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俺に出来ること

「…えーと、メイの気持ちはわかった。でもね、さっきも言った通り、ポーションを使ったのは俺がそうしたかったからしただけなんだよ。例え高価なものだったとしても、そこは変わらない。もし、メイが気になるなら、助けた事は無かった事にしてもいい。俺がその辺のドブにでもポーションを捨てたと思ってくれたらいい。あ、ドブは無いか。…まぁだから、メイ。君が気にする事はないよ。ましてやそれで一生を捨てるような事をされる方が俺は辛い。」


これだけ言っておけばわかってくれるだろう。

メイだって、いきなり狼に襲われて、いきなり助けられて、いきなり高額な借金を背負いこんだと思って混乱しているに違いない。それもこんな得体の知れないバケモノにだ。あぁ、…自分でいうと無性に悲しいな。

まあ、それは置いといて。

…だから、借金も無く、助けられた事も無かった事にすればいいと言われたらチャンスだと思うだろう。自由に生活が送れるのだから。

俺がそう考えていると、予想だにしない反応が返ってきた。


「そんなっ!そんなこと…。わたしがヴィヴィさまに助けていただいた事はまぎれもない事実です…!それを無かった事にして生きていくなど…できるはずが無いです!それに…そのようにやさしいヴィヴィさまだからこそ…善意でしていただいた事がわかるからこそ、お仕えしたいと思うのです。…でも、なにも出来ないわたしでは…ヴィヴィさまのお邪魔です…よね…」


…何故そうなる。せっかく自由になれる道が存在するというのに、何故自ら進んで仕えたいとか言うんだろう。

メイには奴隷願望でもあるんだろうかと思ったところであらぬ方向に思考が行きそうになったので必死で戻す。

俺ならばこれ幸いとトンズラするぞ。

数百年前の武士なら仕えたいとかいう気持ちが分かったのかも知れないが、こちとら21世紀に生きてる現代人だ。

人に一生仕えたいなんて思考は全く理解出来ない。

まあ、確かに五百万円の治療費を無償で支払ってくれた人が居たとしたら俺だってとても感謝するだろう。なにをしてでもその人の恩義に報いたいとは思う。

そう考えるとメイの気持ちも分からなくはないか。それでも一生は御免だが。

ともあれ、まだ俺はポーションの価値を正確に判断してはいなかったのだろうな。理解はしていても、こんな馴染みの無い、トンデモアイテムを使ったところで五百万円が飛んでいるなんて感覚にはならない。それは俺が地に足つけて働いた金で購入したものでは無いから仕方ないのかも知れないが、些か認識を改めるとしよう。


…それにしても、なにも出来ないわたしではお邪魔ですよね…か

自分が無力だという事をよほど悔いているんだろうな。

ここで俺が、そうだ、邪魔だ。と言うと諦めさせるのは簡単だろう。

しかし、それを言ってしまうとメイ(この子)は果たして立ち直れるだろうか。最悪自害。なんて事にもなりかねない気がする。俺の国だって数百年前はそういう場面で武士が切腹していただろうし。

近年の日本じゃご近所付き合いも無くなって、他人に無関心だと社会問題になっているが、出会った初日で恩義を感じて一生仕えますっていうのも問題なんじゃなかろうか。


…これがこの世界の社会問題では無い事を祈るばかりだ。

まぁ、言われる側としたら決して嫌な気はし無いが、些か、いやかなりか。ヘヴィだ。


それに、なにも出来ないと言うメイに対して、今は無理でも目的を見つければなにか出来るようになると言ったのは俺だ。そんなメイに対して決して本心では無くとも、なにも出来ないお前は邪魔だから連れていけないなどという事は俺には赦されない。

ならばどうするか。と自問したところで思い付いた。


「邪魔では無いさ。…でもね、メイ。君の村はどうするんだ?」


あまり考えないようにしていたのか、俺が尋ねるとメイは悪戯がばれた子どものようにビクッと肩を動かした。


「…わたしは、村を捨てて逃げました。狼に襲われた時、両親が身を挺して逃がしてくれたんです。…必死に狼と闘っていた村の人たちを、両親を置いて…逃げたんです。そんなわたしがっ…村には…もう、戻れま…せん。ですから…ヴィヴィさま、の…」


だんだんと息が上がり、声が震え、涙が浮かんだメイから出た言葉は、最後まで紡がれる事は無かった。


「そうか…なら俺はメイを連れていってあげるよ。」


そう言った俺に、メイは目を大きく見開き、驚きと歓喜の表情を浮かべた。

そんなメイを余所に俺は言葉を続ける。


「でもね、メイは…メイのお父さんと、お母さんのお墓を作ってあげたくはない?」


「ッ……でも…」


一瞬で喜びの表情が一転し、迷いを浮かべる。

残酷な事をしているなと思う。でも、もう少し…


「このままじゃあメイは二度と自分の村には戻れなくなる。俺がこのままメイを連れて行くことは出来るけど、でも、それじゃあメイは本当になにも出来ない子になってしまうよ。…見たくないものに目を瞑って忘れたつもりになっても、決して忘れる事なんて出来ないんだ。それは大人になればなるほど重くなってくる。…狼に村を襲われ、両親を殺されたばかりのメイには酷かもしれないけど、そうなる前に村での出来事に決着をつけに行くべきだと思う。」


本当に…人の事だからこんな事が言えるんだ…。俺は何様のつもりなんだろうかと自分自身に憤りを覚える。…でも、他人だからこそ、客観的に見れることもある。俺はメイに後悔して欲しくない。今ならまだ傷が浅い内になんとかなると思った。


「………はい…。」


いろいろ言いたい事があっただろうが、それ以上なにも言う事はなく、メイは俺の言葉に同意した。

…本当にメイはいいコだ…。俺がこのぐらいの時はこんなに物事を深く考えて、こんな決断を下せただろうか。


「うん。それでいい。偉そうだけど、…俺はそう思う。」

「……よし!じゃあ、これからの予定を立てよう!」


突然変わった雰囲気にメイは首をかしげる。


「俺はメイを村に送り届けた後は村の復興を手伝う。そうだな…元どおりとは行かなくても、ある程度生活出来るようになるまで二、三ヶ月程は掛かるだろう。その間にいろいろ知りたい。この世界の事、常識や生活、魔物のこと。しかし、そうなると住むところが要る。俺に知識を教えてくれる人間も必要だ。さて、困ったな、俺の希望としては可愛くて、知的で、尚且つ俺の事を怖がらない人間がいいのだが…」


そこで俺は言葉を区切り、ぽかんと此方を見ているメイに目配せする。


「…ッ!!!!!!!!!!!!」

「はいッ!わたしが適任だと思います!」


元気良く挙手をして俺に答えたメイは出会ってから一番いい笑顔だった。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



…すべての出来事に決着がついて、なお、メイが俺に付いてくると言うのなら、その時は喜んでメイを連れて行こう。俺はそう心に決めた。

以下後書きです。


今回のお話はキリが良い所までにさせて頂いたので、少し短い字数になります。すみません。

本当なら第7話「ポーション」に入れてしまう予定でしたが、それだと長くなりそうでしたので、この様な形になりました。

第9話ではまた普段通りの分量になるかと思います。

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