人じゃないと切望する声
「祖父さんは嘘をついているんだ、お前に」
「ディースがオレに嘘を?」
ディースはオレにとても優しい。嫌いな食べものがあると工夫して細かくして食べられるようにしてくれたり、それでも食べなければ入れないでくれたり。
それにディースと過ごす時間は穏やかでオレはとても好きだった。
ディースが寝る前に話してくれる、シンデレラや白雪姫という絵本は、とても面白い。ディースの読み方も穏やかで、オレはディースと遊ぶのがとても好きだった。
ディースの話に出てくる魔法使いや、鏡の精霊はとても魅力的だ。
シンデレラの魔法使いには一度会ってみたいと思うほど。きっとディースは魔法使いなんだ、ディースは魔法使いだから自分の仲間を事細かに語れるのだろう。
「祖父さんはお前と会ったことがあるし、リカオン婆さんは生きている」
人が通らない路地裏を通りながら、頼は話した。
オレは思わず立ち止まるが、頼の足が止まらないのを知ると、慌てて背を追いかけた。
並びそうな頃に歩幅を合わせて歩こうとした。人目がないので、なんとなく帽子を取った。
誰もいない路地裏の先に黒猫が二匹いて、仲睦まじく寄り添っていた。
ゴミ箱が転がっていて、そこからは黒いゴミ袋が飛び出ていて、少しだけ臭い。
配管が剥き出しで複雑に絡み合い、どこかの家や店の裏へと繋がっていく。
「祖父さんはな、若い頃、お前に出会って願いを叶えて貰った」
「――オレは、ディースと若い頃に出会えるような年齢ではない」
「いいや、出会える。お前はだって人間じゃない」
頼の言葉が冷たい音で響いて、オレをふと振り返る、その瞳はディースに見せて貰った若かったディースの冷たい瞳そのもので。
いつも頼は暖かい目を持つのに、どうしてだろうと首傾げ、ふと気づく。
冷たいけれど、どこか熱を帯びている瞳。何かを切望しているような瞳。
「お前は、人間じゃない」
そんな風に言い切っているのに、どうかそうであってくれと願うような祈り。
オレは自分の胸に手を置いて、頼を少し恐れる気持ちで見つめていた。
「どうして? オレの髪が白いから? オレの目が赤いから?」
「見た目じゃない。その言葉は俺は大嫌いだって言ってるだろ? お前の周りは時間が自由だ、だから祖父さんの願いは叶えられた。俺は昔、祖父さんから寝物語にお前の話を聞いていたんだ。時間を操るお前の話――リカオン婆さんに会えば、判る。判るしかない、あの人はお前と同じだ。時間が自由だ。あの人はお前に会いたいばかりに、〝死〟を失った」
頼はオレにレモンの皮を噛んだときのような苦みの残る片笑みをしてから、路地裏の壁伝いにある窓を指さす。
頼は、窓に向かって「ばーさん」と声を張り上げた。
窓からは――オレは心臓が止まる思いで、窓を見つめた。
息ができない、呼吸を飲み込む、数秒瞬きできない。
窓には――ディースが持っていた写真の姿のままである、若い女性がやってきて窓からオレと頼を見下ろしている。




