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どうしてとばかり訴える

「ディースが死んで寄付をすればあの島は潤う。時計台があれば、あのお金は島に入ってくるのが確実だからね。遺言の一部に、時計台への大きな寄付が書いてあるはずだ、あいつのことだから。答と問、どちらがあの時計台を管理するか争ってるって知ってるよ。財産が欲しいなら、君としてはあの島にいたくないんじゃないのか?」


「点数稼ぎにはいいだろ、孫が独り身の祖父さんを世話するっていう構図も世間体には丁度良い。孫らしく見える」

「ほら、やっぱり君はずるい、待てよ――でもそうだとすると、君の狙いが判らない。本当に無欲で千鶴に出会ったのか、それとも……梨花やシンちゃんのためかい?」


「――ばーさんには関係ねえよ」



 頼はチーズケーキには手をつけず、紅茶にミルクを落として、砂糖は入れずにティースプーンでかき回した。

 暖かい紅茶を啜ると、息をついて、視線を窓辺へと投げかける。

 頼の様子にオレはひたすら混乱し続けた。ディースの存在は大事じゃなかったのか、と裏切られた思いがずっと心の中で蹲っていた。蹲り続け、誰も手を差し伸べない。


 誰一人として、頼はディースを大事にしていると保証してくれない。


 オレはチーズケーキを食べる気力も、紅茶を飲む気力もでなくて、俯いた。

 頼が椅子から立ち上がる音が聞こえる。


「俺はもう梨花のところに行ってそのまま帰る。ばーさん、千鶴を預かっててくれ。――その様子じゃ、帰りづらいだろ?」

「……頼……」

「千鶴、俺の家を選ぶかどうかはお前が決めろ。お前の人生まで知ったことじゃねェ。お前の行き先はお前が決めるんだ、祖父さん達が心配するこたぁねェんだよ。お前はガキじゃねェんだ」

「リトル!」



 リカオンが唸るような警戒心を露わにした怒鳴り声をあげて、頼に注意する。

 俺は顔をあげて、咄嗟に頼と目が合ったが、見つめ続けられず瞳をそらした。


 どうして頼はいきなり攻撃的になったのだろう。

 最初に出会った頃の頼はもうちょっと余裕があった――今は、何だか精神的に余裕が無くて焦っているみたいだった。


 頼は紅茶を立ったまま飲み干すと、乱暴にティーカップを置いてそのまま去っていった。

 リカオンはオレをじっと見つめていたかと思えば、オレの大きく切り分けられたチーズケーキをフォークで小さく分けて。

 その一欠片を、オレに「あーん」と向けてきてにっと笑った。



「お食べよ。食べないと、元気はでないんだ。食べる行為は生きると言う行為、なら君は絶対食べなきゃいけないんだ。私もディースも君に生きて欲しい、今度こそ」


 どういう意味だと問いかけても、今はこの一欠片を食べないと何も言ってくれなさそうだった。

 オレは顔を顰めてしまうのを自覚しながら、小さく口を開けて、チーズケーキを食べた。


 最初にふんわりと甘みが広がるけれど、スフレ生地の良さが生きているのか、甘みはすんなりと溶けていく。咀嚼すれば、ほろりと雪のように消えていく。

 チーズの味だけは独特で、後を引いているが、それでも不愉快でない匂い。

 淡い甘みに不思議で軽やかな食感、トランポリンで跳ねているようなふんわりとした味わい。

 なぜか――なぜかもっと食べたくなった、ディースが見たら驚くだろう。

 オレがこんなに食べ物に執着する姿はついぞ見せた覚えがない。

 オレは自分のフォークでチーズケーキを食べる、食べながら、何かがしょっぱく感じる。


 心の奥底がつきんつきんと傷むのを感じて、フォークを噛んでしまう。

 ほろろと溶けていくのはチーズケーキの甘さだけではなく、オレの涙も空気に溶けていきそうだった。


「ディースは本当に死ぬの? 何で死ぬの?」


 オレは泣きながら喚いた。嫌だ嫌だと駄々をこねるように、騒いだ。

 リカオンは少し考え込んでから、紅茶を啜った。



「見たほうが早い。君と私は時間旅行ができる。ディースの死ぬところも見られる。見に行こう、それを食べ終えたら」

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