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茫漠のジッキン=ゲン  作者: 大柄 仁
出会い
1/50

プロローグA

エスケヱプ・スピヰド、鋼の錬金術師、エヴァ、ジブリetc. の影響を多分に受けております。


そんな未熟な作者が書いた話、広い心と、優しい目で読んでやってください。


最後にこのページにお越しくださったこと、心より感謝いたします。

 


 母は私を産んだ時に死んだ。



 中東にあるランという地域のスラム街で母は娼婦として生活し、苦しい毎日を送っていたという。その話を聞いた時に無学な私は林寺に“スラムガイってなに?”と聞き返した。


 林寺は夜中の皆が寝静まって羽虫一匹いない無音の部屋の虚空に煙草の煙を吐きながら“生活するのが大変なところの事だよ”と言ったことをなぜかコクメイに覚えている。

 彼が話してくれる今は亡き母がそこでどんな経験をし、どんな体験のもとで自分を守る術を身に着けたのかは知るよすがもない訳だが、確かに言えるのは私を愛していたということくらいだ。私の知る母の姿は全て林寺から聞いたことに過ぎない。


 私の中に母との思い出などないのだ。それが悲しいと思った事はないし、島の皆との思い出が私を温めてくれる。


 それに……。


 私がランという国ではなく、なぜ極東の島国である駿河八甲国のそれも南部に位置するこんな辺境の島で生活しているのかというのもふと思うことがある。

 島のてっぺんにポツンと佇む工場跡地がどうも気に入らない。小馬鹿にされている気分だ。


 私がここにいるのはなぜなのだろう。


 母は故郷で駿河出身の男性と出会い、その男との間に私を妊娠した。

 性的サービスを提供することによって必死に金銭を得る女性が世間からは「淫売婦」「醜業婦」と罵られ、蔑まれながらそれでも生きるためにヨガり、体と心をすり減らす。

 そうでなければ、そうしなければ彼女たちは『生きてそこにいる事すら』許してはもらえないのだ。


 そんな人間が身籠るということがどれだけの覚悟のもとで決断されたかなど尋常な思考ではその片鱗すら垣間見ることはできないであろう。

 私が顔も声も知らない母に心から感謝し、一寸の思い出もないその人物から愛の実感を得ることができるのはそんな母の覚悟が一種の“証明”として明確にあるからだ。だからこそやるせない。悔しい。



 ある日、父と呼ぶことすら憚れるその男は母とお腹の中の私を置いて行方をくらました。



 その時の母の悲痛な表情はありありと想像がついた。一体どれだけの距離を歩き回り、探し回ったのだろう。

 一体どれだけの涙を流し、どれだけ名前を叫んだのだろう。靴は履いていたのか、まさか裸足で歩き回ったりしていなかっただろうか。だとしたら彼女の足は小石と割れた酒瓶の破片を踏み、血だらけになっていたことだろう。

 

 ただその時の林寺は彼女から聞いた話に対して特別な思いが湧くことはなかったという。


 なぜならあの時代は、戦争が利益と爪痕を無尽蔵に生み出していたあの時代はそれが当たり前だったからだ。

 誰も彼もがどこぞの人間の寝首をかくための腹芸を己に仕込み、人と人の絆が希薄となっていた。

 信じる心が、労わる心が、愛する心が遠く、薄弱になっていたのだ。

 

 男もそうだった。母との関係に快楽と悦以外を求めていなかったのだろう。

 

 母はまだ膨れていないお腹の中に確かな我が娘の息吹を感じながら、スラムの奥まった場所にある民家に姿を消した。

 急造のテントや小屋の間をすり抜けてたどり着いたその民家は現地マフィアお抱えの闇医者が不揃いの医療器具に囲まれて違法な手術をする場所でもあった。

 母が言うには闇医者の救命率はそれほどに高くないということだ。手術時に人員が不足することが多く、また医療器具も最新のものではないためである。

 それでも母は自分と娘の命をその医者に、いや裏切られたその男に賭けたのだ。

 

 母は自分の腎臓を担保に駿河八甲国への渡航費をねん出した、と聞いた。

 

 私はその話を聞いて、少し、少しだけ、嬉しかった……。

 

 男の事は許せない。当然だ。この思いがおかしい事というのもわかっている。

 この事から見ると先ほど述べた“確かに言えるのは私を愛していたということ”という言葉に矛盾が生じるという事も。

 

 だが私のために死に、私を妊娠する前は『ただ生きるために』生きてきたであろう母がその一瞬、そのひと時だけは自分の願いのために生きようとしたのだから。

 そこまで他人を、他者を、人間を愛することができたのだと思うと少しだけ救われた気持ちになる。

 

 それがたとえ依存心だったとしても。


 キエロー=初目は金色のロングヘアをたなびかせ、自分のコンプレックスである四白眼を伏し目がちにし、唇をキッと結んだ。彼女のトレードマークである八重歯は今では隠れている。

 彼女は振り返ると廃墟と化した建物の中に姿を消した。

 

 ここはスナジリア島。

 

 駿河八甲国南部のステイン諸島の一つであり、エリアライン521地区(広島県に相当)に所属する有人島。

 

 終戦までこの島では軍によって秘密裏に毒ガスが製造されており、島のてっぺんには工場の跡地がまだ未使用の毒ガスと共に、静かに、眠るように佇んでいる。


読んでいただきありがとうございます。


駄文につき、理解しにくいところあると思いますが、何卒。


これからも精進します。


最後にこのページにお越しくださり、さらには最後の1文まで読んでくださった方々に、改めて感謝いたします。

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