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無意識的異世界転移

知らない番号から電話が掛かってくることってあるだろ?

俗にいう迷惑電話ってヤツ。

まあ、全部が全部そうじゃないのは分かってるけど、少なくとも知らない番号から掛かってきたら俺は取らない。信用出来ないしな。

その考え方は間違ってなかったんだと思う。いや、人によっては間違いか。


まあ、ひとつ言えるのは、迷惑電話は取るな。それか覚悟して取れってこと。俺みたいになる。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


さっきからオレ、オレ言ってる俺は芸術大学でファッションデザインを専攻している田辺一郎。

現在一人暮らしで22歳。彼女は…まぁ、それはいいか。察してくれ。

昔から絵を描く事も物を作る事も好きで、気がついたらアクセサリーや、服に興味を持っていた。そんな俺が自分でブランドを作り、店を持ちたいという夢を抱くのに、そう時間は掛からなかった。

服を作る時の素材では革が特に好きだ。あのなんとも言えないタンニンの匂い、ツヤ、種類によるバリエーションなど、言い出したらキリがない。友人からはよく、「一郎は革を見るだけで勃起しよる」と下品な冗談を言われる。

とても心外だ。少しばかり興奮するだけなのに。


おっと、どうやらその友人、島崎がやって来たようだ。

あ、名前は覚えなくても良いよ。彼は単なるモブだからね。


「一郎〜やっと授業終わったわ〜ほんま、パターンの授業だけはなんとかならんかな〜アタマ痛い…」

わざわざ関西から関東の大学に来たっていうのに四年経ってもそのコテコテの関西弁には頭が下がる。


「島崎は苦手だもんな」

「あぁ、縫製は割と得意やねんけどなぁ、パターンだけはアカンわ」


〜♫〜♫

「ん、一郎スマホなっとるぞ」


島崎に言われてスマホを確認した俺はげんなりする。

「あぁ、またこの番号か…」


「なんや、出んのか?」

「知らない番号なんだよ。最近やたらと同じとこから掛かってくる」


「? そんなら着信拒否したらええやん」


まあ、そう考えるよな。俺もそう考えた。

「んーやってるんだけど、普通に掛かってくるんだ」

「なんやそれ…こわッ…」

「まぁええわ。今日はゼミの藤田教授の送別会やからな。忘れず来いよ」


話題を変えてくれるのは素直にありがたい。俺も普通に怖いからな。最近は馴れてきて、どうという事も感じないが、着信拒否しても掛かってくる電話に暫くは脅えていたものだ。


「あぁ、覚えてるよ。確か19時だったよな」


「そうそう、覚えとるならええねん。じゃまた後でな!」

そんな感じで俺は島崎と別れて大学構内で時間を潰しながら送別会へ向った。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ゼミ生諸氏には幾度となく助けられ、教えられてきた!教授とは言え、ただ一辺倒に教えを授けて来た訳ではない。皆もそれを良く理解し、支えてくれていたように思う。我が藤田ゼミは相互理解、相互補助に努めた。その精神を決して忘れず、宝としてゼミ生諸氏には今後とも活躍していって頂きたい。」


「「「ヒュ〜!!!パチパチパチ!!」」」

「いよっ!藤田教授!!」

「あはははははは」


そんな演説が行われていたのは大学にほど近い、ゼミ生行きつけの小じんまりとした居酒屋だ。女将さんの作る煮付けがとても美味く、一人暮らしの学生には恋しい味なのだろう人気が高い。今日は藤田ゼミで貸切となっている。

これも何度目だろうか。俺の記憶が定かなら、4、5回は同じ演説を繰り返していたように思う。まぁ、俺も今日は文字通り酒を浴びながら呑んでいたので、俺の定かな記憶などアテにならない。もしかすると10回20回と演説をしていたのかもしれない。


