何をどうしたいか声にしよう
リカオンの家で留守番をしていた。
リカオンは今日のご飯は、カレーライスにすると張り切っていた。
オレの好きなチーズを入れるんだと、わくわくしていたようだった。だけどオレはどうしてもあの凄惨な笑顔だったリカオンが、忘れられなくてもやもやしていた。
留守番していると呼び鈴が鳴って、オレはどうすればいいのか悩んだ。
オレの見目では、留守番だと言っても怪しまれそうだ。オレの見目が普通じゃないのは判っている。
悩んでいると、「俺だ」と頼の声がして、オレは慌てて開けた。
「迎えにきた、祖父さんが五月蠅くて。何より、色々ばーさんから聞いただろ? 俺に聞きたい話が幾つかある筈だ、ばーさんは答えられなくて俺が答えられる話とかな。俺は過去のお前の話を寝物語にしてきた奴だぜ? 何だって答えられる――何百回以上も聞いてきた」
「頼……」
頼を頼るのは気が引けた。だって、頼だってディースに死んで欲しいと願う一人なんだろうし。
けれど、頼の眼差しには「何かが違う」と書いてあった。リカオンの前だからこその返答だったんだと、堂々としてる態度が物言っていた。
後ろめたい物など何一つ無いし、悪い行いだってしてない。態度が示していた。
俺は両手を握り拳にして、頼を見上げた。
「過去に何があったんだ? どうしてディースもリカオンも、俺を失いたくないと主張するんだ?」
「ノン――……違うなァ、アンタが聞きたいことってそれじゃないだろ? 俺の用意してる答も違う。アンタはどうしたいか、もう決まっているんだろ?」
「頼は邪魔しないのか?」
「邪魔するためにわざわざ迎えに来るほど暇だと思うか? 俺はいつだって、弱い奴の味方だ――自分を選びたいのに、自分を選べない勇気のない奴のな」
頼はオレに瞳で問うてくる、
どうしたいんだ選べ、さぁ選べと。
自分から言葉にして頼ってこいと瞳が言外に見える、嗚呼頼の瞳が、オレの意志を固める手伝いをしてくれる。
頼。頼ると書いて頼。その名の通り、頼りたくなる人だ。不思議だ、思えば初めて見たときからオレは頼とずっと話すのを夢見ていて――今こうして助けて貰っている。
頼がディースの死を願うわけがない。
「オレの目で真実が見たい」
「それはつまり?」
「ディースにあんな最期を迎えて欲しくないとオレは願う」
「それが運命だとしても?」
「……そんなのは何もしない奴の言い訳だ」
オレが言い切って頼の瞳をじっと見上げていると、首が痛くなるくらい間があいて。間をおいてから、頼は桜の花弁のような儚い笑みを浮かべた。
頼がそんな顔をするのを見るのは初めてのような気がした。
「そうだな、何もしてない奴の言葉だな――よし、俺についてこい。祖父さんから聞いた、お前専用の時間巡りを教えてやるよ」
俺と頼は、リカオンの部屋を出て行く――カシラ号まで歩いていく。
雪がもうすぐ降りそうな空模様だったけれど、頼は「降らねェよ」って自信満々に告げた。
「答と問の言い伝え。雪が降るときは、神隠しみたいな不吉が起きるときだ。
だからこの島では、白いテメェを嫌うンだろうな。雪みたいで、淡くて、不吉だと信じて」
頼は港に着くと、トランシーバーを持ったおじさんに手をふって。
何か物思いに耽るように遠くを見つめ、雲の先。空の奥を見つめているような気がした。
宇宙を見ているって言われても驚かない、それ程に深みのある瞳だった。
波止場へ歩くと、丁度カシラ号が船を出すところで、運良くオレと頼は乗った。
落ちないようにと、頼はオレの手を引っ張ってくれて、乗ったときに船が小さく波に揺れた。
碇を上げて、出航の準備ができると、頼と船長は二人で雑談していた。
ゆっくりと船は最初に進み、徐々にスピードを出していく。
飛沫を生み出し、船は進む。徐々に飛沫の量が増えていく。爽快な色の飛沫が。
船は汐淡島で一番かっこよくて、いい「女」だった。
時々頼達から笑い声が聞こえたが、オレはこれから向かう汐淡島を見つめ続けていた。
遠くから一際目立つ大きな神木が山にある。樹齢千八百年と木目から読んだことのある樹。千八百年の樹の周りの樹も小杉ばかりで、凛々しくて、国有林八十%の理由が、何となく分かった。
島が近づくにつれ、不思議な気持ちが募っていく。
勇気がわいてくるんだ、これからどんな出来事が起きても、向かっていこうって。
面と向かっていって、それで駄目でもいいさって思えてくる。
ディースの運命を変えるにはきっと過去を変える必要がある、皆が気にしてる過去を。
ディースが見せてくれたあの写真の時代に、何かが起きたのだろうと思った。




