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茫漠のジッキン=ゲン  作者: 大柄 仁
出会い
6/50

この話には、マックス・ブルックス『ゾンビサバイバルガイド』に出てくる言葉があります。


ゾンビという者に限らず、非常事態の時にとても大切な言葉だと思いました。


意外とこの本、真理を射ているのだろうか?(笑)



 甲歴2020年。



 スナジリア島の海底には《ルアーク》という電力用及び通信用の伝送路である当時の最先端技術を用いて作られた海底ケーブルが埋設されている。

これにより、本土と隔絶されたこの島にもタイムラグを生まずに情報が伝わるようになっている、いやなっていたのだ。


 というのも17年前に突如やってきた六縁機が一角“古肚”の暴走により海底ケーブル《ルアーク》が『寸断』、本土と島を繋ぐ唯一のラインである大橋も崩落していまい、外からも内からも手が出せず、食糧支援も大橋や島の復旧もできない状態になってしまっている。


 “外からも内からも”

 

 というのは当初は通りがかりの船やヘリに助けを求め、支援や救難を頼み、怪我人や病人を何とかしようと考えたのだが“防衛命令下にある”古肚が縁機たりえるその威力を持って次々と島に至る全ての移動体を敵性認識し、攻撃してくるのだ。


 ゆえにボートを用いた病人の脱出も不可能となった。

 

 だが不運はまだ続く。

 17年前の《ルアーク》断絶に伴い、EMPにも似た特殊なパルス状の電磁波が発生し、島の電子機器がオンラインの物からオフラインの物、有線、無線に限らず全てが、腕時計でさえ一度シャットアウトした。

 その後は貯蔵されていた予備電源で復旧したものもあるが、その中には島を巡回する機械兵フレッチャーも含まれていたのだ。


 巡回する機械兵は元々戦場で使われていたものを拠点防衛に流用したものであり、その性質上電磁パルスへの復旧システムもきちんと組み込まれている。


 そのシステムの構造はというと、復旧後はそう難しい命令を遂行することが困難であるからして以下のような単純明快な命令で出来上がっている。



『とりあえず目につく敵性体は全部攻撃しちまえ。できるならヤっちまえ。お前の指揮官が止めろって言うまでそれ続けとけ』である。

 


 かくして、機械兵たちは島民をすべからく敵性として認識し、襲うようになったのだ。

 幸い巡回ルート、ポイントはこちらでほぼ把握していたため、そこまで被害は出てはいないし、死人も出てはいないが非常に困っている。できるならやめてほしい。


 以上のことからまず古肚をなんとかしなければならないのだが、そのためには生半可な応援ではダメだ。軍への要請が必要だろう。

 

 では我々がしなければならないのは通信を担う海底ケーブルの修理であろう。


 しかし海底ケーブル敷設船もない状況ではそれもできないため、とりあえず我々は何か修理に使えそうな物を探さなくてはならない。


 だからこそ、キエロー=初目は4,5人の男たちに混じって部品探索に出ているのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 朝の9時を回っている。

 初目は8月の朝にはちょうど良い服装である。ただ……。

 初目は探索にはおおよそ不向きな恰好であった。


 金色のロングヘアをポニーテールで結んではいるが、その服装はというと黄色のノースリーブに黒のミニスカート、黒のジャケットと革製のショートブーツというものであり、まるで蜂を思わせる姿だ。右耳には波多野からもらったピアスを開けている。これを開けた時は林寺が“娘が不良になっちまった気分だ!”と大騒ぎしたことを今でも覚えている。波多野に食い掛かっていたっけ……。

 

 初目はいわゆる貧乳という類のものであり、胸の起伏に対して異常なこだわりを持っている。


 グラマラスな体型を持つ波多野に対して面と向かえばそこはかとない敗北感を感じずにはいられなかったりするのだ。

 ただ彼女にもいわゆるニッチなファンは少なからず存在する。


 彼女のスカートからすらりと伸びた美脚がそれを物語る。それに加えて鋭い目つきでありながらどこか愛らしい小動物を思わせる四白眼とこれまた根強い人気を持つ八重歯というトレードマークが彼女の価値をどんどんコアな方向に向かわせているようだ。

 

 だがしかし、彼女が現在両手で抱えている物体は彼女の華奢な印象から遠くかけ離れた物であった。


「おい、初目。探知機に何か反応は出たか?」


 林寺が初目に尋ねる。初目が抱えているゴツイ掃除機を思わせる機械は元々は駿河海軍の開発したレーダー波探知装置(ESM装置)を無理くりに機械兵などが放つ電磁波を拾う電波探信儀に改造したものだ。


「ううん。まだ何も…… そっちは?」

「からっきしだよ!」

 周りにいる他の男も同じ様子である。

「機械兵の残骸でも出ればねえ。ケーブルの復旧も早まるんだけど…… 」

「そんなこと言いながらもう17年だぞ? いいかげん俺たちも突破口を開かにゃならん」

「わかってるって」


 そのように危機感を煽る林寺ではあるが、彼自身の風貌が短髪黒髪に無精髭、咥え煙草に着崩した薄汚れの藍のスーツ姿といった格好であり、妙にその言葉に説得力を感じた。


 基本は寡黙な性格なのだが、どこか飄々としながらも計算高く、常に相手の一歩先をゆく“食えない男”というのが林寺に対する島民全員の共通認識である。


 だが最近は少し焦りの表情も見せる時がある。

 

 島に閉じ込められ、外界との接触、支援が困難になったこの島で17年もの間初目たちが生存できたのは、ひとえに幸運であったとしか言いようがない。


 この島では毒ガスの研究以外に、他にも細菌兵器やウィルス兵器も研究・開発されていたらしいのだ。 緊急避難マニュアルなる物も発見された。その内容では研究段階にある細菌兵器やウィルス兵器の研究について言及されていた(重要な部分は黒塗りされていたらしい)。


 記載されていた『ソラリス・ウィルス』という研究記録の症状にはゾンビ化に近いものもあり、島民は「自軍や敵軍の遺体をゾンビ化させて軍隊を作ろうとしたのでは?」と疑っているようだ。


 序文には、「“生存”こそが心に留めておくべきキーワードである。“勝利”や“征服”ではなく、“生き残ること”が最も尊いのだ」「グールの出現において、奴らは捕食者ではない。奴らは単に疫病であり、人類はその罹患者である」という旨の訓戒が書かれていたという(これは今の我々に通ずる言葉でもあると初目は思う)。


 かくしてこれらの事実から島には秘密裏に本土や島で生物兵器のパンデミック状態を想定した避難経路や拠点施設などの機能が備わっており、菜園や太陽光発電設備、高度な浄水施設など、災害時に機能するライフラインをおおよそ備えてはいたのだ。


 皮肉にもこれらの施設があったおかげで初目たちは今日までなんとか食い繋いで来れた。

 ただやはり何事にも限界はあるらしく、林寺たちの見立てではこれらの施設もあと3年ほどで使えなくなるという。

 もしそうなれば間違いなく自分たちは終わりだと初目は確信していた。

 


 初目は少し怖くなった。自分たちにゆっくりと、しかし確実に死は近づいてきているのだ。



“生存”こそが心に留めておくべきキーワードである。“勝利”や“征服”ではなく、“生き残ること”が最も尊いのだ。


うん、確かに。

人間が見落としやすいものかも。

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