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茫漠のジッキン=ゲン  作者: 大柄 仁
収束
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44



 瓦礫の中に埋もれている中で目を覚ました。外から轟音は聞こえてこない。

麓孫はただただ困惑した。何が起こった? なぜ自分は今まで気を失っていた? 爆発…… そうだ! 古肚の話が始まったと同時に頭上で爆発…… 崩落が起きてそれに巻き込まれて…… そうだ古肚は!? 


 自身に乗りかかる瓦礫を除けた麓孫はそこで驚く。


「これは……」


【伍煙草】の煙が麓孫に覆いかぶさり、彼を護っていたのだ。おかげで麓孫の被害は最小限で済んだ事になる。


「古肚ッ! どこだ!! クソッ…… ジーンッ!」


『伍番機の生体反応を検索中…… スクリーンに映します』


「あそこかッ!!」


麓孫は視界に映し出されたサーモグラフィー映像から古肚の位置を割り出し、その場へと急行した。感知できる彼奴のバイタルは弱い。というよりもこれでは……。


「古肚ッ!」


被さる幾つもの瓦礫を除けたその下に古肚はいた。四肢は砕かれ、貫かれ、潰され、あらぬ方向に向いていたりする。応急処置も施せないほどに凄惨な状態である。


「なぜッ!? 自分の身を護らなかった!? くそッ!! どうすればッ!! 死ぬなッ!! 古肚、目を開けろ!!」


 ダメだッ!! こんな、こんな最後なんてッ!! まだお前には話さないといけない事がッ!! たくさんあるッ! 山ほどあるんだッ! なのに、なのに……。


必死に声をかけ続けるが応答が全くない。だが、その時だった……。


『上脳よ。伍番機からあなたへデータの送信情報があります』


「なに? なんだそれは…… こっちに送ってくれ」


『これは…… メッセージはないですが、添付されているファイルがあります。開きますか?』


「あぁ。頼む」


『少々お待ちを…… プロテクトがかけられているのでそれを剥がすのに時間がかかります』


 しばし静寂の時が流れる。麓孫は膝をついたそのすぐ傍で横たわる惨たらしい古肚の顔を何とはなく眺めた。ただただ虚しい感情が残った。


『ファイルが開けました』


「こっちにまわしてくれ」


 そう言うとさっそくジッキン=ゲンから送られてきた添付情報を視界スクリーンに広げた。


「これは……」


 それは本来、六縁機たる者がその生涯を持って守り通し、外部に漏らす事は決して許されない機密だった。


「【伍煙草】の上脳権限の完全移譲情報体だと? まさかこれは……」


『古肚殿があなたに【伍煙草】の指揮権を移したということですね』


 麓孫はもう一度横たわる古肚の顔を見る。目を閉じ、血だらけのボロ雑巾のように地に伏すかつての仲間が最後に自分を護り、その力を自分に預けた。


 麓孫は彼と初めて出会った時のことを思い出していた。士官学校の放課後、夕暮れに沈む教室に呼ばれた自分は戸を開き、中を覗くと窓際の席に座し、目が合うとそのまま自身の隣の席に座るよう目配せをした。腰を下ろした麓孫に対し、なんの脈絡もなく彼奴はこう尋ねた……。



『煙草と鷹の共通点は何だと思う?』



 よくわからない奴だ…… そんな、今思えば目上に対してあまりにも失礼な感想を持った事が今でも昨日のように感じる事ができる。


 だが、今の自分なら…… お前の真実を知ってしまった自分なら…… お前の苦しみを知ってしまった自分なら分かる。これまで何かに縛られ、何かの奴隷であり続け、命令と自身の意思の間でエラーを起こし、最後は自分が死ぬために麓孫に戦いを挑んだ古肚が放ついつもの問いかけに麓孫は静かに答える。



「どちらも空を昇るものだ…… どちらも何にも支配されず、束縛されずに空を泳ぐものだ……」



 もう目を開けることのない古肚に送った麓孫の言葉はどこへも届かず、ただ空に昇っていった。

 国に利用され、仲間を手にかけ、最後には周りの者全てを巻き込み、ある一人の男の盛大な『自殺』はここに完了したのだった。





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