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山荷葉せんぱいと凡人くん  作者: 成浅 シナ
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出会いとの再会

正門を出て少し歩いたところにある明吹大学の敷地に足を踏み入れる。

大学の敷地に入ってまずその広さに驚いた。

大学に来るのはこれが初めて。四、五階ほどの建物が立ち並び、私服姿の学生が楽しそうに談笑しながら歩く。


その中で当然ブレザーの制服姿の俺は浮いていた。

「どうしよ…完全にアウェーだ……」

大学独特の雰囲気に圧倒されつつも何とか奥に進み正面にあった案内図を覗き込む。

入学式の日に配布された部活動の紹介が載っている冊子によると演劇部の練習場所は大学の敷地内にある三号館という建物の中にあるホールだと書かれていた。

「えーと…三号館は…っと……」

細かく書かれた丁寧すぎる案内図を細かく見る。

「んー…どこだ?」

「キミ、どうしたの?迷子?」

「うおぉ!」

突然後ろから誰かの声が聞こえ思わず飛び上がる。

そして慌てて振り向くと大人びた雰囲気の一人の少女が立っていた。

服装はジャージ、背中にはリュックサック、長い髪は一つに束ねられ、フレームの細い眼鏡をかけている。背は俺より少し低いくらい。大学生だろうか。

「そんなに驚くなんて、もう、傷ついちゃうなー。」

「す…すみません!別に怪しいものじゃ……」

「え?あー…、いやいや、別にキミのことを怪しんでるわけじゃないよ。キミ明コーの生徒でしょ?明コーの部活動のいくつかは大学の敷地でやってるし。その雰囲気から察するに見学かな?どこの部活?」

「あ…、えと…俺…じゃなくて僕『演劇部』の入部希望なんですけど…三号館ってどこですか…?」

そう言うと大学生は驚きに目を見開いたあと何事もなかったかのように微笑んだ。

「そっか、実はあたしもちょうど三号館に行くところだったんだ。ついでだし案内しようか?」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「いえいえ~、こちらこそありがとうね。」

「…?」

なんでお礼?

「いやいや、こっちの話。そういえばキミの名前は?」

「は、はい。由真ゆま朝陽あさひです。」

「了解。あ、あたしは鈴暮すずくれ葉音はのんね。よろしくー。」

「はい!よろしくお願いします!!」

ヤバい!!異性と話をするのが久しぶりすぎて声が裏返った!絶対変な奴だと思われた!

だがそん俺の考えは杞憂だったようだ。大学生…鈴暮葉音はリュックサックを背負い直した。

「じゃあ、行こうか。朝陽くん。」

「は、はい!」

また声が裏返らないように返事をし葉音さんについていく。

すると数歩歩いたところで葉音さんは立ち止まった。

どうしたんだろうか?何か言い残したことがあるとかかな?

「よし、着いたよ。」

「は?」

思わず素っ頓狂な声を上げる。着いたって……

葉音さんが見上げている建物を見る。そこには白い机が並んでいた。入口に張られていた名前が書かれた看板を見る。『なごみ食堂』。

あー、学食か。んー…?

名前が書かれた看板の隣にはもう一つの看板が…

『三号館』。

ここかよ!?まさかこんなに近くにあったとは……

視線を再び葉音さんの方に戻すとすでに葉音さんはその場にいなかった。慌てて辺りを見回すと三号館の横の方に向かって歩いて行くのが見える。

見失わないようにと走って葉音さんに追いつく。

「置いていくなんてひどいです!」

「あははは、ごめんね。あまりにも呆けているもんだから。それにあたし実はちょこっと急いでてねー。」

「あ、そうなんですか…」

それは悪いことをしたなー…

葉音さんに導かれて三号館の横にあった階段を降りていく。

どうやらホールは地下にあるようだ。

そしてその先にあるガラスの扉を開け中に入ると左側に先ほどとは別の上へと繋がる階段、そして右側には重い雰囲気のする扉があった。

葉音さんはその扉の傍に歩み寄り扉に手をかけるといたずらっぽく笑いながら振り返った。

「ようこそ、演劇部へ。歓迎するよ。新人くん。」

「…え…?」

どういうこと?

だが、その言葉の意味を理解するよりも早く葉音さんは扉を開け広げた。


          ❁


葉音さんに続いてホールの中に足を踏み入れる。

何人も座れるほどの長机、折り畳み式の椅子がホール内に階段状に敷き詰められ、下に降りた先には小さなステージがあった。

さすが大学。高校とは雰囲気がかなり違う。

この場所は元々演劇をする場所ではなく、授業や演習を行う場所なのだろう。

眺めていると端の方の席に俺と同じ高校の制服に身を包んだ三人の少女と一人の少年が座っているのが見えた。

その中の一人に目を奪われる。俺が一目ぼれした相手、桜ヶ岡一花先輩に。


そんな俺をよそに葉音さんは五人の元に歩み寄る。

「いやー、ごめんね!ちょっと遅くなっちゃって。」

軽く葉音さんは言う。

すると一団の中にいた男子生徒が不服そうに声を上げた。

「おい、ちょっとじゃないから。もう部活始まってから三十分くらい経つし。お前が来ないから今日の活動なかなか始められなかったんだぞ。」

「だからゴメンってば。ていうかあたしがいなくても始めっちゃっていいのにー。」

「お前、昨日は今後のことについて話があるからって言ってなかったっけ?」

「ふん、過去のことをいつまでも気にしてちゃダメなんだよ!いつも過去を超えることをしないと!」

「なにバカなこと言ってんだ。…で?後ろの子は?」

そう言い男子生徒は俺に目を向ける。

葉音さんはふふんと得意そうに笑いその豊かな胸を反らした。

「聞いて驚け!なんと!我が部の新入部員くんだぁ!!」

え…?ちょっと待て。全然二人の話についていけない。


葉音さんは混乱したままの俺の方に向き直る。

「では!改めまして。ようこそ!演劇部へ!歓迎するよ、由真朝陽くん!あたしは演劇部部長の鈴暮すずくれ葉音はのん!二年二組!」

「え!!?えーーー!!部長!?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「言ってませんよ!俺てっきり大学生だと…」

