠くても普段住んでもいないので気にしていないそうだ。
貴族や、神官、高級官吏以外の市民は、上流、中流、下流、賤民、と大きく四つに分けられている。
市民権を持ち、税を払い、高い教養や知識を持つ裕福な上流市民とは、商工組合の長や大きな商会を持つ商人、都市の防衛、警吏を受け持つ騎士・役人を有する一族などだ。
中流も市民権を持ち納税の義務はあるが、金銭以外の労働力で支払ってもよく、専門職や職人頭、工房主、小売商、商工組合員で構成されている。
下流は居住権はあるものの、納税の義務が無い代わりに
有事には徴兵され、神殿や皇宮の下働き、職人見習いなど
低賃金で使われる。一定の税を納めれば、中流になる事も
出来るらしい。
賤民は、居住権を持たない流動の民で、日雇い職や傭兵、冒険者、旅芸人や吟遊詩人、男娼、娼婦、など他者から排斥された者、されやすい者たちとのことだ。
「冒険者?冒険者って?あの冒険者??」
むほ~異世界と言えば、冒険者……
きたきた、きましたよ~冒険者~~
冒険者ギルドもあるのかな?
「?……あのってなんだ?冒険者は冒険者だろう」
シリウス様、その説明神官長みたいですよ。
「冒険者ギルドで登録して、ギルドカードを発行してもらってランクがあって、採集したり、刈りに行ったり、討伐したりダンジョン探索したりする、冒険者ですよね?」
「少し違っているが、大体そんなもんだな。リンカは、冒険者に興味があるのか?」
あれ?シリウス様の口調が……
「興味っていうか、異世界といえば、冒険者っていうぐらい有名な職業なのですよね?」
「リンカの世界で、有名なのか?冒険者が……」
「シリウス……リンカに、親し過ぎるのではなくて?
口調が、淑女に対するものでは無くってよ。」
「うん?あ、ああ、つい……だめか?」
シリウス様が、悪戯を見つかった子供の様な感じで私に聞いてきた。
「ダメじゃないです、先生。逆に、年上の人に敬語使われるのツライです」
動揺して、何だか棒読みの台詞みたいになってしまった。
「なるほど、年上ね……じゃあ、俺も敬語使わなくて
いいな?リンカ?」
フォルツァ様まで、敬語無しで喋り出した。
「はぁ、もう、貴方達には何も言いませんわ。私が今、
皇女で良かったわね。副団長に戻ったら、覚えてらっしゃい」
「そろそろ、休憩されませんか?皆さま……」
エレン様が、ワゴンにお茶の用意をして声をかけてきた。
時計が無いから、時間が解らない。今何時だろう?
そういえば、一日は何時間だろう?これも、教えてもらわないと。
ティア様と、騎士二人の雰囲気が妙な感じになっていても、気にとめる事も無くて……
ああ、頭を使ったからか、甘い物が欲しい……。お茶請けってあるのかな?
どちらかと言えば、お腹空いてきたなぁ……
昼ごはんって、あるのかな?
私は、そんな事を考えていたのでした。
説明長いですよね。リンカの頭の中も、
アップアップしてます。
次回は、アゴヒゲ再び……です。




