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金色の生け贄

 何も――何も「変化」を決して感じない空間。オレとスクルド以外は、髪の一本やつま先の色ひとつでさえ、何も変わらない。

 オレは小首傾げて、琥珀に触れた。


 琥珀は心が温かくなるような笑みなのに、体温も何もないから。何かを感じるという行為ができない空間なのか、一気に不安感が溢れてくる。



「琥珀? 琥珀、死んだのか?」

「その紳士なお兄さんは、生きてるわ。ただ時間を止めたの。貴方とお話したかったから」

「琥珀を元に戻せ」



 腹の底から絶対零度を連想する、冷たい声が出た。

 嗚呼、オレも怒ったり警戒したりする行為ができるんだなって、少し安心した。

 しかし、スクルドには通じないらしい。



「ルールよ、貴方は覚えるべきだから教えるわ。貴方は時間と敵対しているわ。いい? 時間はもうお友達じゃないの、貴方の敵なの。どうしてか判る?」

「――……未来を変えようとしているから?」

「いいえ、そんな未来は微々たる問題ではないわ。というか、既に時間を怒らせてしまっているのよね、貴方は。貴方が……ディース、いいえ、田鎖頼を選んでしまったから。頼もまたこの屋敷より、貴方やレプリカに、名無し達を選んだ」

「……名無し? レプリカ?」

「レプリカはリカオンというのかしら、確か。名無しは、この屋敷では名前すら持たない雑魚。何者にもなれない名無しだわ、いてもいなくてもいい存在」



 歌に喉を震わせる鳥のような、軽やかな声色でスクルドは笑う。

 羽毛より軽やかな穏やかな笑顔で、名無しを何とも思っていない旨を伝える。

 名無しは、何もできない。名無しは形のないものだと口にしているのだろう、なぜかオレは胸が痛かった。



「――そんな風に言うな」

「そんな風? 極めて親愛的よ。皆はあの子に物語を無理矢理つけて、可哀想だったもの。そんな行為したって、いつか自分が何者でもないって夢から醒めるのに」

「名前を、名前をつけるんだ」



 オレの声は、スクルドとは違う意味合いで、震えていた。

 恐怖、何かが脳裏を過ぎる温度、夢では覚えられない熱を感じる。


 嗚呼、金色の――金色の生け贄が泣き叫ぶ、名前を寄越せと。


 赤いスクリーンの中で、金髪の――青年の後ろ姿は、天井に吼えて狂気的に笑っている。

 自分以外弱い人はいないって悲しみで、震えている。

 哀しい震えに、リカオン達が手を差しのばす光景が浮かんだ。

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