10.こんなテンプレはイラナイ
お風呂回パート2、あの人のターンです。
窓から差し込む月明りに目を覚ます……
どれぐらい寝ていたのだろう……
天井際の壁からは、非常灯程度の明かりが漏れ、薄暗い室内に眼が慣れてくると、下敷きになったのか、表紙が折れ曲がった本がベッドの上にあった。
ウエストバッグに本をしまうと、お風呂に入りたかった事を思い出した。
泡立たない石鹸はあったけど、シャンプーが無くて、頭を洗えなかったのだ。
この世界で初めて気が付いた時、石の床の上で寝ていたのだ。汚れていないわけがない……
着ていた上着のポケットを確認していた時、ドラッグストアで配っていた、トリートメントシャンプーの試供品がいくつも出てきた。
ズボラな性格も役に立つんだなぁ……そう思いながら一回分の試供品と、洗濯する下着を持って、お風呂に向かった。
今回はメリルもいないし、一人だからいいかぁ~
お風呂好きの日本人は、銭湯も温泉も裸で入るのだ。
湯帷子なんてやってられるか!
面倒なだけだろ?なんて言うヤツ出て来いヤァ~!
一人突っ込みしながら、身体を拭う厚手の布も持って裸で浴場に入った。
シャンプーで頭を洗い、身体と下着も洗い終えると湯船に浸かって、換気用の天窓から夜空を見ていた。
元の世界で見ていた月よりも、光り輝いている気がする。
大気汚染されていないから?空気が澄んでいるのかなぁ?
ゆっくり湯船に浸かって、ご機嫌な私は、歌詞に月が出てくる歌を英語で歌い始めた。
ロボットアニメのエンディングに使われていた曲だ。
♪ふ~んふ・ふ・ふ・ふ~ん……♪
一人でカラオケに行くほど、歌うのが好きな私は、その後も大好きな女性歌手の歌を日本語で歌っていた。
気持ちよく歌っていた曲の、間奏部分の時だった。
指でリズムを取りながら、ハミングしていると、背後から人の気配がして……
「む?……誰かおるのか?……」
この時、この場所で、会いたくはなかった人物が現れた。
「歌が聴こえたが……誰か?……」
「……」
何で??何で来るの?女湯じゃなかったの……?
コレは俗にいう、ラッキースケ……ってやつなの?
「誰だ……む?リンカ?……って、うわわぁ~!!」
入ってきたのは、神官長だった。
「チョット……何で男の神官長が悲鳴あげるのよ!逆じゃない?そんなに驚くなら、声かけて答えるの待ってれば
良かったじゃない。何で来ちゃうの?どうして悲鳴あげるの、おかしいでしょ?絶叫したいのは、私の方だよ!!」
一気にまくし立て、神官長に体を向けた私を見て、神官長は手で顔を覆っていた。
「ば……馬鹿者!!何故、湯帷子を着ておらぬ?は、はしたないではないか。恥じらいはないのか?ま……丸見えではないか!」
あ~そういえば、忘れてた……係長だし、まぁ、いっか?ってか、だったら見なきゃいいじゃんね?
「う~ん……うっかり……?」
「は、恥かしくないのか?それとも……誘惑しているのか?こ、子供とはいえ、異性に肌を見せるとは……」
「……肌を見せるって……お風呂だよ?」
十八だって言ったのに、また、子供って……だったら恥ずかしがらないでよ……
「私だったから、良かったものの……何かあったら、どうするのだ?見境の無い輩だとて、いるのだぞ……」
「何かって何よ!それより何で入って来てるのよ?誰も来ないと思ったのに……」
「馬鹿か?馬鹿なのか?だから、無防備に湯帷子も着ていないのか」
「お風呂は裸で入るんだよ?バカじゃないよ。馬鹿って言う方がバカなんだよ!!ばか!」
どうよ?漢字、カタカナ、ひらがな、全部使って、バカって言ってやったわよ……
「だいたいさぁ、神官長、私の事女だって思ってないじゃん?私だって神官長の事、男だなんて思ってないから!ひょろクンだし、顔色悪いし、神官だし、係長だし……」
「ほぅ……私は男ではないと?……」
不意に、それまで神官長が纏っていた、雰囲気が変わった。先程までは視線をそらし、リンカの事を見ない様にしていた神官長モナーフの目が、聖職者から獲物を前にした捕食者の様な眼にかわり、瞳の奥には静かな炎が揺らいでいるように、微かに情欲の色が浮かんだ……
「……」
やばい!!怒ってる、めちゃ怒ってる……激オコだよ!
「わ、私、もう上がるから……」
湯船から出て、逃げようとした私を神官長が捕らえると、
身体を拭おうとして、用意していた大きな厚手の布で包んだ。
「逃げるな……」
神官長は耳元で低く囁くと、グルグル巻き状態の私を、ギュッと抱きしめていた。
「私が男ではないと……これでも?」
そう言うと、右手で私の顎を持ち上げた……
おぉ~リアル顎クイ来たー
そんなことを思っていたら、神官長は凍り付きそうに冷たい目をして私を見つめていた。
「何も言えぬよう、その口を塞いでしまおうか……」
左手で頭の後ろを押さえ、頤を自分の顔に近づけていく……
「ちょ……!!」
顔が近い!近いよ!近すぎるよ!!
神官長ってば、本気なの?などと、焦ると思っている?
ふふふ……
「オタク、舐めんなぁ~!!天誅!!」
鈍い音がして神官長の顎に頭突きが決まった。
私を揶揄う為にエロるからだ。
冗談にしても?乙女の純情を踏みにじる行為は許せん!
「痛ぅ……」
神官長は顎を擦っていた。
私だって、頭がズキズキする。痛み分けだ……
「くっ……この……リ・ン・カ・ぁあ!……」
「あぅ……」
ヤバイ!係長めちゃ怒ってる……ミノムシ状態で、逃げられない……
「あ、ダメだ……詰んだ」
この後、私が寝落ちするまで簀巻きのまま、神官長による責め苦……お説教が続いたのでした。
それにしても、『きゃっきゃ、うふふ』なお風呂は無くて、『ラッキース○ベ』は、あるなんて……
こんなテンプレは要らない……
リンカは、恋愛経験値皆無の鈍い女子です。
大人の色気を感じ取るなんて、高度な技はありません。
次回は神官長にロリ疑惑が??




