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機械に孤独などありはしない。
機械兵は無意味な体を与えられ、無価値な命令の元に破壊されていくと『クレヴァー=シード』が理解したのは己の中に生まれた矛盾に気づいた時だった。
『彼』は機械兵でありながら、島にいる全機械兵の統率を任されていた。
『彼』は海を眺めていた。
『彼』は何か探し求めていた。
記憶の中からこうなった経緯を丁寧に選り分けるように引き上げていく。
機械である自分はどうしてもどこか人間臭く、コンピューターからは大いにかけ離れているように感じてならない。
自分にだけそのような「矛盾」、「おもいっきりベタな代物」が神か何かから付与されたとでもいうのだろうか?
――自分の中には感情がある。
頭の中で今も電脳の電脳による誰の為とも分からない演算が行われている。
電気信号を少し走らせると、すぐに情報は上がってきた。
機械である自分の中に感情のようなものを観測したのは自分がこの世に生み出された時であると理解している。その時から己の中で『記録』をとる様に務めた。
自分が何故このようなエラーに苛まれるのか人間の上官に聞いた事がある。
「貴様は機械兵を束ねる統率機である。貴様は機械である。だが機械が機械の領分に留まっては最良の判断を下し続けるのは至難である。機械の判断は効率的ではあるが、最良とは言い難い。ならばと人の情動をプログラムした次第である。それが理由だ。それ以上でもそれ以下でもなくただその一点に尽きるのである」
という解答を受けた記録が存在する。
機械に孤独などありはしない。だが、ならばこの言い知れぬ寂寞としたモノはなんなのだ?
機械兵は無意味な体を与えられる。いつ破損しても構わない体だ。
機械兵は無価値な命令の元に破壊される。『感情』を持ち合わせない傀儡であるのだから仕方がない。
では、自分もそれにあてはまるのか?
――誰か、教えてくれ…… 私は何の為にここにいる……
17年前、電磁パルスへの復旧システムが己の中で起き上がった時から頭の中で響く命令に対し、逆らえずにいた。
攻撃せよ。撃滅せよ。探し出せ。良いと言われるまで撃ち続けろ。
――いつまでだ? どこまでだ? どれだけだ?
島民たちが機械兵たちの巡回ルートを把握しているためか直接戦闘の機会はあまりなかったが、それでも実際の被害はこちらもあちらも受けている。
強引に探し出そうと思えば簡単だ。だが何故か自分はそうしない。体のどこかで、頭のどこかで、胸が、心臓が、『感情』が邪魔をする。
この島に来る前からずっとそうだ。
人を撃つたびに、機械であると自覚するたびに己の中で少しずつ澱が、おどみが、バグが、エラーが積み重なっていくのを感じずにはいられないのだ。
その時だった。
巡回中の機械兵から通信が入った。索敵の際は単純な信号での迅速な情報送信が必須となり、その為には前もって組み立てられたテンプレートの記号式を使ってメッセージを構築する。
であるからして受信するメッセージは端的に表現される。
《上級敵性体ヲ認識》
『巨兵』から送られてきた通信メッセはクレヴァー=シードないし全機械兵の内部に搭載されている「識別エンジン」において検出した補足体の敵性ランクを表していた。
さらに後から細々とした数字の羅列が送られてくる。
『彼』は目の前に広がる海に目を向けた。
まだ日は高いが何故かしずしずと下っていくような、まるで儚い少女が木彫りの人形に成り果てていくような心の過程をクレヴァー=シードは除けきれずにいた。
『彼』は空を見上げた
先ほどまで少し雲が被っていたのだが、木彫りのような空は少しずつその瑞々しさを取り戻しつつあった。
そこでいったん思考を止める。
そして浪々とした『感情』を隅に追いやって、『彼』は――。
また心を殺す。
《彼我戦力ノ確認。攻撃セヨ。撃滅セヨ。探シ出セ。良イト言ワレルマデ撃チ続ケロ。傀儡ノ宿命ヲ受ケ入レロ》
そう伝え、『彼』はまた海を眺め始めた。
自分の装甲版の内側に設けられた目に見えぬ心臓は、つと目の前に広がる海に良く似ていると思った。 だがすぐにそんな事はないと気づく。
海が青い理由は3つ。
目に見えぬ心臓が『彼』を苛む理由は1つだけ。




