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12.『白の塔』へ



 神官長に指示された扉の先は、客室に繋がる三畳程度の空間だった。

メリルが用意してくれたのだろうか、棚の上に着替えが用意されていた。

身体に巻いていた布をとり、慣れない手つきで下着の紐を結んでいると慌てた様子のメリルが客室と繋がっているドアから現れた。



「リンカ様……朝の支度をと、お部屋に伺いましたのに、いらっしゃらなくて、心配致しました。モナーフ様と、ご一緒だったと……」



「あ~、そうだね、心配かけてごめんなさい。それよりも、お願い!着替え手伝って!!」


メリルのお小言が始まりそうな気配に、着替えの手伝いを頼む事で気をそらした。胸の前で複雑になっている紐を結ぶのが難しい……


「横の部分を寄せるから、紐を絞めて……」


 涙ぐましい努力かもしれないが、少しでも谷間がほしい。

だがしかし……貫頭衣を被ったら関係なかった……あぅ。

着付けを終えると、メリルがこれからの事について話し始めた。


「この後、リンカ様は、花嫁の付き添いとして『白の塔に』向かいます。此方に戻る事はございません。お持ちになる物はございますか?」



「これと、これ、持っていくよ」


私は、着替えを入れたマイバッグと必要な物全てを詰め込んだウエストバッグを手に持って返事をした。

始めにいた石の祭壇に一緒に着いてれば、よかったのに、

キャリーバッグは届いていない。歩道橋に残っているのかな……



「こちらはどうなさいます?」


そう言ってメリルが手にしていた物は、浴室に置き忘れていた、下着だった。


あわわわ……

「昨日、軽く洗ったんだけど、洗いなおしたいかも」



「そのような事、言って下されば、私が致しますのに」



「えぇ?下着だよ……恥ずかしいよ」



「……恥かしいなどと、裸で、湯帷子(ゆかたびら)無しで湯あみされる方が何を?」

 


 口角を上げて微笑んでいるけど、眼が笑っていない。

おぉう……メリルが、黒いよ……



「塔でも私がお世話いたします。些事に気を取られては……神官長様がお待ちです。お急ぎ下さい」



 ウエストバッグを腰につけ、マイバッグを持つとメリルと共に広間に向かった。すると目の前には、既に身支度を整え、ソファーに座って、優雅にお茶を飲んでいる神官長がいた。



「ふむ……やっと来たか。(じき)に五の鐘も鳴ろう……」



そう言って立ち上がると、先に扉へと向かった。

ヨルズが開いた扉の先は、神官長の執務室だった。

其処には、昨日出会ったシリウスという騎士と、女神がいた。



「うわぁあ……何て綺麗(きれい)なの」



思わず感嘆の声が出た。

私と同じ様な白い貫頭衣なのに、花嫁衣裳の様に見える。


そうか!わかった……!



「えぇと、副団長さん?が、お嫁さん?花嫁さんなの?」



「……そうだ。ユスティアが『神の花嫁』……リンカ、其方は付き添いだ」



な・ん・で・神官長が答えるかな?

「あ、あの、私リンカって言いま……」



「時間が無い、『白の塔』に向かう……」



 神官長がそう言うと、ヨルズは低頭しながら執務室の扉を開いた。

ヨルズによって開かれた、扉の先の光景に私は息をのんだ。


 扉の前で警護に当たっていた二人の騎士の他に、六人の騎士が右の拳を心臓の位置まで掲げ、低頭してその場に待機していたのだ。



「……少ないのでは?」


神官長の言葉にシリウスがゆっくりと顔をあげた。



「恐れながら……信頼のおける精鋭を揃えました。

各人が一騎当千の強さを誇っております。加えて……」



「シリウスも私も、共に行くのです。護衛が多いと(かえ)って、目立ちましょう」


 副団長の言葉に、まだ何か不満そうな神官長も納得したようだ。と、不意にヨルズが近づいて来た。



「リンカ様に、神々のご加護がありますように……」


そう言うと両腕を胸の前で交差して、何故か、いつもより

丁寧で深いその仕草に、私はうろたえてしまった。


「ありがとう。ヨルズあなたも……」

 

 挨拶だけするつもりだった。何かを(こら)えるようなその表情に、生き別れの弟を思い出し、つい抱きしめてしまった。

驚いて固まったヨルズの頭を、私は数回撫でてから離れた。


 そんな私の様子に、周囲の騎士達も目を丸くして、

見ているような気がした。

ハグは元々西洋の文化じゃ無かったか?なぜそんな眼で?……解せぬ


 異世界だから!世界が違うから!!

