赤毛との遭遇
オレはそいつと話してみたかった。一度で良いから話してみたかった。
この時間帯に港へ来たのも、男が帰ろうとするまで港にいるのがこの時間帯だからだった。
男はなぜか遠くから島の人々を、悲しそうに見つめていた。
オレがそいつと話してみたいと思ったのは、他の島の人々は「いつも幸せ」と顔に書いてあるけれど、そいつは「今が幸せだとは思わない」という印象の表情をよく浮かべるからだ。
この島にある物を見ているとは思えない、一歩引いた態度で大人たちと話し、大人達が笑っても愛想笑い以外しない大人びた雰囲気で、独特な人付き合いだと思った。
端から見れば愛想笑いだと判るけれど、話してる人達は愛想笑いだと気づいてないのが、すごいと感じたのだ。
ああ、あともう一つ大事な理由は、オレに石を投げない。
三ヶ月くらいはそいつに声をかけようとしては勇気がでなくてかけられない期間だった。いつも今日こそは、今日こそはと思っていても声がかけられない。
もしも石を投げられたらどうしようとそればっかり脳裏に過ぎって、怯えてしまう。勇気がでないんだ、石を投げないのは偶々なんじゃないかって。
オレはだって、世界で一番醜いんだ。どう説明すればいいか判らないけれど、きっと醜いんだ。――そんな風に考えないと、石を投げられる意味が分からないじゃないか。
話しかけられて迷惑だって思わないだろうか?
今日も三十分くらい陰に隠れて、じっと見つめていた。
勇気が、勇気が欲しい。何か途轍もない大きな勇気じゃなくていいんだ、日常を一瞬だけ変えるおまじないのような、勇気が欲しいんだ。
ちょっとだけでいい。自分を一瞬だけ強くしたい、ちょっとだけ。
今は暗いし、髪色で怯えられる心配はないのだって判るけれど――でも、やっぱり勇気はでなかった。
オレはそいつを遠くから見るのをやめて、逃げるように山へ向かう。
山には川があるから、川をいつも風呂代わりにしている。
この季節は季節を感じてしまうような寒さだから、好ましくはない。夏のような暖かい川のほうが好きだった。
山へ向かって歩く途中で、緩く流れる川を見つけた。川沿いには丸太や枯れ木がごろごろ転がっていて、川に流されて此処へきたのだと判る。
衣服を着たままそっと川に入る――冷たくて、小さくくしゃみをする。
でも川の中にいると、どんどん水の中のほうが暖かく感じて、名残惜しくなっていくから不思議だ。
この島は夏でなくとも暑い地方だから、こんな冬に近い季節でも川の中は慣れれば入れないことはない。
川から出て、変装して買った百円ライターで火を起こす。焚き火をして服が乾くのをがたがた震えながら待つ。
「誰かいンのか?」
人の声だ――オレはびくっとして、思わず声がした方角へ視線を向けると、オレが声をかけようと悩み続けていた対象がいた。
火が男を照らし、男はこの島の人にしては珍しい赤毛を掻き上げた。
オレと目が合うと、赤毛の男は瞬いてから、「まぁいいや」と小さくごちり近づいてくる。オレは逃げようか、でも逃げたら火の始末をどうしようか迷いながら、びくびくしていた。
「火があるなら話が早ェ、肉ならちょっとくれてやるから、火貸してくれ。家で食うより、ここで焼いて食ったほうが楽そうだ」
「…………あ、ええと……」
オレは緊張からなんと答えて良いか判らなかったが、赤毛の男はどう見ても返事を待っている。




