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リトルの計算

 アールグレイの茶葉を蒸らして、ゆっくりとお茶を淹れるリカオン。

 机の上にはチーズケーキが置いてあって、頼は小さいのにオレの皿にある物だけは、どんとでかく切り分けてあった。

 リカオンはにこにことしてお茶を淹れてティーカップを此方へ寄越すと、席に落ち着き、瞳を伏せた。


「そうだな、何から話せばいいか――……ディースは私の存在を何て言ってるんだ?」

「双子の妹で、死んでいると」

「……あの人は隠したかったんだね。私はね、千鶴、ディースが君に願った結果なんだ。ディースは今でも後悔している。だって、まさか君が自分を許して存在を消すなんて思わなかったんだ。いや、あれは願いというのかな……君はとにかくディースを助けるために、色んな不条理を見続け、乗り越えたんだ。君は時間に反した。タイムパラドックスが起きて、君は罰のように消えた。他人のために時間をねじ曲げた君を、世界は許さなかった。汐淡島の時計台を知っている? あの時計台が今の君なのさ。君は時間を自由に操れる、時計は時間と友達だからね。とある者の願いで、君の誕生をもう一度世界は許した。君は昔ディースを守る為に時間と喧嘩をした、君は……人間じゃない」



 リカオンは最後にしみじみと言ってからはっとしたように顔色を変えて、明るく笑い飛ばした。


「まぁ人間じゃなくても私とディースは君が大好きさ! 君は……いつだって私達を助けようとしてくれたからね、深刻な打算もなく。まぁ、ディースが君に願ったお陰で、私は君と同じような存在になった。ずっとね……ずっと君に会いたかったんだ……私達は。これでディースも悔いなく逝けるだろう……」



 リカオンの言葉は何一つ現実味がなかった。

 よく判らない話だし、オレの話だって言われても他人事のような感覚で、どこか遠いんだ。絶対に近寄らない話だった。

 けれど最後の一言は、オレをリカオンに近づく勇気をくれた。

 勇気という名の恐怖。



「逝ける……?」

「ああ、それもあの人は隠しているんだね。あの人は……ちょっとねもうすぐ死ぬ運命なんだ」


 リカオンはしまったという表情で気まずそうにオレに教えてから、はっとして頼へと視線を向けて、頼を睨み付けた。

 名前の通り、狼を連想するような圧迫感――リカオンが睨み付けると迫力が凄かった。


「リトル! 君はまさか千鶴に願うんじゃないだろうね!? タイムパラドックスを!」

「――さてな」

「その為に知り合ったと言い出したら、君を海に突き落としてやる。それだけじゃ許さないよ、正直に言いなさい!」

「……接触してこようとしてきたのは、千鶴からだぜ。ずっと俺を遠くから見てたから、声かけてやった。あとは事情を知ってた、それだけだ。俺は祖父さんが死んだほうが得する、遺産はアンタに入らない。世間ではアンタは死んでいる。大体は俺に入ってくる、そんな俺があの祖父さんの寿命を願うと思うのか?」



 頼の言葉はオレに衝撃を与えた――ディースをそんな風に見ていたのか?

 今まで、頼はディースの存在を好きだと思っていた、祖父だからこそ好きなのだと。

 オレは言葉を失って、俯いてから、また二人を見比べる。



「――君は昔から狡かった。君の気を引こうとする答と問同士を争わせて、互いに牽制させておいて、両者に欲しい物を持ってこさせてきた。君は答も問も嫌っていて、どちらの派閥にも入る気が一切無いのに、だ。ディースが叱ってからは、答も問もぎこちなくはなったがな。答も問も君を手に入れるのに必死だ。ディースの財産がかかっているからね」



 リカオンが睨み付けるのをやめて、紅茶を啜ってから、チーズケーキに手をかける。

 スフレ生地のチーズケーキはフォークで切り分けるのも簡単そうで、頬杖をつきながら、リカオンは口にした。

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