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茫漠のジッキン=ゲン  作者: 大柄 仁
出会い
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 マントが言葉を喋る――。



『この穴を調べるのはあまりお勧めできません。ミス・キエロー』

「……」


『制止をするには完全に機会を逸してしまいましたがどうかご理解を。ミス・キエロー』

「……」


『自立判断に少しタイムラグが生まれているせいで立ち上がりに時間がかかってしまい注意喚起も行うことが出来ませんでした。申し訳ない。しかし今からでもあの滑車を止めて……』

「んンなぁにもんじゃああああああいィィィィィィいいッッッッ!!!!」


 初目は叫んだ。布きれはあるはずもない眉をひそめた。



 断言できる――。

 私は決して疲れている訳ではなく、夢見がちな少女観を拗らせているという訳でもない。


 男所帯のそれも根っからの男女(初目はこれが本当に気に食わないのだが)と揶揄されてきた初目が、こうも不躾でユーモアもへったくれない状況にあるのは、きっと自分が寝ている間にUFOか何かが放射能やマイクロ波を浴びせかけたからに違いないと彼女は思った。

 でなければ生まれてまだ十数年ぽっちの――、しかも、そんじょそこらの少女と比べたらクリエイティブ性やらオシャレ感やらは群を抜いて欠けているであろうこの自分の頭がこうも煤けたファンタジーを繰り広げるのはどうしたっておかしいのだ。


『名を聞かれていると解釈しても……? 』

「存在を聞いていると解釈してもらいたいのだが!!!!」


『お待ちを…… 人類の真理に触れる質問なので少々時間をいただいても……』

「そいうことじゃなくってッッッ!!!!」


『ではどういうことで? ミス・キエロー』

「なんで…… 私の名前を知ってるのよ……」


『先ほど話されていた男性の声帯や鎖骨から舌骨にかけての筋肉の動きなどから「初目」に続くフレーズを予測しました。誤りはございませんか?』

「……まあ正解だけど。それで?」


『……?』

「……」


 混乱という言葉がこの状況に最も似つかわしいだろう。


 初目は息を深く吸うと、まず自身の金髪をかき上げようと思ったのだが、ポニーテールで結わえ付けていた事に気づいたので、スイッチを入れるように舌打ちを敢行し、自身の頭髪を傷つけぬようまるで筆で丁寧に線を引くかのようにポニーテールを解いた。


 髪をかき上げた。しかもそんじょそこらのかき上げとは訳が違う。混迷、混乱渦巻くこの現場において今なお戦い続ける己の現実的思考が火を噴いた結果であると断言する。


 これは敗北だ。哲学的かつ幻想的敗北をここに宣言する。


 つまり……。簡単に言うと――。


「あなたが何者なのか、なぜマントが喋るのか、なぜ私たちを止めようとするのか、それだけを言ってく・だ・さ・いッッッてんだッッ!!!!」


 小粋口調に舌を走らせる今の初目には17歳にもかかわらず放蕩無類上等だといった酒呑みの風勢が何故かあった。





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