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17.神官長がわからない


 昨日は、普段の私と比べたら三時間ぐらい早い時間に

夕食を取った。夜中にお腹が空くかも?って思ったけど、

そんな事を思う間も無く、悪い夢も見ないで、朝までぐっすり……寝てしまった。


解らないのは、神官長だ。何がどうして、どうなって、

同じベッドで、寝ていたのだろう?

そういえば、誰かが優しく、背中を叩いてくれた様な……

優しくあやしてくれていた様な気がする……



 お腹の虫が盛大に鳴いたおかげで、エレンさんが食堂に案内してくれることになった。

来た時の様に、ぐるぐる迷いそうになるのかと思ったら部屋を出て、ホールの様になっている先に、何という事でしょう……エレベーターとしか、表現できないものが!!異世界不思議バンザイ!



「リンカ様、食堂まで、昇降機で一階に降りたらすぐですよ」



「くわしいね、メリル」



「はい。だって私二年前まで塔で暮らしていたんです」



「二年前まで?もしかして、メリルは十二歳なの?」



「はい、そうです。ユスティア様」



「巫女としての能力が無くて、神官見習いとして、勉強を始めたところだったのね……」



「エレン様、モナーフ様の所でも勉強出来ますから」



「うん?私、メリルの勉強の邪魔してる?」



「リンカ様!そんな事ありませんから!リンカ様のお世話をする事も勉強なのです。モナーフ様は、優しい方です」



「オカンだからね」



「やだ……思い出してしまいましたわ。クスクス」



「何のお話です?ティア様、私は除け者ですか?」



「クスクス……エレン、あとでゆっくりね、食堂に着くわ」



 ティア様も、塔の内部に詳しいなぁ。

私には、迷路なんだけど……あれ?あれって……


 昇降機を降りて、歩いていたら、扉の前に立っている人影があった。

カルセドニィ様と、レイラ?さんと、もう一人の騎士さんは、名前がわからないなぁ。

そうだ!ティア様なら副団長だし、わかるよね。



「ティア様、あの、カルセドニィ様といらっしゃるもう一人の騎士さんは、何ていうお名前なのですか?」



「ん?ああ、ミランね。そういえば、紹介していなかったわね」



 歩きながら話していたので、現在ご本人が目の前に……

何故か騎士二人は、私達を見て焦っている様子だ。



「副団長……」



「ユ、ユスティア様、これは……」



「……人払い中か?塔の中だ、気抜けするのも仕方ないが、待機中なのだろう?……今の私が、第三皇女としてあるを幸運と思え。副団長として接しておれば、懲罰対象だ。待機も任務なのを忘れるな!」



「「ははっ!」」



姿勢を正して、二人は右手を心臓の位置まで掲げ、騎士の礼を取った。



「レイラ、強制的に戻す事も、出来るのですよ?ユーフェミア様の不況をこれ以上買わない様になさい」


 エレンさんは、若い騎士に腕を絡めていたレイラをたしなめた。



「……戻れば私は侯爵令嬢、側仕えごときが、無礼では無くて?」

 

 大神官の母親の実家の侯爵家令嬢なのだ、塔の中では平神官など、教団の最高権力者である大神官に言えば、どうとでもできる筈……

愚かにも、レイラリィ・クラレンスは、そう思っていた。



 塔の中だけでなく、アスティ教における、全ての最高権力者は、『神託の巫女』ユーフェミア・ソレイユ・アストーリア……

永き時を塔の中で過ごしている大巫女ユーフェミアその人である。



「……私を、側仕えごときと……侮るのですね?」


 エレンさんの様子が変わった。春の陽だまりの様に暖かだった雰囲気が、冷気が漂うほど冷たい物になった。

原因を作った当のレイラでさえ、小さく悲鳴をあげていた。



「エレンさん……」

 

 何だか、このままじゃいけない気がして、つい声を掛けてしまった。

すると、凍てついた雰囲気はすぐに無くなり、何事も無かった様に私を見た。



「先を急ぎましょう、リンカ様。倒れられたら大変ですからね」


 エレンさんはそう言うと、片目を閉じウィンクした。

美女のウィンク、破壊力パネェ……

頬に熱が上がってきている気がする、顔赤くなってるかも?


