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頭の中に響いてきた声に従い、俺は能力(スキル)の使用を許可した。

使用能力(スキル)は《大爪狼の右腕リッパーウルブズアーム

なにが出るかはこれから使ってみるしかない。

すると、俺の右腕が酷く熱を帯び、一度ドクンと脈動したかと思うと、狼のボス、ミギーと同じように巨大な鎌を備え付けた大腕へと変化した。違いがあるとしたら、ミギーのゴワゴワとした毛並みに比べ、黒々と艶があり、立派な毛並みで、腕も少し細身だろうか。バランスが悪い程大きな事には違い無いが、丸太のような武骨な腕ではなく、スポーツなどで鍛えたようなシュッとした引き締まりがある。何より特筆すべきは鎌の様な大爪で、どんなモノでも切り裂いてしまえそうな妖しさがあった。


右腕が変化したのと同時に、噛み付いていた狼も簡単に離れた。本能が警戒しているのだろう、今まで牙を剥いていた狼共もミギーの近くへ寄っている。

それでもミギーだけはボスの矜持か、絶対の自信があるのか平然と此方を窺いながら、タイミングを見計らっている様だ。

ほんの数巡の間、お互いに牽制しあう様な空気が流れたが、最初に動いたのはやはりミギーだった。

以前にも見せたゼロスピードからの加速。一気に距離を詰めると同時に右前脚を大きくしならせて、力を込める。それはこの一撃で凡てが終わる事を確信しているかのように、余りにも捨て身で諸刃の攻撃だった。その力は自身でさえ耐えきれず、筋繊維がぶちぶち千切れる音が此方まで聴こえてくる。あんな攻撃を喰らったら正真正銘人生がそこで終わるだろう。

その間、俺はミギーを見つめながら立っていた。余計な力は入れず、自然体で。


俺は能力(スキル)部分変身(コピー)》で《大爪狼の右腕リッパーウルブズアーム》を出した時から使用出来る専用能力(スキル)がわかっていた。それは酸素を吸って身体に送り込むように自然で当たり前に出来る事なのだと脳から情報が流れてくる。今の俺だとそのスキルは1日三回が上限(リミット)だ。

それでも問題はない。何故か必ず勝てるという確信があり、酷く落ち着いている。


では迎え撃とうかと思った瞬間、

ミギーは空中で軌道を変えた。ミギー自身何故かわからず驚いている様に見えたが、本能が警鐘を最大限に鳴らしていたのだ。理性より本能に従う。ミギーは幾度となくそれで窮地を脱してきた。

だから今回もヤバいと感じた時には軌道を変えていた。にも関わらず、ミギーにとっては非常に不可解な結果となった。


専用能力(スキル)切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー


その効果は絶対切断。

勿論レベル依存の為、その字面ほど万能能力なんかでは決してない。それでも効果のあるモノに対しては恐ろしい力を発揮する。そんな能力(スキル)がミギーの上に降りかかった。


其れは一瞬。

俺が能力(スキル)を唱え終わった時にはミギーも事切れていた。回避は無意味であった。


風切り音のようなシュッとした些細な音が聞こえた時には空中で鮮血が噴き出していた。

裂けた腹からは臓物が飛び散り、ビチャビチャと湿った音と共に地面に落ちてくる。狼の体温は40℃と高い。其れに準じて、この狼のような魔物も高いのだろう。噎せ返るような血の濃い臭いが立ち込め、湯気が立ち上る。

だんだん地面に血の水溜りが広がっていく。生々しい血と臓物と糞尿の臭い。

脳から直接流れてくる能力(スキル)の情報でこういう結果になる事は理解していた筈なのに、それとは別に心の感情の部分が拒絶反応を起こす。

思わず俺は膝をついていた。


「うっ…おぇぇっ…おぇぇぇえ…」

ビチャビチャっと胃液のようなものが辛うじて口から出てきた。なんとも言えないエグみと嫌な酸味とが口の中を支配する。


生き物をこの手で殺したのは初めてだ。

五感の悉くがこの生き物が死んでいる事を伝えてくる。


周りを見渡すと事切れたミギー以外の狼が怯え、遠巻きに俺を見てくる。


気分は最悪だ。他の狼も殺すか?と思ったけど、今は俺も生き物を殺したく無い。向かって来ないのであれば放っておきたかった。


兎も角、なんとか生き残った…生きてた…。


「疲れた…」


思わず声を出して呟いた俺に、また脳内であの声が響く。


___________________


変身(メタモルフォーゼ)》が発動されました。

条件が満たされましたので、

大爪狼(リッパーウルフ)》がコピーされました。

大爪狼(リッパーウルフ)》使用時、《部分変身(コピー)

大爪狼の右腕リッパーウルブズアーム》が併用可能です。


大爪狼(リッパーウルフ)》を使用しますか?