「あはは、ごめんごめん。じゃあ、続いて自己紹介いってみようか!はい、そこ!」

そう言い葉音さん――先輩は先ほどやり取りをしていた男子生徒を指さした。

指を指された男子生徒は露骨に嫌そうな顔をした。

「えー…、ここで自己紹介かよ。まずは説明とか色々することがあるだろうに…。まあ、いいや。えーと…自己紹介ね…。俺は二年の新高にいたかしゅう。副部長を務めている。」

葉音先輩とは対照的に随分と落ち着いた雰囲気の先輩だ。

少し茶色がかかった髪。柔らかく微笑んだ眼。すごく優しそうな印象だ。


新高先輩の自己紹介が不満だったのか葉音先輩は不服そうな声を上げた。

「えー、それだけ?つまんなーい!」

「急だったんだから仕方ないだろ!」

「まあ、いいや。じゃあ次行ってみよー!」

葉音先輩の言葉を聞き、少し大人しそうな印象の女子生徒が立ち上がった。

「では、次は私が。えと、一年三組、上月こうづき白百合しらゆりです。」

「え…上月…白百合って…まさかあのお嬢様ぁ!?」

入学してすぐに学年中で噂になった上月白百合。

商業界では有名な上月グループの一人娘。いわゆるお嬢様。

だが、目の前の彼女は噂に聞いていたこととだいぶ印象が違う。

噂によると上月白百合という女子生徒は典型的なお嬢様キャラ。成績優秀、スポーツ万能、その上なんでも出来る優等生。

性格は穏やかで入学早々ファンクラブが出来るほどの人気。告白もしょっちゅうらしい。

クラスが離れているし、俺は好きな人に夢中だったからわざわざ他のやつみたいにクラスまで直接見に行くこともなかったから会ったことはなかったけれど。


その上月白百合はというと急に出した俺の大声にビクッと身をすくませる。

「わ、悪い!驚かせるつもりはなくって…」

「いいんです。大丈夫…ですから。」

そう言い上月は微笑んだ。


そして、葉音先輩に促されある一点に視線が行く。桜ヶ岡先輩の方へ。

だが、先輩はビクッと体をすくませて慌てて椅子から下り距離を取った。そして机の陰に身を隠す。

「……えーっと、まあ、こうなることは予想してたけどね。おーい、一花?せっかく入ってくれるんだしちゃんと自己紹介しなきゃダメだよ~。」

「うぅ…でも、葉音ちゃん……」

桜ヶ岡先輩のその言動に俺は違和感を覚えた。

ステージの上で演じていたときとは印象ががらりと変わっている。


桜ヶ岡先輩はそのまま何分か呻いた後ようやく決心したのか口を開いた。

「…あ…の…わ…私…桜ヶ岡…一…花です……よ、よろしく…」

「…………」

え…どういうこと?

あの日ステージの上で見た先輩と目の前にいる先輩の姿が重ならない。

あの堂々とした先輩はどこへやら、今目の前にいる先輩は生まれたての小鹿のように涙目でぶるぶると震えている。しかもここからじゃ机に隠れて顔の全体を見ることは出来ない。

あまりの出来事に戸惑っていると慌てたように葉音先輩が声を出した。

「まあまあ!じゃあ、最後!」

そう言い最後に残った女子生徒の方を向く。その生徒は一人だけ高校指定の物ではないジャージに身を包んでいた。よく見るとこの間のステージに立っていたことを思い出す。

その女子生徒はけだるそうに机に顎を乗せたままで目だけこちらに向けた。

「んー…、赤城あかぎ千雪ちゆきだ。一応ここの顧問だが、この通りやる気はないから適当によろしくー。」

「えぇ!!顧問!?」

「なんだよ、何か文句あんのか?」

「いや、そうではなくてですね…この前ステージに立ってましたし…それに随分この前と雰囲気が違うので…」

そう言うと先生ではなく葉音先輩が代わりに答える。

「先生は高校のときここの演劇部のスターだったんだよ!『演劇部の舞姫』なんて二つ名もあったくらいすごいんだから!あたしも前の演劇部の講演の映像を見てもう何度も感動したんだ!」

「まあ、昔の話だ。褒めるな褒めるな。」

赤城先生はのんびりと言う。

「よし!じゃあ自己紹介は終わったね!改め、改めましてようこそ!演劇部へ!これからよろしくね、朝陽くん!じゃあ、人数も既定の人数に達したし!今日から講演に向けて張りきってこー!!」

「え?ちょっと待ってください葉音先輩!?それってどういう……」

「あれ?言ってなかったっけ?うちの演劇部はね、キミが入る前…つまりついさっきまでは同好会扱いだったんだよね。部活するには最低五人必要だし。講演も出れなかった。だから、ここから始めるんだよ!我が明吹大学付属高等学校演劇部の活動を!歴史を作るんだよ!!おー!」

「「「お、おー…」」」

自己紹介の後すぐにそのまま寝てしまった赤城先生と机に隠れたままの桜ヶ岡先輩を除く俺、上月、新高先輩の声が交差する。


こうして俺の演劇部ライフが幕を上げたのだ。

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