「おぅ、一郎!呑んどるな」

そんな状態の俺の所へ島崎がやってきた。さっきの藤田教授への合いの手もコイツだろう。


「島崎は相変わらずウワバミだな…」


「ん?そうか。お前もフツーに強いやんけ?今日は相当呑んどるやろ?」


「そう、俺は"普通"に強いだけだ。お前のは異常だ…」


「そうか」

そんな問答も何処吹く風で島崎はへらへら笑っている。


「あ〜そうだ、丁度いい…俺、明日早朝バイトなんだよ。電話で起こしてくれ。流石にこれだけ呑んでたら起きれる自信がない…今日はこの後も朝まで呑んでるんだろ?」


「あぁ、教授も楽しんどるみたいやし、このまま二次会やろうな。電話したんのはええけど、一郎はこのまま帰んのか?」


本当ならばもう少し呑んで喋っていたいと思うが、そろそろ時間も日をまたぎかけている。それに、もう既に呑み過ぎだ。

「そうだな…俺はそろそろ帰らせて貰うよ。確実に明日は二日酔いでバイトだろうな…」


考えただけで憂鬱になってくる。お酒を呑む人なら首を縦に振って貰えると思うが、二日酔いほど辛いものはない。酷い頭痛に吐いても吐いても(おさま)らない吐き気。二度とアルコールなんか飲むものかと思うが、2日後にはまた飲んでしまう。不思議だ。


「はは…そんならバイト行く前に迎い酒してから行けばええ!」


「うっ…吐くからやめろ…」

コイツなら平気でやりそうだ。本格的に気分が悪くなりそうなので、島崎との会話を皮切りに席を立った俺は藤田教授へ挨拶して(演説と同じような内容の話をされた。)店を後にした。

今思えば後にも先にも無いほど俺は酔っていた。

それはもう見事な千鳥足で、舞台で披露すれば文化勲章確実だったろう華麗な足運びで一人暮らしのアパートへと這々の態で帰宅した。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


〜♫〜♫

スマホが鳴っている。

昨夜あれだけ呑んだから、ちゃんと起きれるように最大音量だ。

至近距離で着信音が鳴り、脳味噌内の水分が音の波でシェイクされ、頭蓋骨内で反射、増幅されていくような感覚に割れるように酷い頭痛が襲ってくるが、起きなければいけない。覚醒状態には程遠く、条件反射に近い状態で電話に出る。


「…も…しもし…島崎…?」


「あ、わたくし狭間の調停者(アーカシャ・レコード)と申します!ようやく出て頂けましたね!」

なにか言っていた気がするが酷い頭痛と耳鳴りの所為でよく聴こえない。


「…い…ま何時…だ?」

「はい。田辺一郎様の世界基準、天の川銀河太陽系地球日本国日本標準時に於いて03:52分です。」


俺は自分で時刻を訪ねた事はなんとなく自覚がある。でも島崎が言った時間が何時なのか全く分からなかった。きっとアルコールと眠気の所為だ。そんな俺に島崎は続ける。


「一郎様には異なる世界へ行き、世界を改変し、救って頂きたいのです。もちろん、一郎様はご自身の好きな事をし、思うようにして頂くだけで結構です。それが一番良い結果に繋がると狭間の調停者(アーカシャ・レコード)は考えております。」


「…ぅ…え、と…バイト…5時か…」

なにかして欲しいと言うような意味の事を言っている気がするが、今日はバイトだ。朦朧とした霞のような思考でもバイトがある事だけは覚えていた。


「そちらもご安心ください!異世界へ行かれた後は事象の改変で存在しない事になりますので、バイトもありません!」

「…あぁ…バイト休み…なの…」

そうか、バイト無くなったのか。それならまだ寝ていられる。辛うじて残る意識もすべてバイトの事に支配されている。それ以外の言葉は何も記憶に入って来なかった。


「はい!それでは行って頂けますでしょうか!」

「ん…あぁわかった…じゃあもうちょ…寝…る…」

とりあえず今はまだ寝かせて欲しい。ガンガンガンガン頭を強打する様な頭痛は酷くなる一方だ。


「ありがとうございます!バックアップは充分にさせて頂きます。最も強い肉体を持つ種族へと転生、異世界でのお役立ちアイテムの数々など楽しみにしていて下さい!あ、但し、世界にとって異物と認定されない為に、基礎値、レベルなどは初期値となる事をご了承ください!それでは行ってらっしゃいませー!!」


こうして、俺はあって無いような意識を完全に手放した。

無論、起きた時には欠片も覚えていなかった。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


…もう一度言おうか。迷惑電話は取るな。それか、覚悟して取れってこと。…俺みたいになる。

主人公の無意識転移ですので、この後事態を把握するまで少々時間が掛かりますが、お付き合い頂ければと思います。



事象の改変で存在しない事になりますので、バイトもありません!

いいですよね。少し羨ましいです。

鬼畜ですが。


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