時間旅行
チーズケーキを食べ終えて、紅茶も飲んだ。
紅茶にはミルクと砂糖をいっぱい入れて、甘く甘く仕上げた物を飲んだんだ。
リカオンは、「この紅茶、蜂蜜も良い味になるんだよ」と笑って、チーズケーキのお代わりもくれた。
一息つくと、リカオンは時計針のない時計と、くまのぬいぐるみを持ってくる。
時計盤には数字が刻み込まれて、何分なのかも判るメモリもついている。
ただ、秒針など時間が何時なのか判らない仕様だった。
「汐淡島の時計台にも、針はないだろう? それはね、こうする為だよ――」
リカオンの手にはトンカチ。トンカチでその時計を叩きつぶそうとする――しかし時計盤は壊れたりしない、がしゃんと音は鳴るけれども。
時計盤が叩かれた振動で、周りの景色がぶれた気がする――どうしてだろう、と思っていると。先ほど乗ったカシラ号のように景色がどんどん変わっていく、ぐるぐる周りの景色が変わっていく。
変わらないのは、オレとリカオンだけ。
「時間に干渉する方法なんだ。汐淡島でやったら、あれは大きいからきっともっと何かができるだろうね。たとえば、未来を変えるとか。でもそれをやるとまたタイムパラドックスが起きる。そしたら君は消えてしまう、私も。だから禁止だ、いいね、約束だよ」
ぐるぐると朝と夜が繰り返されていく、何百回、何千回。
そうして、ようやく外の明るさが落ち着いた頃に、リカオンがオレの手を引っ張って外へ飛び出る。くまのぬいぐるみを抱きかかえながら。
剥き出しの黒い階段を駆け下りて、オレは転ばないように引きずられて。
頼がリカオンを呼び出した路地裏にまで出ると、リカオンは狭い隙間から見える、白い豆腐のような建物を指さす。
「早めに行こう、いずれあそこにくる」
リカオンが駆け出したので、オレもそれに釣られて駆け出す。
紅茶を飲んだばかりだというのに、喉がひどく渇く――嗚呼、外が馬鹿のように暑い。
これじゃまるで夏だ、陽炎も遠くに見えて、蝉の声がじーわじーわと響き渡っている。
行き交う人々はオレとリカオンの服装を見ては、「季節外れすぎない?」と好奇心の眼差しで注目している。
十五分くらい走った頃に、豆腐みたいな建物について、リカオンは建物の中に入ろうと手招く。
建物の中に入ると、すーっとする寒すぎるほどの冷気が感じられて、オレはびくっとした。
リカオンは「クーラー効いてるね」と少し暑そうに衣服をぱたぱたさせて、冷気を取り入れようとしていた。
リカオンは時計を見て、小首傾げる。
「……まだみたいだね。喉が渇いただろう? ちょっと待ってて、飲み物を買ってくる」
「……どうしてこんなに喉が渇くんだ?」
食べ物を好まないオレにとっては珍しい欲求なのに。
リカオンは、苦笑して、ポケットから小銭を確認した。
「この時間移動は電車に乗っているようなものさ。時間が物凄い勢いで移動したのは確かなことだから。時間が経てば喉は渇くし、腹は減る。生き物は水分が無いと生きていけない、だから、水は大事だよ。それと食べ物もね。何か買ってくるよ!」
リカオンは爽やかな笑顔を輝かせて、軽やかな足取りで購買と書かれた案内に向かっていった。




