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過ぎる鮮烈な赫(あか)

「リトル! どうしたんだね! また君の島の奴らと揉めたのかい? それとも梨花にふられたかい?」



 頼に話しかけるリカオンの姿は若々しく、十代の娘そのもので、どこからどう見ても若者だ。

 ディースの話であれば、ディースと同じ時代を生きていたから、年老いているはずなのにリカオンの声も見目も何もかもが瑞々しい。

 明るく活発に笑ったリカオンへ、頼はむすっとする。


「うるせぇ! アンタの仲間、連れてきた」

「おや? ――君はッ、千歳! 千歳じゃないか!」


 リカオンは目を見開いて花火でも見るように喜びながら驚いて、窓に足をかける。

 ここからだとミニスカートが見えそうで心配になる。いや、それよりも何をするつもりだ?!

 リカオンは窓からふわっと羽根のように軽く飛び降りて、それを頼が受け止める。


 頼はリカオンを下ろすと、腕をぶんぶん振って痺れから逃げさせようとしているようだった。

 リカオンは数秒オレをまじまじと期待の籠もった目で見つめていて、オレが言葉を口にしようか悩んでいるのに気づくと、ばっと両腕を大きく広げてから抱きついてきた。


 飛びつくように、ぎゅっと勢いよく抱きしめて、またオレには判らない名前を叫んだ。


「千歳! 久しぶりだな!」


「ばーさん、記憶抜けてるんだって。今は千鶴って名前だ」

「そうかそうか! いやはや元気そうで良かったよ、あの日君が消えて私と頼はひどく心配したんだ! ああ、この頼じゃなくてね、ディースだよ。君の言葉で言うと、ディース。判るかい!? 私を忘れた? 皆も?」


 どうして、オレが頼のお爺さんをディースって呼んでるって知っているのだろう。

 それよりもこの口ぶり、オレを知っている――?

 頼が隣にいると、双子のようにそっくりだけど、リカオンは女性らしい丸みがちょっと判る。

 瞳も鋭くない、聡明な丸い瞳。


「オレは知らない」


 頼の主張も、この女性も知らない。皆って誰だ?

 オレの知らない「オレ」を知っているリカオンに、オレは少し怯えて声が震えた。

 オレは自分の存在が何なのか一切知らない、興味なく生きてきた。

 オレが何なのかを知っているだろう存在ができた現実に、一気に臆病になっていく。

 リカオンはオレが怯えているのを察すると、微苦笑した。


「……話すと長くなるんだ。今日は時間があるかな、リトルは? ああ、千鶴は聞かなくても判るよ。君と私は時間が自由だからね! 千鶴、何より君と再会できて私はこの上なく嬉しいんだ……千鶴、一緒にお茶しよう。そうだ、チーズケーキもある、君が好んで食べてくれた私の作った御菓子!」


 オレはめまぐるしい展開についていけず、頭の回転が鈍くなる――頼を見やると、頼はにやりと笑った。

 ようやくうまくいった、そんな風に言いそうな表情。

 二人を見つめて、オレは何か頭の奥に過ぎった――何か、若々しい声が過ぎる。



『一般人はここでお終いだ――』



 声が過ぎると同時に、フラッシュバックする、黒い影と紅いもの。

 黒い影に、赤いイメージが付随する――思い出したくない、オレは無意識に目を閉じた。


「その様子だと――」


 リカオンのうらさみしげな声が聞こえる。


「あの人のことも覚えてないんだね。あの事件も」




 ――金色の優しい笑顔。

 写真で見た若葉の姿に色がついて、脳裏に笑顔が過ぎる――。

 それから、頼の姿をした、頼じゃない人物も――大きな時計も。

 気づけば、瞳から雫が滴っていた。

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