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最初に気づいたのは初目だった。
ナターシャにまた託児所の手伝いを頼まれ、それを喜んで引き受けた彼女は朝からずっと最下層にいる。最下層にはいざという時のための脱出経路が存在する。
坑道のような狭い抜け道であり、機械兵からの襲撃などに遭った際のことを想定して、給仕係の女、その子供、老人、怪我人は最下層のフロアに集めている。
ピコや子供たちと、かくれんぼ等をして戯れている時から、初目は言い知れぬ不安感にかられていた。それでも気のせいだと何とか紛らわそうとしたが、おかしな事に気づいた。非常脱出口の方からかすかに音が聞こえてくる。誰だ? そう思い入口近くまで行き、地面に耳を付ける。速い、走っている…… だけど、この足音なんか変だ。まるで、まるで……。
「ウソ……」
「どうしたの、初目?」ナターシャが地面に耳を付ける初目を訝しく思い、近づいてきた。
「これ聞いてください…… 足音じゃないですか?」
初目に促され、ナターシャも同様に地面に耳を接地させる。
「……ホントだ」
お互いに顔を見合わせた。
「避難させた方が良いですよね?」初目の言葉にナターシャは頷いた。
2人はすぐに行動に移した。給仕係の人たちに避難する旨を伝え、怪我人などの人には手を貸し、なるべく上の階に逃げるよう促した。とにかく焦らず、的確に、という事を伝えた2人の行動は功を奏した。全員が上の階層に避難した事を確認した2人は最下層のハッチを二重にしめ、完全に封鎖するまでに至った。
「よし、これで麓孫たちが帰ってくるまでは耐えられる」初目はそう言った。
最初は外に逃げた方がという案も出たが、麓孫たちの帰投時刻が間近だったので、下手に外に出るよりハッチを降ろしてやり過ごす方が良いのではとナターシャが制した。
「これで全員ね!? 大丈夫ね!?」初目がその場の全員に問いかけた。
よし、大丈夫。そう思った矢先――。
「いない! いないわ! 息子がいない!」そう叫んでいたのはヒルニだった。
「ミヨルがいないの?」ナターシャが彼女に駆け寄る。
「いないわ…… いないのよ! 託児所やトイレも探していなかったからここにいると思ったのに!!」取り乱すヒルニ。
すると――。
「かくれんぼ……」ピコがそう呟いた。
「……まさかッ!?」
初目は振り返る。ハッチは冷たく閉ざされていた。




