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忘れておいてあげようとする脇役

「……今のは」

 くらりと立ちくらみがしたので、こめかみを抑える。血の気が一気に引いて、心臓がばくばくと激しく打ち鳴らしていた。


 セピア色の風景が一瞬揺らいだ気がした。



「判ったわ、名前があるなら何でも良いんでしょう? ならディヴィットよ。此処では正しい名前は必要ない。物語さえ持っていれば、名前なんて登場人物を分ける記号でしかないわ。貴方も私も沢山名前があるし、ちょっとくらい違ってもいいわよね?」


 もっと――もっとディヴィットという奴には正しい名前があるんだと言外に態度に出ていたスクルドだが、偉そうで、不愉快なオレは尋ねる気になれなかった。



「しばらくはここで遊んでいなさい。時間が大嫌いになった頃に現れるわ」

「なぜ? おい、琥珀はどうなっているんだ、元に戻せ!」

「私が消えれば戻るわ、それじゃあね。私の本当の名前を呼んでは駄目よ、私はアリス。


貴方にとっての――王で法律」


 瞬きをすれば、世界はセピア色ではなくて、現実的な色味もある。

 匂いもあるし、音も僅かながら復活している。

 何もかもが鮮明になって、オレは少し安心した。

 琥珀が動いていて、俺を見つめると訝しげに目を細めた。

 何となくスクルド――いや、アリスの存在は教えないほうがいいのだと思った。



「琥珀……」

「誰と話しました?」


 直球に琥珀は問うてきた、オレはぎくっと身を固め、動けなくなって俯く。

 まっすぐと琥珀を見る行為ができない。オレはね、まだ覚悟ができてないのかな。


「まだ言うべき時ではない」

「言えないんですか。ロワ……何も悪い行為はしてないですね? 世間に顔向けできないような真似はしていないんですよね?」

「うん」


 これはディースを救うためだ。

 ディースを救うために時間を遡って改変しようとしているだけだ。

 他の誰かが「お前は罪深い」と言おうと、ディースを生き長らえさせたいんだ。

 オレが頷くと、琥珀は渋々頷いた。自分の顎を細長い指で撫でながら、じっと見つめてきた。


「君が正しいと思うのなら、それで満足です」

「聞かないのか?」

「――私のような脇役ってね、いちいち忘れるんですよ」


 忘れて見なかった出来事にしてやると、口にしているような物だった。

 さぁ、親しみを込めて、ディースの未来に繋がる物を探そう。

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