YES/NO


___________________


これはさっきの狼に変身出来るって事だろうか。

とりあえず今は必要を感じないので頭の中でNOと答えておく。

するとまた、同じ声が響いてくる。


___________________


レベルアップしました。ステータスが変化します。


[種族:ドッペルゲンガー]→[種族:ハイ・ドッペルゲンガー]


[Lv.1]→[Lv.17]


[HP 7/35]→[HP 2135/2135]


[MP 32/47]→[MP 3450/3450]


[P-AT 29]→[P-AT 1280]


[M-AT 38]→[M-AT 2645]


[DF 34]→[DF 1810]


上位耐性が解放されました。


[物理耐性Ⅲ]→[物理耐性Ⅴ]

[状態異常耐性Ⅴ]→[状態異常耐性Ⅶ]


新規耐性を獲得しました。


[魔法耐性Ⅲ]

[水耐性Ⅴ]

[炎弱体Ⅱ]

[土耐性Ⅰ]

[聖弱体Ⅳ]

[闇耐性Ⅶ]


___________________


うーん。

やっぱりステータスってあったのか、とか。

ステータスの上昇率異常だろ、とか。

耐性の事とか。

色々言いたい事はいっぱいあるけど、先ずはこれを言いたい。


「…ドッペルゲンガーってなに。」


いや、なんとなくはわかる。アレでしょ?自分とソックリになるってやつ。そこじゃなくてさ。


俺って人間じゃあなかったの…?


なんでそんな事になってるんだろう。

色々と確認する事、調べる事が多すぎて頭がおかしくなってくる。

兎に角、一旦総て保留にする。これだけの事が起きて、目の前に生々しい屍体がある時点で、ここは現実だと思うようにしたのに、ステータスだとか、レベルアップだとか言われてしまうとやっぱりゲームなんじゃないかと思ってしまう自分がいる。ここで考えたって堂々巡りだ。


先ず一番にする優先事項は女の子の安否の確認だ。

ここに居る狼以外にもいる可能性は充分ある。

折角ミギーを倒したのに、女の子は食べられてましたじゃ後味が悪すぎる。


よし、急いで戻るか。


歩こうと思った矢先、俺は目の前のミギーだった屍体を見つめた。

生き物を理由無く殺すのはやっぱり抵抗がある。

いや、襲って来たのはコイツらなんだから、理由ならなんとでもつけられる。正当防衛や、経験値稼ぎ、女の子を助ける為。

それでも、自分が殺した生き物をどうにか無駄にしたくない、そのまま放っておきたくないって思うのは只の偽善でしかないだろうな。

でも、それでもやっぱり自分自身と折り合いをつけていく為に、俺は偽善を選ぶ。でなければ、これからも生き物を殺していくだろう俺はきっと耐えられなくなる。


だから。

俺は目の前のミギーの屍体にそっと手を合わせた。


数秒の後、腰のボロ袋に手を伸ばした。


無限(インフィニティ)胃袋(ストマック)


確か、非生物ならばなんでも収容出来る魔法袋(マジックバッグ)だった筈だ。

この場で解体出来れば良かったけど、そんな余裕はない。こんな巨大な屍体が入るのか分からないけど、とりあえず試してみる。駄目なら女の子を助けてからまた戻って来よう。

そう思いながらボロ袋の口を開けると、収納するかどうかの問いかけがあったので、収納すると念じてみた。

すると目の前にあった巨大な屍体は跡形もなく消えてしまった。

その場に残る血だまりだけがミギーの屍体があった事を示している。


すると目の前に。


___________________


無限(インフィニティ)胃袋(ストマック)


大爪狼(リッパーウルフ)の屍体×1


収納しました。


___________________


とタブが表示された。


「…凄いなほんとに四◯元ポケットだ」


俺は半ば呆れながらも上手くいった事に安堵した。

ステータスの数値は暫定としてお読みください。

スキル名なども微調整する可能性があります。

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