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山荷葉せんぱいと凡人くん  作者: 成浅 シナ
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レベルアップ大作戦

「よし、じゃあ改めまして特訓始めようか!」


 土日を挟んだ次の月曜日、放課後、演劇部練習場所にて。

 練習開始時刻から三十分ほど遅刻してきた葉音(はのん)先輩は扉を開くや否や開口一番にそう宣言した。

すでにホールに来て発声練習まで終えた俺を含む他の部員一同『また部長が変なことを言い始めた』と思っているに違いない。

「またバカがバカなことを言い始めた。」

いや、思っているだけではなく実際に口に出した者もいた。

「柊!!バカって言う方がバカなんだよ!!」

「そういうことを言い出すとさらにバカっぽさが引き立つな。」

「キィィ~~~!!いいさ!いいさ!そのうちあたしを貶したこと後悔させてやるんだから!!」

「それで、特訓ってなんですの…じゃなかった…なんですか?」

いつものお嬢様口調になりかけ、すぐにハッとして上月(こうづき)は口調を改めた。


俺はまだ上月(こうづき)白百合(しらゆり)という少女のことを噂で聞いたことしか知らない。

 『演劇部』に入ってからも上月とは挨拶を交わすくらいでまともにはなかったから当然か…

 こいつがどうして普段お嬢様として振る舞っているのか、とか。


こいつの素はあの傲慢なお嬢様キャラの方ではなくこっちの方であるということは見ていれば分かる。

どうしてわざわざ『傲慢なお嬢様』という仮面を被っているのか…それは分からないが恐らく、俺みたいなほとんど関係が深くない他人が踏み込んではいけない事なのは直感的に分かった。


「『一花をレベルアップさせよう大作戦』?」

「なんで疑問形…」

 それにこの前言ってた作戦名と違うじゃないか!!

「レベルアップってなに言ってんだ、お前。」

柊先輩がジト目で葉音先輩を見る。

「とにかく特訓だよ!一花の!」

「お前、前にも同じようなこと言って色々やってたよな…桜ヶ岡をいろんなところに連れ出して。」

「色々って何をしたんですか?」

 俺がそう言うと柊先輩は過去のことを思い出すようにどこか遠くを見た。

「その頃は俺も色々振り回されたな…。もう卒業した先輩と葉音が一緒になって悪だくみしてな。…何されたか知りたい?」

「…いえ、遠慮します…」

 柊先輩の目を見てだいたい察した。察してしまった。絶対にろくなものじゃなかったんだろうな…

「もう!何を男二人でこそこそしてるのさ!!もしかしてもう出来てるのか!」

「んなわけねぇだろ!!」

「そうですよ先輩!誤解を招くようなことは言わないでください!!ほら!上月が思いっきり引いてるじゃないですか!!」

「もう!話が進まないじゃないか!!」

「お前の所為だろ!!」

「柊、今日怒りすぎ~。ビタミン足りてないんじゃないの?」

「それをいうならカルシウムだろ!このバカが!!」

「あー!!またバカって言った!!バカって言う方がバカなんだから!!」

「あのー…、そろそろ本題に戻りません?」

そこで遠慮がちに上月が割って入る。

そこでようやく柊先輩は我に返ったようだ。

「あ…、悪いな一年。ついこのバカに乗せられて…」

『バカ』呼ばわりされた葉音先輩は再び抗議の声を上げたが柊先輩は無視を決め込む。

「それで?どういうことなんだ?」

「桜ヶ岡先輩の人見知りを直そうということらしいです。恐らく葉音先輩はそのための方法を提案してほしいって言いたいんだと思います。」

 このまま葉音先輩に説明させても先ほどと同じ流れが繰り返されそうだったので俺が代わりに答える。

「やっぱりそういうことか…でも去年結局色々試して無理だったじゃないか。」

「同学年が無理なら後輩くんだよ!後輩は可愛く見えるって言うし!!」

「そんな主観的な考えが桜ヶ岡に通じるか!」

「そ…そんな…新高君…それはひどいよぉ…」

 桜ヶ岡先輩は少し離れた位置にある机に身を隠しながら小さな声を出す。

「じゃあ、どうするんだ?」

「わ…私だって今回は…今回こそ本気なんだから!もう…二年生だし今年中に頑張る…!」

 桜ヶ岡先輩は足を震わせながらも立ち上がりそう宣言した。

 そのやる気に圧倒されたのか新高先輩は言葉を詰まらせた。

「お、おう。桜ヶ岡がそんなにやる気なら俺は別に構わないけど。」

「でも、具体的にはどうするんですか?」

「そうだな……あ、そうだ。…おいバカ。」

新高先輩は何かをひらめいたようで葉音先輩に視線を向ける。

「なに…って思わず返事しちゃった!いやー、こっち見て言うもんだからついね~。別にあたしのことじゃないのにさー。」

「いや、お前のことだから。」

「えぇぇ!ちょっ!その呼び方はないよ、ない!!先生に言われなかった?自分がされて嫌なことは他人にしてはいけないって…」

「お前去年なんか変なメモ作ってなかったか?ほら、…佳木先輩と作ってたやつ。」

佳木先輩というのは去年卒業したという演劇部だった人だろうか…

「あー!あれね、ちょっと待って!確かまだ携帯のメモ欄に残ってたはず!」

 そう言い先輩は鞄の中から携帯を取り出し操作し始める。

 少し経ってようやく目的のメモを見つけたようでその内容を読み始める。

「えーっと、まずは『ステップ一:会話する』……だって!」

「案外まともなんですね。葉音先輩のことですからもっととんでもないものが来るかと思っていました。」

 上月は俺と同じ感想を抱いたようで以外そうに声を上げる。

 まあ、俺も以外には思ったけど…わざわざ声に出しては言わない。

 上月は結構好奇心が強い…というか怖いもの知らずなのかもな…


「あたしは元々まともだよ!真面目だし優等生なんだよ!勉強だって出来るんだから!」

「ああもう!話が進まない!もういいから早速それやれ!!も講演も近いから部活の時間以外でやれよ。せっかく演劇部に入ってくれたのに部活の時間をすべてそれに使うのは一年がかわいそうだ。桜ヶ岡もそれでいいよな?」

「は…はひ…らいじょうぶでしゅ…」

 顔を赤らめて噛みながらも先輩は何とか声に出す。

「じゃあ、もう結構時間も経ってるしさっさと練習始めるか。今日は部室に残ってる今までに使った脚本の中でよさそうなのを持ってきたから配るぞー。」

 そして柊先輩は葉音先輩のことは無視したままで鞄の中から取り出したA4のプリント用紙を配り始める。

 配られたプリントに目を向ける。

 一番上には少し大きな字でタイトルが書かれていた。

『俺の異世界ハーレム議事録』。


 柊先輩…タイトルだけで判断するのは良くないってことは分かっているけど初めて読む脚本がこれなのはどうかと…

「柊先輩…、ちなみにどうしてこれにしたんですか?」

上月が顔を引きつらせながら脚本に目を落とす。

「え…?なんでって言われても…なんかこのタイトルを見た瞬間ビビッと来たからってだけだよ。大丈夫。読んだけどただの青春ものだったから。」

 青春もの……

どうやらこの演劇部には俺と気が合いそうな人がいたらしい。

なんかラノベのタイトルでありそうだし…


「じゃあ、読むぞー。」

 配役を決め、読み始める。

 


 感想。登場人物たちの感情がすごく伝わってくる感動作でした。

やはりタイトルだけでその物語の印象を決めつけるのは良くないことを改めて実感した。

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