 足が止まっていた私は、メリルに腕をとられて、軽く頭を下げながら三人の前を通り過ぎた。

食堂の扉の前で振り返ると、神官長とシリウス様が、円卓のあった部屋から、出てきたところだった。


声を掛けるにも距離があるし、神官長は、此方を見ようともしなかった。

振り返る事も無く去っていく神官長を見送り大きな両扉の、メリルが開けて待っている左手側から中に入った。



 食堂の中には、大きな長テーブルが二つが縦に並んでいた。

テーブルの両側には大人なら三人か、四人ぐらいで腰かけられそうなベンチタイプの椅子が片側に三個ずつ備えられていた。

二つの長テーブルの向こうには、半分ほどの長さのテーブルが横向きに設置してあった。主賓席というものだろうか?

とても目立つ場所で、ティア様が手招きしている。



「朝食の時間には少し早いのだけど、お話しながら、待ちましょう。聞きたい事もあるのよ。」



う、なんか、イヤな予感がする……


「聴きたい事ですか?なんでしょう?」



「ねぇ、リンカ。ユース兄様から、何か受け取ったでしょう?」



「……」



「そういえば、ユースヴェルク様が、コッソリやってましたね」



「……」



「木の箱に入ってるみたいでしたよ」


 メリルの、『木の箱』の一言に、ティア様もエレンさんも目がギラギラしてますよ。中身がとっても気になるのですね。


「実は……さっきの部屋に、置いてきてしまって、まだ開けていないので、何が入っているのかわかりません」



「まぁ……そうよね、楽しみは後の方が……」


 ティア様がそう言った時、何処からか、鐘の音が聞こえてきた。


「どうしましょう、ユースお兄様のお見送りを忘れてしまったわ」



「ティア様、儀式の前日には、塔に来られると思いますよ」



「そういえば、食堂に入る前に、大巫女様に連れられて入った部屋から、神官長とシリウス様が出てきて、そのまま通路の向こうへ……」



「岸辺に戻ったのよ。七の鐘が鳴る前に渡らないと、通路(みち)が消えてしまうもの……」



 湖底から現れた透明な通路(みち)は、一日二回、朝夕の六の鐘と共に現れて、七の鐘と共に水の中に消えてしまう……通路が無い時に塔に入ろうとしても、誰も入る事は出来ない様になっていると、ティア様がおしえてくれた。


 七の鐘が鳴ってから、私たちが座っていたテーブルの奥の両開きになっている扉から二十五人の子供たちが現れた。

子供たちは揃って、ベージュ色の簡素な貫頭衣を着ていた。


下は三歳位から上は十二歳ぐらいかな?

メリルとそう変わらない年長の子たちが、下の子の面倒を見ている。

圧倒的に女の子が多いなぁ……あ、あの子……


 五歳ぐらいの男の子を見て、弟と別れたのは弟が、あれ位の頃だったな……と、思い出していた。

玲奈と会ったりしたから、思い出すのかなぁ……

どうせなら、弟の尚人に会いたかった……

そんな事を思っていたら、



「リンカ?どうかして?顔色が良くないわ……」



ティア様に、心配されてしまった。


「……お腹が空いてしまって……」


私は苦笑いを浮かべて、ごまかした。いや、お腹が空いているのは事実だ。そうだ!ごはんだ!!



 子供たちが現れた扉から、大きなお鍋をワゴンに乗せた女の人が出てきた。調理専門の人なのだろうか?大きな前掛けをして、頭には布を被って、髪の毛を覆っている。

 

木製の食器を乗せたワゴンを年長の女の子が運んできた。

女の子はメリルを見ると、目を丸くして、



「ちょ、メリルってば、何でいるの?返されちゃったの?」



「違うよ。お仕事だよ」


 メリルは、女の子と二言三言話した後、木製の食器に

雑穀粥みたいな感じのものを入れて、持ってきてくれた。

ティア様の分はエレンさんが用意していた。

 

 子供たちの用意が、まだ終わっていなかったので、お手伝いする事にした。みんな一緒に朝ごはん……

何だか、楽しくなってきた。そういえば、ここって宗教施設?なんだよね?食事の前にお祈りってあるのかな?


私は、周囲の様子を見てみた。すると、両手を組み、何事か呟いている。

食前のお祈りは、あるんだね……いきなり、『いただきます』しなくてよかった。


 


 待ちに待った朝ごはんは、微妙だった。

塩味が足りない、優しすぎる味だった。

こんなところも、異世界あるあるだったか……


食事の後は、部屋に戻って荷解きと、神官長からもらった

謎の物体の確認をしないといけない。


「大したものでは無い、出来たら使ってほしい……」


そんな事を言ってたいた……ほんっと、わからない人だ。




神官長の気持ちがわからないリンカですが、

神官長自身、自分の気持ちがわかっていません。

そんな二人ですが、最後は……

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