老人との〝再会〟
簡単なロッジのような、小屋だった。
「薫製を作るときはこの小屋に寝泊まりするんだ、俺の家の一つ」
頼は自慢げに紹介すると、小屋の扉に手をかけて、ドアノブを捻った。
扉を開けて中へ入ると、リビングチェアに腰掛けて暖炉にあたってる老人が目に入った。
オレは頼の背中に隠れてから、顔を少しだけ覗かせてきょろきょろする。
写真が幾つか並んでいて、そのどれも青年と双子が写っていた。
双子は今の頼にそっくりだけど、写真の古さが現代のものではないと語っていた。
他には色んな動物の剥製が並んでいて、オレは少しだけ怖かった。少し古ぼけた絵画もあった、緑色のドレスを着た女の子の絵だ。
小屋は案外広そうで、奥にも扉が続いていそうで、恐らくそちらは寝室や風呂だろう。
老人は白い髪の毛に、彫りの深いけれど少し若々しい顔つきで。白い髭を生やしていた。
「リトルかい? おちびちゃん。おかえりなさい」
「その呼び方やめろっての、祖父さん。客連れてきた、祖父さん知ってるぜ多分」
「誰だね……おや、リトル。君は――私の話を覚えていたんだね」
「時計台って言ってたからぴんときた」
オレには判らない話を二人はしていた。オレはどうしたらいいか判らないし、やけに懐かしげな頼のお爺さんの視線が気になって、頼の後ろにまた隠れた。
隠れて、頼の衣服を怯えるように握っていた。
「怯えなくて良いんだよ、誰も君を虐めない。虐める奴がいても私がそうさせないさ」
老人はしゃがれた声でふふふと上品に笑った。
「食事はしてきたね、この時間では。リトル、お前は風呂にいくといい」
「んじゃまた後でな、千鶴」
頼はオレの手を解いてあっさりと風呂があるらしき部屋へ向かった。オレを置いていくのか、オレとこの人を二人きりにするのか。
オレはおろおろとし続け、びくびくとしていた。人慣れしてないというのはこんなにも不便だったのか、と少し申し訳なく思う。
頼のお爺さんは気にした様子はない。
「あれのことを頼と呼んでいるのだろう? 私も同じ名前でね。皆から同じ名前を呼ばれていたんだ。だからリトルって呼んでるんだあれを。同じ名前では呼びにくいだろう? 昔はあの子は他の子より小さくてね、可愛かったんだ。おちびちゃんって呼ぶと昔は喜んだのに、今だと怒られる。そうだな、私のことは……君にはディースと呼ばれたいな」
「ディース? わかった……オレは……ええと、さっき頼がつけてくれた。千鶴という名前だ」
「つけてくれた? 君は名前が判らないのかな」
「記憶喪失なんだ」
「……そうか、無理に思い出そうとしなくていい。では私は君をちーちゃんと呼ぼう。いいかな、ちーちゃん?」
「ち、ちーちゃん? 別に構わない……」
名前ができただけでも驚いたのにあだ名がついて、オレはどっきりした。
夢のような出来事ばかり起こっているんだ、帰る家があるという暖かみを少し分けてもらえたかと思えば、優しく出迎える人の温かみまで教えてもらって。
他人の暖かい家に触れれば、孤独をより一層実感するのだと思っていた。
けれどこの家の人は、オレに毛布で包み込む温もりをくれるんだ。
……とても。とても、言葉にならない感情だ。
ディースに対しておどおどとし続けるのは、もうやめることにした。
もっとこの人と話してみたいって思ったんだ。
オレは、部屋をきょろきょろ見回しながらディースの側に近寄る。
「ディースの奥さんは? 息子さんは?」
「家内はいない、ここには。息子も死んでいる。家族は今はリトルだけだよ」
ディースは昔を振り返るような目つきで飾ってある写真を見つめ、指をさして「とってくれ」とオレに頼んだ。
オレは青年と双子が写っている写真を手に取った、何だか……不思議な印象。
遠いけれど近い人達のような、不思議な印象だった、写真に写っている人達を見るのは初めてだというのに。




