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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第一章ー こちらにお掛けください、食前酒はどうなさいますか?
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ヨダカの星への想い

 冬休み中は、自宅の書庫で本を読んでいた。大掃除はもう終わったし、今年も若葉に手伝って貰ったから、思ったより早めに終わった。若葉は家に帰る時間を少しでも遅くしたいらしく、うちでお茶を飲んでいる。ママ達は年越しの準備で買い出しに向かったから、今は私と若葉だけだ。

 若葉に書庫へ行くと伝えた後に、ゆっくりと本を読んでいた。本を読むのが私は大好きで、何か本を手に取る度、痛烈に切ない思いが過ぎるが何故だか判っていない。

 それはバーに手を伸ばして、「お星様」を求めてる時と同じような気持ちだった。

 家族は飛べなくなったと言うと、気まずそうにしていた。でも、暖かい空気でいつも帰りを待ってくれていた。

 最初に飛べなくなった日に、家族が「おかえり」と言っただけで安心して泣きわめいたときもあった。

 私はまだまだ弱い。強くなりたいなぁって思いながら泣きわめいた。



 お祖母様が夏にくれた本が非常に懐かしい思いがする。特に「宮沢賢治集」が懐かしかった。

 「ヨダカの星」という話を見ると、私はいつも泣いてしまっていた。

 ヨダカの星という話は、ヨダカが醜い見目のため改名しろとまで言われ、生きる意欲を失って星になりたいと願い、空に飛び続けて夜空に輝くようになった鳥の話。

 ヨダカの星という話は、悟り、についての話にも見える。

 生きていく上で生き物を食べなければ生きていけないというのならば、食べ物を食べたくない、という展開が一種の悟りだと言われている。

 大勢の虫を食べなければ生きていけない事実を、苦悩として捉えたヨダカに私は懐かしい何かを感じるのだ。

 自分のようで自分でないような、懐かしい何かを。

 ヨダカは太陽やオリオン座にお願いをしても、星になりたいという願いは叶えてくれなかった。

 宮沢賢治のこの話には仏教的な要素が色濃く見える。輪廻転生といわれるものだとか。

 自己愛も覗える。この世で誰にも愛されないのなら、天界を願い、天に行けば皆から愛されたヨダカ。

 最初は、名前すら否定されて「市蔵に変えろ」などとむちゃくちゃを言われる、悲しいほどに嫌われた鳥。


 ヨダカ、ヨダカ――何かを思い出しそうになるけれど、何も思い出せないんだ。でも、君もお星様なんだねヨダカ。

 他にも「注文の多い料理店」という話がとても懐かしく、ヨダカとの感動とは違う寒気がした。

 この話は、二人の男が腹が減ったので山中にある料理店に訪れて食事をしようとしたら、自分たちが食べられる側だった! という話だ。

 話が後半になるにつれ、目を離したくなるような思いに駆られる。私はいつもこの物語の結末を読む度に、自分だったらどうやって回避するのかと悩んでいた。

 食う側かと思っていたら、食われる側だったという展開はおぞましい。いったいいつ予想できるだろうか、自分が調理されているのだと。

 無知というものを隠そうとする見栄も見える物語だと思う。知らないからこそ、料理される側になってるとも知らずに、案内に従ってしまう無知さ。

 騙す側と騙される側の勝負なんだ、これは。弱肉強食とも見えるし、ただの騙す手口にも見える。

 兎に角斬新な本だった。

 食われる側なんて登場人物だったら気づけるわけがない、だからこそ私は余計に回避方法を考えてしまう。

 実際に起こりうるなんて、あり得ないはずなんだ、本来は。

 だって、「物語」なのだから。フィクションだ、それでも現実味のある言葉は私を恐怖へ誘う。山猫軒、恐ろしい場所だ。絶対に関わりたくない。

 関わりたくないから、読むと情報を何もかも忘れていた。覚える必要なんてないと思ったから。

 ヨダカの星も、料理店も全て忘れていた。世の中には決して無駄な知識なんてないんだって私は知らなかった。愚かだったんだ。


 冬休みの正月前。大晦日頃に、私と若葉は待ち合わせをした。

 待ち合わせなんてしなくてもすぐ会える距離の家なんだから別にわざわざ待ち合わせしなくてもいいのだろうけど、私は待ち合わせという単語のほうが若葉の兄への牽制になるんじゃあないかと考えた。

 外へ出かけるのが周囲に知られているんだぞ、若葉が家を出るのは止められないぞ、と。

 クリスマスにでかけるのでは、誤解されるから、お互いの家族に。友達として通じるのはこの時期だと思ったんだ。

 私は彼氏というものが欲しくなかったし、若葉にも好きな女の子ができたときに私と噂を立てられれば厄介だろうと思った。

 そんなの可哀想だろ? 真実ならばともかく、嘘の噂は。噂に真実を求める輩なんていないのは知っているが、それでも可哀想だと思う原因は消しておきたかった。

 街は賑わっていて、一年の終わりが近づいてるんだって実感できる程の、せかせかした空気は嫌いじゃない。

 電飾がいつもより輝いて見えるし、店の近くには「大晦日売り尽くしセール」とか幟も多い。

 一年で一番好きな日だ。大晦日は、新しく始まる前に、何もかも全て今までの月日を凝縮したような感覚がする。懐かしさを思い出して、と言われてるような。

 走馬燈のように一年間の行事を思い出す季節だなぁっていつもわくわくする。

 冬独特の、寂しい風の匂いが余計に多くて、侘びしい気持ちが匂い立つ。

 何となくその寂しさが好きだった。

 若葉はボストンバックにたくさん衣服を詰め込んで、眠そうにしていた。


「あ、リカオンちゃん」

「やぁ。今年もあと少しで終わるね、今年一年お世話になりました!」

「まだそれ早いよ」


 息が白くて、コートを着ていても寒さが伝わる。指先がちょっと外にいるだけで悴む。

 駅前だからか、人が賑わっていて皆は、明日来る来年の話をして鬼に笑われる。

 カップルだけじゃなく、帰省の家族が目立っていて、新春にどこかへ行くんだって駅前にいると皆の幸せや楽しみが判った。

 これから親族の元に向かう家族も多いのだろうな、家族と年越しも楽しいけれど、友達と年越しも楽しいものだ。


「それじゃいこうか」


 苦笑を浮かべて、ぽりと頬をかいてから、ニット帽の位置を調節しなおす若葉。

 頬には休み前に会ったときと違う位置に、包帯やカットバンがあって私は胸に鈍い痛みが突き刺さる。

 私はどうして大事な人を守れないのだろう。どうすれば、何もかも守れるような王子様になれるのだろう――そんなことを考えて、電車に乗った。

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