という突っ込みが入るわけも無く……



 周囲のそんな雰囲気にも関わらず、ユスティアはシリウスに目配せした。

 

「出立する、手筈通り、隊列を組め!」


 シリウスが手を上げて合図すると、護衛対象者を囲むように、騎士たちが動いた。統制のとれた、無駄のない動きだった。

現在、周りにいる騎士達の身長は、軽く190センチはありそうだ。

私の頭が、胸に届くか届かないかぐらい……。


 身長165センチは日本女性なら、高身長に入ると思う。だけど、騎士達が囲っている外側から見たら、私とメリルに目が行く人は少ないだろう。

小さい小さい言われても、仕方がないか……。


 シリウスと神官長が先頭になって、回廊を進んでいく。

早朝の、五の鐘に合わせて行動を開始しただけあって、

他の誰とも会う事は無かった。


 突き当りには大きな門があり、その前には槍をわきに抱えた兵士が二人、門を守るように立っていた。門の横は兵士の詰め所になっているのか、濁ったガラス窓の様な場所から、中にいる人の影が動くのが見えた。


「『白の塔』に花嫁を届けに行く。許可証はこれに……」


 門番に、シリウスが何か、筒状のものを渡した。

渡されたものに目を通すと、



「どうぞお通り下さい。神官長様、シリウス様……皆様」

 そう言って、私たち全員を通してくれた。

ホッとしていると、シリウスがとんでもないことを言った。


「ここからは、馬車での異動になります。」



 でたー!異世界あるある。馬車きたー!

サスペンション開発してあるのかな?魔法補正あり?っていうか魔法ってあるのかな?乗り心地が気になる……。


いろいろ考えていたら、いつの間にか馬車が目の前に来ていた。


 馬車に乗り込む時、護衛騎士から差し出された手を、

取ろうとしたら、後ろから神官長に持ち上げられた。

お姫様みたいに、エスコートされたかったのに……。


「むぅ……」


 私を乗せた後、乗り込んできた神官長を、唇をとがらせて、睨んでいたら、先に車内に乗っていた副団長が笑みを浮かべていた。



「ユースお兄様ったら……独占したくて、しょうがないのね」



「ティア……だから、違うと……」



「クスクス……ねぇ、リンカ。私の事は、ティアと呼んでちょうだい」



「えぇ~っと……ティア、さ、ま?」



「ええ、花嫁と付き添いですもの……仲良くしましょうね」



「はい。ティア様」



 私たちのやり取りを、神官長は不機嫌そうに、黙って見ていた。

ティア様と親しくするのが、嫌なのだろうか?

 

 馬車には、私と、ティア様、神官長、メリルが乗り込み、私の隣には神官長が座り、対面にはティア様が座っていた。

メリルは神官長の向かい側、ティア様の隣に座っていた。


 シリウスと護衛騎士達は、軍馬だろうか?大きな馬に騎乗していた。

……馬上の騎士……萌える!!


 滑るように静かに動き出した馬車。流れる様な外の景色についつい、身を乗り出して見ようとしていたら、



「転げ落ちてしまうぞ。そんなに外が見たいのか?子供だな……」


 あぁ、手がかかる。しょうがない……とか、失礼な事を

言い出した神官長が、何を思ったか腰を引き寄せ、気付いたら膝に乗せられていた。


「こうしたら、外がよく見えるだろう?あぁ、暴れたら落ちるぞ」


……子供扱いにもほどがあるどう仕返してやろう?とか、考えていた。



「うふふふ……お兄様ったら……おかしすぎるわ、あはっ、は!」



ティア様、大爆笑ですね。楽しそうですね……


メリル、肩が震えてるよ。おかしいんだね?おかしいよね?


なに?この羞恥プレイ……何の嫌がらせ?


馬車の横を並走している騎士がギョッとした様な気がしたけど気のせい、気のせい……


馬車に乗ってから、十分ぐらいかな?まだ着かないのかな……


いつまで、膝の上にいなくちゃいけないの?重くないの?

このクッション、硬くて座り心地良くないよ……

外は良く見えるけど……


 がっちりホールドされていて、逃げられない……

 


「……『白の塔』まで、あとどれくらいかかるんです?」



 馬車は鬱蒼とした森に入っていた……


徒歩で出発したから、すぐ着くと思っていたのに、意外に遠いんだな。



「森に入ったから、もうすぐだ……塔は、森を抜けた先にある」



「ユースお兄様、リンカに説明されてないの?」



「説明しようにも、寝てしまって、出来なかったのだ」



「む……それは、神官長のお説教が長いから……クドクド、クドクド、重箱の隅をつつくみたいに……」



「わかる!わかるわリンカ!!ユース兄様のお小言って、長いのよ!!」



おぉう、同士がいたよ……


「そうそう、事細かにくどくど、くどくど……オカンか?って突っ込みたくなるわ!」



「おかん?……それってなんですの?」



「え、っと、オカン、っていうのは、お母さんの事だよ。

母親みたいに口うるさい、くどい、細かいっていう……」



「ぷぷぷ……やだ、もぅ、兄様が母親だなんて……あはは、あーはっはっはは」


お腹を抱え、涙目になりながらティア様は笑い続けていた。


「ぐっふぐぅ……ぐふっ……」


メリル……後ろを向いて隠していても、笑い声が漏れているよ。


「…………」



 不意に腰に回されていた神官長の腕の力が、抱きしめるように強くなった。

密着度が半端無い、首筋に熱い吐息がかかる……




「森を抜ける……もう、目に見えよう?」



 何も無かったかのように、平坦な声で神官長が言った。

私は神官長の腕の力が少し緩んだ隙に、体を離すと馬車の扉の窓に取り付くようにして外を見た。



「あれが……『白の塔』……」



 森を抜けた先には、周囲を森に囲まれた湖の中心に、

螺旋状に白く輝く大きな塔が、そびえ建っていた。




やっと、『白の塔』が登場です。

イメージは実在する螺旋状の塔です。

海ではないので、巻き貝とか、サザエ的な物ではないですよ。


次回は塔の中に入ります。

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